[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

化学と工業

[スポンサーリンク]

最近うちのボスが日本化学会の会員専用月刊誌である「化学と工業」を私にくれます。理由は4月から彼は日本化学会の会員になったらしく、もらっても日本語が読めず、いらないのでラボで唯一の私にくれるのです。

正直この雑誌、英語の雑誌はもちろん、薬学会の「ファルマシア」や、私の専門分野の月刊誌である「有機合成化学会誌」と比べても、全く面白くなく、ずーっと読んでませんでした(日本化学会の皆様すみません)。ただ、こちらにきて、インターネットと自分で持ってきた数少な書籍のみが日本語の情報源であったため、ちょっと読んでみるかと中を見てみました。読んでみるとそういう理由からか意外と面白い。

今月号は「化学の将来に向けて」という、黒田玲子先生の論説が掲載されていました。

その論説によると、なんとイギリスでは最近28の大学やカレッジの化学科が閉鎖されたといいます。理由は予算がとれないからだそうです。基礎的な学問である化学科にとって、ナノテクノロジーやマテリアルサイエンスに特化した学科に比べ予算が配分されにくくなっています。

実際、この記事によると名門オックスフォード大学の化学科でさえ、化学教育で毎年2億円超の赤字が発生しているといいます。確かに米国においても、特に私の所属している研究所は化学研究に関して、ケミカルバイオロジーなどの化学的なアプローチから材料や生物学を明らかにするというテーマが多く、純粋な化学(実際なにが純粋というのかわかりません。)というのはほぼないと言って等しいです。

私の専門分野である天然物化学、有機合成化学も純粋に興味深い構造を有する天然物を全合成すればよいということでグラントがとれるのは大物でもほとんどありえません。特にこちらでは新規テーマを重視し、日本と異なり、大物が”必ずあたる”予算というものがありません(それは非常によいことですが)。ノーベル化学賞受賞者や著名な化学者ですら、予算をとれず、ポスドクを解雇して運営資金を削ったり、最悪研究室を占めるということも普通に起きています。

ちょっと話がずれましたが、だからといって私たちのボスも私たちも、純粋な有機化学や、物理化学、無機化学、高分子化学等を学んで現在ここにいるわけですから、基礎的な化学の上に、そのような応用が成り立っているということは事実です。

ですからほどほどにとは言いたいのですが、その辺を判断するのは非常に難しいですね。そんな話しましたが、実はこの記事はちらっとみただけで、ほかの記事を読んでいました(苦笑)。意外と他分野の研究がoverviewで簡単に記載されており、悪くないなと思ってしまいました。

化学と工業部屋やラボに眠っている方、暇つぶしにでも読んでみてください。新しい研究のネタが見つかるかもしれません。

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 「鍛えて成長する材料」:力で共有結合を切断するとどうなる?そして…
  2. 巨大な垂直磁気異方性を示すペロブスカイト酸水素化物の発見 ―水素…
  3. d8 Cu(III) の謎 –配位子場逆転–
  4. 「遠隔位のC-H結合を触媒的に酸化する」―イリノイ大学アーバナ・…
  5. 世界が終わる日までビスマス
  6. 不均一系触媒を電極として用いる電解フロー反応を実現
  7. 「つける」と「はがす」の新技術|分子接合と表面制御 R3
  8. 糖鎖合成化学は芸術か?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第一回ケムステVプレミアレクチャー「光化学のこれから ~ 未来を照らす光反応・光機能 ~」を開催します!
  2. ジオトロピー転位 dyotropic rearrangement
  3. 高分子材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  4. とある化学者の海外研究生活:アメリカ就職編
  5. 【5月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 有機金属化合物 オルガチックスによる「密着性向上効果の発現(プライマー)」
  6. アンデルセン キラルスルホキシド合成 Andersen Chiral Sulfoxide Synthesis
  7. リアルタイムFT-IRによる 樹脂の硬化度評価・硬化挙動の分析【終了】
  8. ハーバート・ブラウン Herbert C. Brown
  9. 植村酸化 Uemura Oxidation
  10. エチルマレイミド (N-ethylmaleimide)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP