[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

第10回次世代を担う有機化学シンポジウムに参加してきました

[スポンサーリンク]

5月11日、12日に大阪大学銀杏会館で開催された第10回次世代を担う有機化学シンポジウムに参加してきました。

 

「次世代を担う有機化学シンポジウム」は日本薬学会の化学系薬学部会が主催するシンポジウムで、「反応と合成の進歩シンポジウム」とともに日本薬学会化学系薬学部会の活動の大きな柱です。本シンポジウムは「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッジしよう」 との主旨で行われている若手研究者による若手研究者のための学会です。今回の参加人数は事前登録が173名で、演題数は口頭発表のみの31題でした。

今回、節目となる第10回シンポジウムだったことから、特別講演として本シンポジウム設立者の一人で第1回実行委員長の九州大学先導物質化学研究所の新藤充先生のお話を聴くことができました。講演タイトルは「イノラートの反応とその展開+次世代シンポ設立経緯について」でした。

 

前半で次世代シンポ設立経緯について話されていました。本シンポジウムが始まった約10年前は若手研究者が口頭発表する場が少なかったことから、本シンポジウムは成長過程にある若手研究者が、自らの成果と今後の展望について自由に口頭発表し、討論することを目的とし、講演者は「自ら考え、自らの手を動かし、自分の目でフラスコを見ている」大学、研究所や企業の第一線の有機化学系若手研究者とされたとのことです。このため、

 

質疑応答時間を10分

懇親会必須

上級研究者の参加を促す

境界領域や薬学会会員以外も受け入れる

ノーネクタイ

 

等の方針が決められたとのことです。設立当時の写真を出しておられ、当時のメンバーは現在では正に現世代を担う化学者になっておられるなと感じました。一方で現在ではシンポジウムが増えているため若手研究者の口頭発表の機会が増えていることもあり、「惰性で続ける年中行事になるくらいなら再考する勇気も必要」と、更なる進化を期待されているとのことで、現在の若手研究者へのエールを感じました。

 

後半ではイノラートの化学について講演されました。イノラートの化学を始められた理由として、ホットなトピックを追うのではなく古典化学と現代精密有機合成の融合を目指し、少数精鋭で研究を始められたとのことでした。少数精鋭での研究とおっしゃられている通り、何度も学生が新規な反応に気がついたことを語っておられ、そのような優秀な学生を育てる教育方針に興味が惹かれました。また、副反応を見逃さず新反応につなげる姿勢や、不思議と思ったこと徹底的に究明する姿勢の重要さを痛感しました。さらに、合成した魅力的生成物の応用研究を幅広く行われており「生みだし育て成熟させたい」との言葉通り研究を進めておられ、薬学部に在籍する筆者にはひとつの理想的研究だなと感じました。

 

本シンポジウムの質疑応答では、まず学生の質問を先に受け付け、その後、全体からの質問を受け付けるというシステムを用いていたり、優秀発表賞も用意されています。また発表および内容に関する意見や感想を記載する紙が配布されており、後日発表者に郵送されるなど、学生のモチベーションアップ、口頭発表や質疑応答のレベルアップの場としても最適ではないかと思いますので、薬学系以外の大学や企業の皆さんもぜひ参加してはいかがでしょう。

最後にどうでもいい話ですが、筆者は会場の「銀杏会館」に行く際に道に迷ってしまい、通行人に「ぎんなん会館」は何処ですか?と聞いたのですが、通行人に笑われてしまいました。正しくは「いちょう会館」のようですので皆さんも銀杏会館に行かれる際には気をつけて下さいね。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4759807497″ locale=”JP” title=”創薬をめざす有機合成戦略―進化する医薬品づくり (化学フロンティア)”]

 

Avatar photo

ナカシマ

投稿者の記事一覧

化学と英語に関心があります。

関連記事

  1. 化学に関する様々なサブスクリプション
  2. リニューアル?!
  3. 今年の光学活性化合物シンポジウム
  4. グアニジニウム/次亜ヨウ素酸塩触媒によるオキシインドール類の立体…
  5. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (2)
  6. 化学者も参戦!?急成長ワクチン業界
  7. はしか流行?
  8. ケムステ新コンテンツ「化学地球儀」

注目情報

ピックアップ記事

  1. ポリ塩化ビニルがセンター試験に出題されたので
  2. 第27回ケムステVシンポ『有機光反応の化学』を開催します!
  3. 化学連合シンポ&化学コミュニケーション賞授賞式に行ってきました
  4. 摩訶不思議なルイス酸・トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン
  5. 2013年就活体験記(1)
  6. 城﨑 由紀 Yuki SHIROSAKI
  7. カルボン酸を触媒のみでアルコールに還元
  8. アート オブ プロセスケミストリー : メルク社プロセス研究所での実例
  9. 貴金属触媒の活性・硫黄耐性の大幅向上に成功
  10. 福山透 Tohru Fukuyama

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その1

Tshozoです。今回はかなり限定した疾患とそれに対するお薬の開発の中身をまとめておこうと思いま…

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP