[スポンサーリンク]

一般的な話題

未来の車は燃料電池車でも電気自動車でもなくアンモニア車に?

[スポンサーリンク]

 

最近、TOYOTAの燃料電池車が話題になっていますが、水素輸送や燃料電池に使用される触媒のコスト等、普及に向けて問題が残されています。また電気自動車は家庭でも充電できるようになりつつありますが、一度の充電で連続走行できる距離に問題があります。

TOYOTA 燃料自動車MIRAI(左)と日産の電気自動車リーフ(右)

TOYOTA 燃料自動車MIRAI(左)と日産の電気自動車リーフ(右)

 

そこで最近、ガソリンの代わりにアンモニアを内燃機関で使おうという試みが注目されています。実際9月に行われた、化学工学会のアンモニア利用に関する講演では立ち見が出るほどの注目度でした。

 

なぜアンモニアなのか

アンモニアはそもそも水素のキャリアとして注目されており、水素をアンモニアとして扱う最大の利点は輸送と貯蔵がしやすい点です。水素を輸送・貯蔵するには液化や吸着材料(パラジウム合金等)が考えられますが、安全性やコストに問題があります。アンモニアは常温で比較的液化しやすく、さらに単位モルあたりの水素の熱量が比較的大きい(重量当たりのエネルギー密度はメタノールと同程度)ので、コストの低減が見込めます。

現在は化石燃料をアンモニアに代替する実証試験が行われており、下の図にあるように産総研と東北大学がガスタービンで灯油の一部をアンモニアに代替[1]することに成功しています。またアンモニアのオクタン価が130程度だという話もあるので[2]、内燃機関の効率も良くなるかもしれません。

ガスタービンへの燃料供給と発電出力の変化(プレスリリース資料より引用[1]

排ガスもクリーン

化石燃料と比較して炭素を全く含まないのも大きなメリットです。

アンモニアを内燃機関の燃料として使った場合、排気ガスにCO2が全く含まれず、排気ガスはNOxと未燃アンモニアのみです。NOx除去触媒は既にアンモニアを還元剤としたV2O5-TiO2がプラント等で広く使われており、現在ガソリンエンジンに使われている、三元触媒(Pt,Pd,Rhの合金)に比べてかなりのコスト低減が見込めます。

また燃料電池の水素元として利用する場合、水素を取り出す過程でCOが出ないのでCOによる触媒劣化の心配もありません(アンモニアによる触媒劣化の可能性あり)。

 

これからの技術的な問題

内燃機関だけでなくアンモニアを燃料電池の燃料として使おうとする取り組みも実証試験段階まで進んでおり[3]、今後注目されるのはいかに安くクリーンな方法でアンモニアを合成出来るかになると思われます。

現在、アンモニア合成に必要な水素は化石燃料の改質によるものなので、化石燃料を燃やしているのと大差ありません。これを太陽エネルギーによる水の分解によって得られた水素を使って、いまより少ないエネルギーでアンモニアを合成できるようになれば将来アンモニア車が登場するのかもしれません。

 

関連書籍

 

外部リンク

  1. 産総研と東北大学によるアンモニアガスタービンの実証試験
  2. DND研究所, アンモニア燃焼に関する記事
  3. 産総研と京都大学によるアンモニアを直接燃料とした燃料電池による発電

 

Ohno

投稿者の記事一覧

博士(理学)。ナノ材料に関心があります。

関連記事

  1. 量子力学が予言した化学反応理論を実験で証明する
  2. 光化学スモッグ注意報が発令されました
  3. マテリアルズ・インフォマティクス解体新書:ビジネスリーダーのため…
  4. 水素化反応を効率化する物質を自動化フロー反応装置で一気に探索
  5. リガンド革命
  6. 原子一個の電気陰性度を測った! ―化学結合の本質に迫る―
  7. 二重芳香族性を示す化合物の合成に成功!
  8. 立体規則性および配列を制御した新しい高分子合成法

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ディーター・ゼーバッハ Dieter Seebach
  2. 世界初!うつ病が客観的に診断可能に!?
  3. “結び目”をストッパーに使ったロタキサンの形成
  4. 二酸化塩素と光でプラスチック表面を機能化
  5. 2,9-ジブチル-1,10-フェナントロリン:2,9-Dibutyl-1,10-phenanthroline
  6. 第32回ケムステVシンポ「映える化学・魅せる化学で活躍する若手がつくばに集まる」を開催します!
  7. 【24卒 化学業界就活スタート講座 5月15日(日)Zoomウェビナー開催決定!】化学系学生のための就活×太陽ホールディングス
  8. 「電子の動きを観る」ーマックスプランク研究所・ミュンヘン大学・Krausz研より
  9. SNS予想で盛り上がれ!2023年ノーベル化学賞は誰の手に?
  10. 新しい芳香族トリフルオロメチル化試薬

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年11月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロール・免疫調節性分子・ニッケル触媒・カチオン性芳香族化合物

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年9月号がオンライン公開されています。…

ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

第563回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科応用化学専攻 藤田研究室の恒川 英…

SNS予想で盛り上がれ!2023年ノーベル化学賞は誰の手に?

さてことしもいよいよ、ノーベル賞シーズンが到来します!化学賞は日本時間 10月4日(水) 18時45…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2023年版】

各媒体からかき集めた情報を元に、「未来にノーベル化学賞の受賞確率がある、存命化学者」をリストアップし…

DMFを選択的に検出するセンサー:アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見

第562回のスポットライトリサーチは、大阪府立大学(現:大阪公立大学)大学院 工学研究科 電子・数物…

イグノーベル賞2023が発表:祝化学賞復活&日本人受賞

今年もノーベル賞とイグノーベル賞の季節がやってきました。今年もケムステではどちらについても全速力で記…

ポンコツ博士の海外奮闘録XXII ~博士,海外学会を視察する~

ポンコツシリーズ国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1話・…

マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくある失敗とその対策とは?

開催日:2023/09/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

第40回ケムステVシンポ「クリーンエネルギーの未来を拓く:次世代電池と人工光合成の最新動向」を開催します!

まだ暑いですが、秋の気配は感じられていますでしょうか。2020年初頭から…

材料開発の未来を語る、マテリアルズ・インフォマティクスに特化したカンファレンスが9/26(火)開催!

【参加無料】詳細・視聴予約はこちら今まさに、第一線で活躍しているマテリアルズ・インフォマティクス…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP