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スポットライトリサーチ

非平衡な外部刺激応答材料を「自律化」する

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第261回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 総合文化研究科・正井宏 助教にお願いしました。

正井さんの所属する寺尾研究室では、ロタキサン構造で被覆した有機ポリマー型導線の創成と、新たな有機デバイスへの応用展開に向けて研究を進めています。今回は同様の分子設計をもとに、一酸化炭素の濃度依存的に応答する金属錯体ポリマーへと展開することに成功しました。Nature Communications誌 原著論文・プレスリリースに公開されています。

“Insulated conjugated bimetallopolymer with sigmoidal response by dual self-controlling system as a biomimetic material”
Masai, H.; Yokoyama, T.; Miyagishi, H. V.; Liu, M.; Tachibana, Y.; Fujihara, T.; Tsuji, Y.; Terao, J. Nat. Commun. 2020, 11, 408. doi:10.1038/s41467-019-14271-2

研究室を主宰されている寺尾潤 教授から、正井さんについて以下のコメントを頂いています。それでは今回もインタビューをお楽しみください!

 正井さんとは卒研生から10年来の付き合いですが、大変スマートで、実験量も断トツ、時には近寄りがたいオーラを発して研究しているのですが、大好きなワインを嗜むと、ただの人懐っこいおじさんキャラになります。そんな正井さんは、近い将来、必ずや世界を代表する化学者として注目される存在になると確信しています。今回は、正井さんがこれまで行ってきた超分子化学・高分子化学・遷移金属化学の知見・経験を基に研究を推進し、自動調整機能を有する人工材料の開発を実現した論文の紹介です。何度も何度も書き直し、一年がかりで作成した渾身のイントロで始まる超大作です。是非、ご一読ください。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

神経伝達や免疫など、自然界においては弱過ぎる刺激に対しては全く応答せず、強過ぎる刺激に対しては過剰応答を防ぐ調節システムが備わっています。この研究では一酸化炭素濃度に応答して発光する材料において、低濃度・中濃度・高濃度という3つの領域を識別し、自律的に応答性が変調するシステムを人工的に実現しました。まずRu(II)とPt(II)という2つの金属が交互につながったポリマーを合成し、一酸化炭素下でRuにおけるCO配位子交換反応が生じることで、ポリマーが解重合する系を構築しました(Fig. 1A)。この系に対して一酸化炭素を作用させ、ある決まった時間後に発光強度を測定すると、低濃度領域では無応答、中程度の濃度領域では濃度に比例した応答を示しました。さらにある値以上の高濃度領域では、応答性の基質を残した状態にもかかわらず自律的に反応進行が止まり、濃度に対して一定の発光強度を示すという、周囲の環境に合わせて応答性が二段階で変調するシステムとなりました(Fig. 1B, C)。

Fig. 1 (A) RuとPtを用いたポリマー構造式とCOガスとの反応。(B) 観測された二段階変調応答と、(C) そのメカニズムの模式図。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

二段階制御の鍵となったのは、モノマー誘起発光と、速度論による制御です。低濃度において、ランダムな切断を伴う解重合反応の初期ではほとんどモノマーが生成せず、解重合の進行とモノマーの生成には遅れが生じるため、1つ目の変調が生み出されます。また高濃度では、6配位ルテニウム錯体の解離型配位子交換反応の律速段階に一酸化炭素濃度が寄与しなくなることに着目し、2つ目の変調として再び濃度に応答しない領域を作り出すことに成功しました(Fig. 1C)。これまで熱力学制御が主流であった外部刺激応答材料において、速度論制御を上手く組み入れたことも、本研究の一つのポイントだったと思います。この二段階変調応答が見えた日のことは、今でも覚えています。
実際には低濃度になるにつれて、当初はコンタミの影響が無視できなくなり、当時修士学生だった横山さんが試行錯誤の上で実験手法を確立しました。その後研究を宮岸さんに引き継ぐことになったのですが、彼も自分なりに上手く制御しました。正直なところ、学生さん個々の実験技術によって支えられた研究だと思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

二段階変調という結果が出た後、この現象の意味や意義について論文としてどのように伝えればいいか苦慮しました。珍しい現象ではあるものの、その重要性を表現するためのロジックを組み立てるのに長い時間がかかりました。研究室のメンバーや、同門の同輩・先輩・後輩方、さらには異分野を専攻していた大学時代の友達にも相談しました。真剣なディスカッション、酒を交えた他愛もない雑談など含めてたくさんの人と話すことで、少しずつ自分の中でアイデアが固まっていったように思います。この過程で何本の酒が空になったことか想像できません。最終的なカタチにするまでに多くの時間を要しましたが、人とお酒の力で乗り越えたことは確かです。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

身近な化学を捉えることができる研究者になりたいです。身の回りに満ち溢れている現象であっても、それらを化学反応や化学的物性として見つめなおすと、まだまだ理論や設計指針が不十分であることも多いかと思います。自身の研究対象としての化学と身近な化学を結び付けながら、研究を続けていきたいです。
この考えに至った苦い経験として、過去に専門性を突き詰めていた頃、友人に会っても「今どんなこと研究している?」という話題を振ってくれる人が月日を重ねるごとに徐々に減っていくのを感じたことがあります。化学を専門としない人にも化学に興味を持ってもらえるように、面白く伝えられる研究者になれればと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究成果はオリジナリティが重視される世界ですが、その過程においては多くの人と相談・議論することで支えられていると思います。自分が誰よりも早く新現象を見つけた時だけでなく、ディスカッションの中で元々は誰も浮かんでいなかったアイデアに気付く瞬間も、研究における嬉しい瞬間の1つだと思います。完璧に準備してからアウトプットするのももちろん大切ですが、時には準備するよりも早く直感的に、半ば捨て身で伝えるからこそ、得られるものも多くあります。ぜひ試してみてほしいと思います。
最後に改めて、寺尾先生をはじめとして、この研究を支えてくださった多くの方々に感謝を申し上げます。

研究者の略歴

正井 宏
東京大学大学院総合文化研究科 寺尾研究室
研究テーマ 光機能材料の創成

2013年4月 〜 2016年3月 日本学術振興会特別研究員(DC1)
2016年3月 京都大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻 博士後期課程 修了(辻研究室)
2016年4月 〜 2017年5月 東京大学大学院新領域創成科学研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)(伊藤・横山研究室)
2017年6月 〜 2019年3月 東京大学大学院総合文化研究科 特任研究員(寺尾研究室
2019年4月 〜 現職

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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