[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

鉄の新たな可能性!?鉄を用いたWacker型酸化

[スポンサーリンク]

鉄触媒を用いたオレフィンのWacker型酸化反応が開発された。穏和な反応条件で進行し、様々な天然物や医薬品の酸化反応に適用可能である。

Wacker酸化反応

Wacker酸化は、パラジウム触媒と銅を用いてオレフィンを水/酸素存在下で酸化しカルボニル化合物に変換でき、工業プロセスや複雑天然物合成に広く応用されている(図1A)。

通常Wacker酸化はMarkovnikov則に従うが、近年のこの分野の進展からanti-Markovnikov型の反応[1]も報告が増えている。ここではMarkovnikov型Wacker酸化に焦点を絞って紹介したい。

このWacker酸化の問題点としては、銅廃棄物を排出する点と、基質適用範囲が主に末端オレフィンに限られ、内部オレフィン、電子不足オレフィンやスチレン誘導体は適用が難しい点が挙げられる。銅を共触媒として用いるWacker酸化はアセトアルデヒド工業的合成法として知られているが、他の基質に対しては反応効率の獲得のためにしばしば酸化剤として当量の銅塩の使用が必要となるのが事実である。銅を用いない反応や酸素のみを酸化剤として用いる反応の開発もなされてはいるが、末端オレフィンや内部オレフィンに限られる(図1B)[2]

電子不足オレフィン(図1C)[3]やスチレン誘導体のWacker型酸化反応の報告は限られており、特にポリマー化や酸化的開裂を併発しやすいスチレン誘導体に対するWacker型酸化では過酸化物や超原子価ヨウ素、ベンゾキノンなどの外部酸化剤を必要とする(図1D)[4]

今回、南京師範大学のHan准教授らはFe触媒によるWacker型酸化反応を考案し、欠点であった基質適用範囲の拡大に成功した。

図1. Wacker酸化反応

 

“Wacker-Type Oxidation using an Iron Catalyst and Ambient Air and Its Late-stage Oxidation of Complex Molecules”

Liu, B.; Jin, F.; Wang, T.; Yuan, X.; Han, W. Angew. Chem., Int. Ed. 2017, early view

DOI: 10.1002/anie.201707006

論文著者の紹介

研究者: Wei Han

研究者の経歴:
2001-2005 B.S., Wuhan Institute of Technology, China
2005-2008 M.S., Dalian University of Technology, China
2008-2011 Ph.D., Ludwig Maximillian University of Munich, Germany
2011-           Associate Prof., Nanjing Normal University, China
研究分野:グリーンケミストリー、反応開発

論文の概要

Hanらは近年報告が増えているFe触媒による水素原子移動(HAT)を鍵とする反応に着目した(図2A)[5]

なかでも向山水和反応は、Co、MnやFeなどを触媒に用いて穏和な条件で幅広いオレフィンの水和を行うことができる。

この反応は遷移金属触媒の作用により水素原子移動を経て酸素付加体3を経由して進行すると考えられている。この3のO–O結合とC–H結合の開裂を起こすことでカルボニル化合物を生成すれば、銅塩を排出せず幅広い基質に対する新規Wacker型酸化となる。Hanらは鉄触媒存在下、ポリメチルヒドロシラン(PMHS)を還元剤とし、空気中の酸素を酸化剤として用いる反応条件を見出した(図2B)。

詳細な理由は分からないが、PMHSや(EtO)3SiHなどのアルコキシシランが有効であり、フェニルシランやNaBH4を用いた場合本反応は進行しない。

本手法はスチレン誘導体や電子不足オレフィンを含む広範なオレフィンに対しWacker型酸化が進行する。ハロゲン、カルボン酸、ボロン酸など、高反応性官能基も損なわれず本反応が進行する点は特筆すべきである。優れた一般性と穏和な反応条件から、アルカロイド、テルペンなどの天然物や、糖鎖骨格をもつ化合物などの複雑構造分子の酸化にも適用可能である。

内部オレフィンの酸化の際の位置選択性に課題が残るものの、安価で優れた基質適用範囲をもつため、今後広く用いられていくのではないか。

図2. 作業仮説(A)と基質適用範囲(B)

参考文献

  1. Wickens, Z. K.; Skakuj, K.; Morandi, B.; Grubbs, R. H. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 890. DOI: 10.1021/ja411749k
  2. (a) Mitsudome, T.; Umetani, T.; Nosaka, N.; Mori, K.; Mizugaki, T.; Ebitani, K.; Kaneda, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2006, 45, 481. DOI: 10.1002/anie.200502886 (b) Mitsudome, T.; Mizumoto, K.; Mizugaki, T.; Jitsukawa, K.; Kaneda, K. Angew. Chem., Int. Ed. 2010, 49, 1238. DOI: 10.1002/anie.200905184
  3. Mitsudome, T.; Yoshida, S.; Mizugaki, T.; Jitsukawa, K.; Kaneda, K. Angew.  Chem., Int. Ed. 2013, 52, 5961. DOI: 10.1002/anie.201301611
  4. Cornell, C. N.; Sigman, M. S. J. Am. Chem. Soc. 2005, 127, 2796. DOI: 10.1021/ja043203m
  5. Crossley, S. W. M.; Obradors, C.; Martinez, R. M.; Shenvi, R. A. Chem. Rev. 2016, 116, 8912. DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00334
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. AIによる創薬に新たな可能性 その研究と最新技術に迫る ~米・I…
  2. TLCと反応の追跡
  3. 第97回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Pa…
  4. 中学入試における化学を調べてみた
  5. 化学探偵Mr.キュリー9
  6. こんな装置見たことない!化学エンジニアリングの発明品
  7. “見た目はそっくり、中身は違う”C-グリコシド型擬糖鎖/複合糖質…
  8. Grignard反応剤が一人二役!? 〜有機硫黄化合物を用いる<…

注目情報

ピックアップ記事

  1. そうだ、アルミニウムを丸裸にしてみようじゃないか
  2. 香りの化学4
  3. 金属錯体化学を使って神経伝達物質受容体を選択的に活性化する
  4. アルブライト・ゴールドマン酸化 Albright-Goldman Oxidation
  5. ビル・モランディ Bill Morandi
  6. 美麗な分子モデルを描きたい!!
  7. 第76回―「化学を広める雑誌編集者として」Neil Withers博士
  8. ピーナッツ型分子の合成に成功!
  9. 学問と創造―ノーベル賞化学者・野依良治博士
  10. 採用面接で 「今年の日本化学会では発表をしますか?」と聞けば

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年9月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

逐次的脱芳香族化と光環化付加で挑む!Annotinolide B初の全合成

Annotinolide Bの初の全合成が報告された。キノリンの逐次的な脱芳香族化と分子内光環化付加…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP