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化学者のつぶやき

超分子ポリマーを精密につくる

 

近年「超分子ポリマー(supramolecular polymers)」と呼ばれる材料がスマートソフトマテリアルとして注目を集めています。

“通常の”ポリマー(高分子)が数多くのモノマー(momoner: 単量体)から共有結合でつながって形成されるのに対して、超分子ポリマーはモノマーが水素結合やπ—π相互作用などといった非共有結合を利用して結合することができます。

非共有結合であるため、条件によっては簡単にモノマーに戻ってしまいますが、不可逆にする工夫をすれば秩序のあるポリマー材料をとっても簡便に合成できることとなります。なぜなら、モノマー同士の非共有結合の形成はそのモノマーの性質により自己集合で行われるため、基本的にはモノマーをある条件で”混ぜる”だけでポリマーができあがるからです。

そんな素敵な特徴を持った超分子ポリマーですが、合成上の問題の1つとして、

長さや大きさ(分子量分布)を揃えたポリマーを精密につくることは困難である

ことが挙げられます。

先日、この問題に対して、解決の糸口をみつけた超分子ポリマーの新しい精密合成法が、理研の創発物性科学研究センター創発ソフトマター機能研究グループの宮島大吾研究員、相田卓三グループディレクター(東大院工・教授)と姜志亨大学院生(東大院工)、阪大工学研究科の井上佳久教授らの共同研究グループによって、Science誌に報告されました。

 

“A rational strategy for the realization of chain-growth supramolecular polymerization”

Kang, J.; Miyajima, D.; Mori, T.; Inoue, Y.; Itoh, Y.; Aida, T Science 2015347, 646. DOI:10.1126/science.aaa4249

それでは、如何にして超分子ポリマーの構造を制御したのか、その問題点と解決法を説明していきましょう。また今回は、代表著者の1人である宮島博士に特別にインタビューを行い、コメントもいただきましたので合わせて紹介します。

超分子重合を精密制御することの問題点

共有結合で結合したポリマーの合成では、「重合開始剤 (Initiator)」を用いることで反応点をポリマー鎖末端のみに限定し、用いるモノマーの量である程度長さや分子量分布を揃えることが可能です(連鎖重合: chain-growth polymerization)。

一方、超分子ポリマーは各モノマーが相互作用の骨格をあらかじめ有しており、つまりモノマーそのものが重合開始剤となるため、いたるところで同時に重合が開始しててしまい、結果的にポリマーの長さにばらつきが生じてしまいます(図1)。このような理由で、超分子の長さや大きさなどを精密制御することは困難でした。

ごく最近、超分子ポリマーの長さや分子量分布を制御した手法は報告されつつありますが、温度などの精密な制御が必要となります[1]

図1

図1. 重合開始剤を用いた共有結合性ポリマーの精密重合(上)と超分子ポリマーの重合(下)の概略図

 

超分子ポリマー精密重合の設計

構造制御のヒントは、通常のポリマーの連鎖重合と同じような、

「重合開始剤と「モノマー」の関係を作り出す

という発想です。

著者らは、重合するモノマーとしてアミド基を含むチオアルキル側鎖を5つ導入したコランニュレン誘導体を用いました。このモノマーは側鎖に含まれるアミド基が分子内で環状に水素結合を形成することで単一で安定化されており、分子間での相互作用が抑制されるため、モノマー同士で自己集合(重合)が進行するのを防いでいます。[2]つまり、通常のポリマー合成におけるモノマーと同様の状態です。これを「準安定モノマー」と呼びます(図2上)。

この「準安定モノマー」を重合させるためには、「重合開始剤」が必要となります。今回、その重合開始剤として、モノマー側鎖のN上をメチル化した分子を設計しました(図2下)。

 

図2. 準安定モノマーと重合開始剤の分子構造

図2. 「準安定モノマー」と「重合開始剤」の分子構造(出典:論文より改変)

 

重合開始剤は、メチル化によって分子内で水素結合を形成せず広がった構造をしています。つまり、重合に使われるカルボニル部分が反応できる状態(プロトンアクセプター)として存在しています。ここに「準安定モノマー」を混ぜると、重合開始剤のカルボニル部分と「準安定モノマー」が分子間で水素結合を形成し、二量体となります。そうすると、再びカルボニル基のみが露出するためこれがプロトンアクセプターとして働き次のモノマーと結合する、といった具合に重合が進行するのです(図3)。もちろんポリマー鎖の末端の重合開始剤は、メチル化されているため不活性な状態であり、生成したポリマー鎖同士でカップリングするといったこともありません。

 

図3. 重合開始剤による準安定モノマーの重合過程

図3. 重合開始剤による準安定モノマーの重合過程(出典:論文)

モノマー同士の反応をうまく抑えつつ、ポリマー鎖末端のみに活性種を生じさせることで、ポリマーの長さの制御に成功しています。重合開始剤に対して50当量から1000当量のモノマーを作用させて合成したポリマーの分子量分布を測定していますが、いずれも1.2から1.3程度であり、かなり低い分布に抑えることができています(図4)。

 

図4. 重合開始剤に対して50当量、250当量、500当量、1000当量の準安定モノマーを作用させた際の分子量分布

図4. 重合開始剤に対して50当量、250当量、500当量、1000当量の準安定モノマーを作用させた際の分子量分布(出典:論文より改変)

 

光学活性超分子ポリマー

生成する超分子ポリマーはらせん状にモノマーが積み重なりますが、側鎖にキラル骨格を導入した重合開始剤を用いると、このらせん構造を一方向に偏らせることができます(図5上)。

また、重合開始剤とモノマーがどちらもキラル骨格を有する場合には、キラリティーが一致する組み合わせでないと重合が進行しないことを明らかにしています(図5下)。これを利用して、ラセミ体のモノマーにキラルな重合開始剤を作用させ光学分割もできることを示しています。

図5. 光学活性な超分子ポリマーの精密合成

図5. 光学活性な超分子ポリマーの精密合成(出典:論文より改変)

共有結合で連結したポリマーでも非常に高い立体選択性を出すのは難しい中、今回の超分子ポリマーはかなり高い選択性で反応が進行します。この点に関して、著者からいただいたコメントを一部先に紹介します。

「このような高い選択性を出すのは、洗練された高分子化学をもってしても容易ではありません。超分子化学では弱い相互作用を多点で実現することで、分子同士を強く結びつけています。モノマーの分子内水素結合が開き、ポリマーに取り込まれるためには複数の分子内水素結合が時を同じくして分子間水素結合に組み変わる必要があります。一つのエラーならば許容されても、複数のエラーが同時に無視されることは非常に起こりづらく、結果として高い選択性が実現できたのだと考えています。また一つ一つは弱い結合ですので、エラーが簡単に校正されるのも超分子科学の特徴です。生体材料の高い選択性・複製の忠実度と本質的に同じだと思っています。」

とのことで、超分子ならではの利点も見事に再現されています。

以上、準安定モノマーと重合開始剤を用いた超分子ポリマーの精密合成法を紹介しました。ポリマーの長さを制御した重合法というだけでなく、モノマーのキラリティーを区別した選択的な重合や、光学活性なポリマーを合成することができます。

準安定モノマーと重合開始剤の分子設計が難しそうですが、今後の研究によって様々な種類の超分子ポリマーが合成可能になることに期待したいと思います。

 

著者らによるコメント

最後に著者らによりコメントをいただくことができましたので写真とともに紹介したいと思います。

2015-02-16_08-29-41

 

超分子重合を精密制御したい」——これは私達の長年の夢でした

この研究で最も苦労したのが「分子量の揃った超分子ポリマーが出来ていることの証明」です。これまで、超分子ポリマーのサイズの評価は、透過型電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)で直接長さを数えるという手法が用いられてきました。しかし、そのような方法では得られる情報はごくごく一部のポリマーから得られたものに過ぎません。私達はサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)による解析に拘りました。これは高分子評価のスタンダードであると同時に、恣意性を排除してより多くのポリマーを評価できるというメリットがあります。

一方、この測定の問題点は、分析に用いられるカラム内で超分子ポリマーが切断・分解されてしまうことです。超分子ポリマーは非共有結合によってモノマーが連結されていますが、その安定性は溶媒の種類に大きく依存します。残念ながらSEC用のカラムが正しく働く溶媒組成では、たいていの超分子ポリマーは分解しモノマーに戻ってしまいます。私達はカラムの種類、溶出溶媒の組成・流速、実験温度などを徹底的に最適化することで再現よく超分子ポリマーをSECによって解析できるようになりましたが、条件の最適化だけで2週間以上費やしました。このSEC測定に加え、動的光散乱(DLS)測定、円二色性(CD)測定などを組み合わせ、私達としては絶対の自信を持って論文を投稿したのですが、Reviewerの一人からさらなる解析を要求されました。

コメントを貰った直後は納得がいきませんでしたが、冷静になり考え直してみると、SEC測定・DLS測定・CD測定、どれも間接的な評価方法ですので、やはり私達も顕微鏡による超分子ポリマーの直接的な長さ評価が必要だと思い直し、改めて真剣に取り組むことにしました。再投稿した論文にはAFMによる解析結果に加え、核磁気共鳴法(NMR)によって評価した拡散係数の結果も加えました。追加実験のため採択まで少し時間がかかってしまいましたが、自分たちの研究(論文)の質をより一層高めることができ、今となっては適切なアドバイスをくれたReviewerに大変感謝しております。

 

本研究は総じてハイペースで進行しましたが、それには筆頭著者のKang Jiheong君の功績が非常に大きかったです。もし彼がいなければ、この研究が始まっていたのかさえも予想できません。Kang君はそれほど優秀な大学院生です。計算機科学を用いた分子間相互作用の解析、観測された円二色性の理論的解析には大阪大学の森 直先生、井上佳久先生、ならびに東京大学伊藤善光助教に多大なサポートをいただきました。この場を借りてお礼を申し上げます。

 

超分子重合を精密に制御できたら何がいいのか?私達は長年この課題に思いを巡らせてきましたので、面白いアイデアがたくさんあります。すでに興味深い結果がいくつも出ております。超分子化学の良い点と、高分子化学のこれまでに蓄積された知識を組み合わせ、新しい化学を展開していきたいと考えています。

 

最後になりましたが、私達の研究に先立って、物質材料研究機構(NIMS)の杉安和憲主任研究員・竹内正之グループリーダーらによる超分子ポリマーの長さを制御するという論文が、昨年度Nature Chemistryに発表されています(Nat. Chem. 6, 188–195, 2014)。速度論的生成物と熱力学的生成物の安定性の違いを巧みに利用した非常に興味深い内容になっております。私達の論文と比較していただくと、彼らはより「超分子化学」に近い視点からこの問題に取り組み、私達はより「高分子化学」に近い視点でこの問題を捉えていたという違いを感じとれると思います。

理化学研究所 宮島大吾

 

参考文献

[1] Ogi, S.; Sugiyasu, K.; Manna, S.; Samitsu, S.; Takeuchi, M. Nat. Chem. 2014, 6, 188. DOI:10.1038/NCHEM.1849

[2] モノマーは、分子内水素結合によって反転を抑制したキラルコラニュレンとして以前に報告している。Kang, J.; Miyajima, D.; Itoh, Y.; Mori, T.; Tanaka, H.; Yamauchi, M.; Inoue, Y.; Harada, S.; Aida, T. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 10640. DOI:10.1021/ja505941b

 

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