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化学者のつぶやき

光触媒が可能にする新規C-H/N-Hカップリング

こんにちは、ケムステ読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか。筆者はこの時期、化学会年会の終わりで一年の終わりと新年度を感じます。今年は年会が早かったので早く感じすぎました苦笑。

ところで皆さん、『Chem』読んでいますでしょうか!?以前Chemに掲載された研究を1つ紹介しましたが(詳しくはこちら)。しかし残念ながらまだまだChem自体の認知度は大変低いと思われます…

そこで私が勝手ながらChem宣伝隊長となって、今回もChemに掲載された論文を取り上げたいと思います。今回ご紹介するのは名古屋大学伊丹研究室から報告された光触媒を用いたカップリング反応に関する論文です。

“Catalytic Dehydrogenative C-H Imitation of Arenas Enabled by Photo-generated Hole Donation to Sulfonimide”
Ito Eri, Fukushima Tomohiro, Kawakami Takahiro, Murakami Kei, Itami Kenichiro
Chem. 2017, 2, 383. DOI: 10.1016/j.chempr.2017.02.006

しかも、なんと今回はカバーピクチャー!!こんな綺麗な絵がどうやったら描けるんだ…と私自身非常に興味が湧き、著者の方々に直接お話を聞く機会があったため、今回は特別に筆頭著者の伊藤江里さん村上慧特任准教授にご協力いただき、スポットライトリサーチ風インタビュー形式で論文をご紹介することにしました。

Q1. 今回Chemに掲載されたのはどんな研究ですか?

村上「芳香族の炭素–水素(C–H)結合の直接変換による芳香族アミン(イミド)の新合成反応を開発しました。芳香族アミンとは、医薬品や有機エレクトロニクス材料などの機能分子の重要な構成要素であり、私たちの豊かな生活に欠かせない分子骨格です。この分子骨格をいかに効率的に合成するかが、現代有機化学の命題であり、精力的に研究が行われてきました。

今回我々が開発した手法では、光触媒を用いることにより、市販の芳香環の炭素–水素(C–H)結合を直接的に炭素–窒素(C–N)結合に変換し、一段階で芳香族アミン(イミド)を合成できます。導入できる官能基としては、イミド基に限られていますが、望むアミノ基に誘導可能であり、実用的なアミノ基等価体であるといえます。さらに、本手法の確立により、これまで合成困難であった様々な芳香族イミド分子にアクセスが可能であり、未知の生物活性分子の創生が期待されます。」

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

伊藤「反応機構の解明にCVを用いたところです。反応機構を提唱する際に、共著者であるJST-ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクトの福島知宏博士に、混合系のCVを測定することで反応機構を追ってみたらどうか、と提案していただきました。初めてのCV測定は苦戦を強いられましたが、最終的に想定している機構と整合性のとれる結果が得られた時の感動は一生忘れられないと思います。」

村上「原点には、「すべての分子が適用できる反応を作りたい!」という思いがあります。鈴木–宮浦カップリングのように、何かを作ろうとした時に、一番に選択できるような力強い反応です。その思いを胸に、前身テーマとして、銅触媒による芳香族イミド化を報告しました[1]。

それは、幸運にもポルフィリンなどの大きな分子や生物活性分子も適用可能な反応になりました。しかし、導入できるイミド基に制限がありました。しばらく検討したのですが、最終的に今回の光触媒系の発見が、自在イミド化の決め手となりました。」

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

伊藤「研究室で初めて光反応に挑戦したことだと思います。本研究、実は株式会社ケイ•アイ研究所の有末芳さんに光反応用の装置を組み立てて頂くところから始まっています。

プロジェクトを始めた当初は、当研究室内で光反応はそれくらい馴染みのない研究でした。光触媒で反応が促進されることが明らかになってからは、自ら光反応について勉強をして条件検討を重ねました。私達にとって初めての光反応でしたので、村上さんと二人三脚で探り探り研究を進めていきました。」

村上「銅によるイミド化を行った時に、触媒活性種がイミジルラジカルであることはわかっていました。したがって、単純なスルホンイミドから如何にラジカルを発生するかが問題となります。

初めは銅触媒を用いて検討していたのですが、全くうまくいかず、方針を変更しました。伊藤さんも書いていますが、有末さんが光装置を導入し、手近に使えるようになっていたのがよかったです。反応機構についても、福島さんの貢献なしには、まるで分からないものになっていたと思います。あわせて感謝したいです。」

Q4. 今回のカバーピクチャーはどのように作成したのでしょうか?

村上「サイエンス・グラフィックス株式会社のカバーピクチャー作成サービスにお願いし、辻野さんというイラストレーター(代表取締役社長)の方に担当して頂きました(詳しくはこちら)。

流れとしては最初こちらから原案を送り、それをベースに綺麗なグラフィックの絵を描いてもらいます。それを見て修正点や要望等を電話で話し合い、納得がいくものに仕上げていくという感じです。実際今回は最終版になるまで合計3枚描いていただき、素晴らしい絵になったととても満足しています。」

Q5. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

伊藤「もちろん新しい反応や分子を創造していくことにも興味はありますが、今はそれと同じくらい趣味であるイラストと化学を融合させることに興味があります。今回カバーピクチャーの原案を描かせていただき、好きで続けているだけの自分の趣味が化学の面で役立つと知りました。それがきっかけで、化学に興味のない人でも感覚的に理解することができ、化学に対してより多くの人に興味をもっていただけるようなイラストを描けるようになりたいなと思うようになりました。将来は色彩やCGなどをしっかりと勉強し、趣味を化学の貢献に活かしていきたいです。」

Chem原案

村上「これからも引き続き有機化学、特に反応開発の分野に関わっていきたいと考えています。ある分子を合成しようとしたときに、私達が開発した反応が第一選択として挙がるような広い適用範囲、高い選択性を有する新たな合成反応になればいいですね。また教員として、科学を通じて、新たなリーダーを生み出せるような教育をしていきたいと思っています。」

Q6. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

伊藤「実験をする上で、ある日村上さんに言われた「実験は美術と一緒で、自分を表現する場だ」という言葉を大事にしています。それまで実験を「模範解答のある機械的なもの」として考えていた自分には衝撃的な一言でした。おそらく自分の反応系を他の人が完成させたら、異なるオチをつけると思います。それならば自由に自分なりの「答え」を見つければいい、そう思った瞬間自分の中で納得がいき、これが自分に向いている実験のやり方なのだと気付きました。もちろんこれは自分の話であり、適している研究の姿勢というものは人それぞれだと思います。自身に合ったモットーを見つけることができたのならば、その人にとって研究がもっと楽しいものになると思います。
長々とお付き合いいただきありがとうございました。最後になりましたが、本研究を遂行するにあたりお世話になりました共著者の皆様に御礼申し上げます。特にCVに関わる機会を与えていただき、また丁寧にCVのいろはを教えてくださった福島さんにこの場を借りて深く御礼申し上げます。また、未熟な私を日々温かく見守ってくださる伊丹健一郎教授、村上慧准教授、伊丹研究室のスタッフの先生方と学生の皆様にこの場を借りて深くお礼申し上げます。」

村上「ここまでお読みいただき、ありがとうございます。化学はどこまでも奥深く、魅力的な学問だと感じます。4回生の研究室配属から10年がたちましたが、いまだ知らないだらけで、学生さんにはよく、「分かったら教えてね」と聞いてばかりいます。研究すればするほど、知れば知るほど、自分が分かっていないことが増えていきます。いつまでも挑戦する大きな壁がある、素晴らしい学問ですよね。この楽しさを、化学を始めたばかりの読者の方にも、是非知ってほしいと思います。楽しむためには、同時に本気で向き合うことも重要ですね。最後になりますが、この場をお借りして、本研究を通して、一緒に頑張った伊藤さん、川上くん、福島さん、またいつもご指導いただいている伊丹さんに心より感謝申し上げます。」

最後に筆頭著者である伊藤江里さんの人柄に関して、伊丹教授からコメントを頂く事ができました。

「この研究は、M1の伊藤江里さんが、准教授の村上慧君と卒業生の川上貴大君のサポートを得ながら、ちょうど1年ほど前に発見した新反応に関するものです。おそらくこの記事にも書かれているでしょうが、2015年に川上君が開発していた芳香族C-Hイミド化反応の機構を解明しようとしている最中、「川上反応と同じ活性種が光触媒を使えばスルホンイミドから簡便に発生できるだろう」というアイディアに基づいて、驚くべきスピードで伊藤さんが見つけてきたものです。伊丹ERATOプロジェクトの福島知宏君(博士研究員)が電気化学的手法を駆使して反応機構に迫る実験を提案・実施してくれました。多彩な研究バックグラウンドとユニークな発想の持ち主である福島君の貢献度は極めて大きかったです。また、名大が誇るノーベル賞、青色LEDの力によって、素晴らしい名古屋反応が世に送り出せたこともうれしかったことのひとつです。そんな思いをChemの表紙に込めました。

この反応を発見した時、伊藤さんは僕がびっくりする顔を見たくて、研究会当日まで内緒にするつもりのようでしたが、全然隠しきれていませんでした(笑)。この反応の発見が、あまりにも嬉しかったんでしょうね。伊藤さんは、これ以外にも実はいくつも新反応を見つけてきていて、「宝探し」の抜群のセンスと嗅覚をもっています。このような学生は、そう滅多にはいません。普段は、沈黙が嫌いで「あはは、えへへ」と常に笑っている研究室のムードメーカーです。でも、フラスコを目の前にすると「見つけたー」ってなるんです。一体、いとえりは何者なんでしょう。。。不思議でしょうがないですが、もっているんですね、彼女は。この稀有な才能がさらに伸びるように、僕はいとえりを伊丹牧場でただ放牧することに決めています!」

いとえり、チーム村上、ガンバレ!

参考文献

  1. Kawakami, T.; Murakami, K.; Itami, K. J. Am. Chem. Soc. 2015137, 2460. DOI:10.1021/ja5130012

関連リンク

研究者の略歴

名前: 伊藤江里
所属: 名古屋大学大学院理学研究科・物質理学専攻 伊丹研究室 修士課程1年
研究テーマ: 「芳香族化合物の直接的イミド化反応」および「新規化合物の有する生物活性」

略歴:
1993年 愛知県生まれ
2016年3月 名古屋大学理学部化学科卒業
2016年4月 名古屋大学大学院理学研究科・物質理学専攻博士前期課程入学
5th ITbM Research Award、2016年名古屋大学若手研究者女性サイエンスフォーラム総長賞、IGER/ITbM Chemistry Workshop 2016 ポスター賞

名前: 村上慧
所属: 名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所 伊丹研究室 特任准教授
研究テーマ: 新しい反応デザインと開発(有機金属化学)
略歴:
1985年 大阪府生まれ、札幌育ち
2012年 京都大学大学院工学研究科材料化学専攻博士課程修了 博士(工学)
2012年 学術振興会特別研究員PD
2013年 京都大学白眉センター 特定助教
2014年 名古屋大学物質化学国際研究センター 助教
2016年より現職
2011年大津会議アワードフェロー、2012年日本化学会年会学生講演賞、2012年The Reaxys PhD Prize finalist、2013年京都大学白眉研究者、2014年日本化学会優秀講演賞(学術)、2015年有合化「武田薬品工業」研究企画賞、2016年ITbM Research award

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ラーメン好きの博士課程の学生。専門は有機化学。反応開発と触媒創製に全力を注ぐ。ものづくりの匠になりたい。
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