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スポットライトリサーチ

ラジカルと有機金属の反応を駆使した第3級アルキル鈴木―宮浦型カップリング

第154回のスポットライトリサーチは、中村 公昭(なかむら きみあき)博士にお願いしました。中村さんは、この3月に山口大学大学院理工学研究科で博士を取得され、現在は化学系企業に就職されています。

中村さんの所属されていた西形研究室では、ラジカル種をクロスカップリングやオレフィンへの反応へ活用可能とする金属触媒系の開発を主軸テーマとしています。先日本成果のプレスリリースが成されたことを機に、取りあげさせていただくことになりました。またACS Catalysis誌のSupplementary Cover Artにも選ばれています。

“Radical-Organometallic Hybrid Reaction System Enabling Couplings between Tertiary-Alkyl Groups and 1-Alkenyl Groups”
Kimiaki Nakamura, Reina Hara, Yusuke Sunada, Takashi Nishikata
ACS Catal. 2018, 8, 6791–6795. DOI: 10.1021/acscatal.8b01572

中村さんの人となりについて、指導教員の西形孝司 准教授よりコメントを頂いております。ラボの立ち上げを支えた経験は今後とも活きてくると思われ、今後ますますの活躍が期待できる若手研究者といえます。

中村公昭博士は、私が研究室を主宰して初めて配属された学生であり、日々の成長を見守るのが非常に楽しく、そしてそれに応えるように成長していく様子が頼もしくもありました。そういう意味でも中村博士の最後の仕事が、このようにハイライトされたことは感慨深いものがあります。学部4年生で配属されたときは、どこまで成長できるのか楽しみでありましたが、半年ほどで頭角を現してきました。言葉数こそ少ないものの、内に秘めた研究に対する真摯な姿勢は感心するものがありました。日々、黙々と実験をこなし、自分なりに考え、こちらが何も言わずともうまくいくまで徹底的に追及するという姿勢でしたので、つぎつぎと新しい現象を発見しておりました。修士1年生の時点で優れた業績を出したため、そして、将来的には研究者としてチームを率いたいとという強い考えを持っていたため、期間短縮して博士後期課程に進学しております。中村博士は管弦楽部に所属しており、時折、演奏会などをこなしながら(トロンボーンが専門)、力強く研究を進め、最終的に論文を5報発表するに至っております。“努力家”という言葉のふさわしい学生だと思います。これは管弦楽の活動を通して培ったものなのでしょう。現在は有機化学系企業にて、博士としての能力を存分に発揮し、技術者として充実した生活を送っているようです。

Q1. 今回プレスリリースの対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

西形研究室ではこれまで、銅触媒存在下においてα-ブロモカルボニルを第3級アルキル源とする反応開発に取り組んできました。本研究では、嵩高い第3級アルキル基を用いた銅触媒による鈴木―宮浦カップリング反応の開発に成功しました。第3級アルキル基を鈴木-宮浦カップリングに用いることは、触媒素反応上の問題(酸化的付加、β水素脱離)から困難です。しかし、これまでの研究でラジカル反応を駆使すれば実現できるのではないかとの見込みがありました。具体的にはアルキル導入はラジカル反応を、有機ホウ素からの有機基の導入は有機金属反応により行うという仮説です。この2つの異なる活性種を1つの反応系で反応させるハイブリッド触媒系が第3級アルキルカップリングを実現するための鍵であると考えました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究は、鈴木-宮浦カップリング反応を眺めていた時にふと思い付いた反応です。これまでの研究でα-ブロモカルボニルから生じたアルキルラジカルと銅上の置換基が反応することが分かっていました。そこで、普段取り扱っている銅触媒と有機ホウ素化合物との間でトランスメタル化反応が進行し、この有機銅錯体の周辺でラジカル種が発生・反応すれば、目的生成物が得られるのではないかと仮説を立てました。様々な条件検討の結果、以下に示した配位子Lを用いて反応を行ってみると、思惑通りに反応が進行しており、驚きとともに内心ガッツポーズをしたことを今でも覚えています。この反応の遷移状態は、以下の反応右側に示したものを想定しておりますが(有機銅とラジカルが近接した状態)、これの証明には未だ至っていないので、今後の課題です。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

反応機構解明のための中間体である金属錯体の合成です。反応機構を解析するには中間体アルケニル銅とαブロモカルボニルとの反応を試す必要があり、これには不安定なアルケニル銅錯体の合成が必要でした。この錯体は不安定だったため有機金属錯体専門家の砂田祐輔 准教授(東京大学)に技術提供をお願いしました。砂田先生の研究室に1週間ほど滞在し、技術を習得しこの難題解決に至りました。途中いろいろな問題も起こりましたが、そこは砂田先生にすべて解決していただきました。この場をお借りして砂田先生には感謝を申し上げます。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

現在、私はすでに化学系企業に就職し、企業で活躍したいという夢の一部は叶えました。会社では日々多くの事を学ぶ機会があり、毎日が非常に充実しています。まだ企業での研究に携わって数カ月しかたっていませんが、大学での研究と企業での研究の違いを実感している最中です。唯一変わらないことは、研究に対する姿勢です。特に「常に疑問を持つこと」は非常に大事であると考えます。考えることを止めてしまったらそこで研究は終わりだと思うので、思考停止する事なく化学に向き合い、博士としてチームを率いて企業からイノベーションを起こしたいと思います。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私は研究を最短で進めるためには、前述した疑問を持つ事もそうですが、その後の行動が特に大事だと考えています。疑問に思った事を担当教員や先輩、もしくは後輩でも誰でもいいので周りを巻き込んで議論しコミュニケーションをとることが、何よりの近道であり、新たな気づきを生む重要な機会だと思います。偉そうなことを言っておきながら、自分が学生時代に出来ていたかと思い返した時、あまり出来ていなかったのではないかと思います。ぜひ、周りとワイワイ議論し切磋琢磨してみてください。

最後に、本研究を遂行するにあたりご指導いただきました恩師である西形先生、貴重なお時間を割いて錯体合成に関する実験技術をご指導いただきました東京大学生産技術研究所 砂田祐輔先生、共に研究した研究室のメンバーに深く感謝致します。

研究者の略歴

名前:中村 公昭(なかむら きみあき)

前所属:山口大学大学院 理工学研究科 西形研究室

研究テーマ:銅触媒によるα-ブロモカルボニルを用いたアルケンおよびアルキンへの位置および立体選択的反応に関する研究

略歴:2014年3月 山口大学工学部応用化学科 卒業
2015年3月 山口大学大学院理工学研究科物質化学専攻 修士課程期間短縮修了
2018年3月 山口大学大学院理工学研究科物質工学専攻 博士課程修了
2018年4月 三洋化成工業株式会社

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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