[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

ナイトレンの求電子性を利用して中員環ラクタムを合成する

[スポンサーリンク]

Rh触媒とアジド基から生じる反応活性種Rhナイトレンにより、分子内シクロブタン環開裂を伴う中員環ラクタム構築反応を見出した

金属ナイトレンを利用したN-ヘテロ環形成反応

N-ヘテロ環状化合物を簡便に合成する手法は、多くの化学者によって盛んに開発されている。イリノイ大学のDriver准教授らはアジド基と遷移金属触媒から生じる金属ナイトレンの求電子性を有効利用したN-ヘテロ環状化合物の合成法を報告している。

例えば、ロジウム触媒存在下、ビニルアジド1や、スチリルアジド2を用いた分子内C­–Hアミノ化反応1)(図1A, B)や、スチリルアジド3の環化転位反応2) (図1C)による置換インドール合成がある。

著者らは、次なるアイディアとして、ひずみのある環をもつフェニルアジド4から金属ナイトレンを発生させれば、環の開裂を伴って反応性の高いキノイド5が生じ、続く転位反応によってN-ヘテロ環化合物を合成できると考えた(図1D)。今回、そのアイディアに基づいた中員環ラクタムの合成に成功したため紹介する。

図1. 金属ナイトレンを利用したN-ヘテロ環形成反応

Rh2(II)-Catalyzed Ring Expansion of Cyclobutanol-Substituted Aryl Azides To Access Medium-Sized NHeterocycles
Mazumdar, W.; Jana, N.; Thurman, B. T.; Wink, D. J.; Driver, T. G. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5031.DOI: 10.1021/jacs.7b01833

論文著者の紹介

研究者:Tom G. Driver
研究者の経歴:
1999 B.S. Indiana University, USA (Prof. Lawrence K. Montgomery)
2004 Ph.D. University of California, USA (Prof. Keith A. Woerpel)
2004-2006 Posdoc, California Institute of Technology, USA (Prof. John E. Bercaw and Jay A. Labinger)
2006-2012 Assistant Professor, University of Illinois, USA
2012-current Associate Professor, University of Illinois, USA
研究内容:遷移金属触媒を用いたN-ヘテロ環状化合物の新規合成法の開発

論文の概要

Rh二核錯体存在下、オルト位にシクロアルカノールをもつフェニルアジド6からの環拡大反応による中員環ラクタム7の合成に成功した。

Ru、Ir触媒は低収率ではあるものの反応は進行するが、Co触媒は効果がない。Rh2(esp)2が最も効果的であり、わずか1 mol%の添加で7が良好な収率で得られる。芳香環上の置換基効果はなく、幅広い基質で適用できる。

また、シクロアルカノール部位については、3員環あるいは4員環を用いることが可能で、酸素原子を含む環や縮環構造をもつ環においても適用可能である。

注目すべき点は、本反応が化学選択的かつ立体特異的に進行するということである。例えば、アジド6bのシクロブタノール部位は、転位しうる反応点が二つあるが、ベンジル位の炭素(メチン炭素)が選択的に転位し単一の生成物7bを与える。また、シス置換されたアジド6cからは高ジアステレオ選択的に7cが得られる(図2A)。

推定反応機構を図2Bに示す。 (1)アジド6とRh2(esp)2から、Rhナイトレン8の形成、(2)8あるいは13からシクロアルカノールの環拡大によるキノイド9の生成、(3)9がプロトン転位し得られる10の芳香族化を伴うアシリウムイオン11の生成、(4)N原子の求核攻撃と、続く触媒の再生とヘテロ環7の形成、という機構である。

シクロペンタン環をもつアジド14を用いるとC–Hアミノ化が進行した15を与えることから、環ひずみが本反応に重要であることがわかる。また、ヒドロキシ基を保護した16a,bを用いると同様にC–Hアミノ化が進行することから、ヒドロキシ基が環拡大反応に重要であることが示唆される(図2C)。

図2. (A)反応基質調査 (B)推定反応機構 (C)シクロアルカノール部位の検討

以上、原料の合成に工程数がかかることが難点ではあるが、金属ナイトレンをうまく活用した新奇中員環合成法である。

参考文献

  1. (a) Stokes, B. J.; Dong, H.; Leslie, B. E.; Pumphrey, A. L.; Driver, T. G. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 7500. DOI: 10.1021/ja072219k (b) Shen, M.; Leslie, B. E.; Driver, T. G. Angew. Chem., Int. Ed. 2008, 47, 5056. DOI: 10.1002/anie.200800689
  2. Jones, C.; Nguyen, Q.; Driver, T. G. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 785. DOI: 10.1002/anie.201308611
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 第二回ケムステVシンポジウム「光化学へようこそ!~ 分子と光が織…
  2. スタチンのふるさとを訪ねて
  3. 化学研究ライフハック:化学検索ツールをあなたのブラウザに
  4. 不斉をあざ(Aza)やかに(Ni)制御!Aza-Heck環化/還…
  5. 【PR】 Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【ス…
  6. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」①(解答編…
  7. リチウムイオンに係る消火剤電解液のはなし
  8. 炭素ー炭素結合を切る触媒

注目情報

ピックアップ記事

  1. 2013年ケムステ人気記事ランキング
  2. マダンガミンの網羅的全合成
  3. 創薬化学―有機合成からのアプローチ
  4. マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較
  5. 個性あふれるTOC大集合!
  6. バイエルスドルフという会社 ~NIVEA、8×4の生みの親~
  7. 肥満防止の「ワクチン」を開発 米研究チーム
  8. 乙卯研究所 研究員募集
  9. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑮:4Kモニターの巻
  10. クリストファー・ウエダ Christopher Uyeda

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年5月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP