[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

有機合成化学協会誌2018年8月号:触媒的不斉全合成・分子ローター型蛍光核酸・インドロキナゾリンアルカロイド・非対称化・アズレン・ヒドラゾン-パラジウム触媒

[スポンサーリンク]

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2018年8月号がオンライン公開されました。

今月号のキーワードは、

「触媒的不斉全合成・分子ローター型蛍光核酸・インドロキナゾリンアルカロイド・非対称化・アズレン・ヒドラゾン-パラジウム触媒」

です。今回も、会員の方ならばそれぞれの画像をクリックすればJ-STAGEを通してすべてを閲覧することが可能です。

日本では記録的な暑さが続いていますが、今月号の有機合成化学協会誌もそれに負けないアツい内容になっております。
夏休みの読み物に、ぜひご拝読ください!

抗結核薬および抗がん剤のリード創製を志向した天然物の触媒的不斉全合成

微生物化学研究所 渡辺 匠*、柴﨑正勝

査読者によるコメント:

新規な分子標的を有する医薬創製を目指し、ユニークな触媒的不斉反応を駆使し,3種の天然有機化合物と1種の類縁体の効率的全合成法を確立。先端の有機化学と創薬化学の接点を探ります。

核酸塩基にヘテロアリール基や蛍光色素を導入した分子ローター型蛍光核酸の開発

東京工業大学生命理工学院 清尾康志*金森功吏正木慶昭

査読者によるコメント:

本論文は、蛍光核酸の開発に関する論文です。核酸塩基にヘテロアリール基を導入した分子ローター型の蛍光核酸の合成と蛍光特性について述べられており、溶媒環境や分子間相互作用に応答して蛍光特性が変化するなど興味深い内容となっています。今後核酸医薬開発などへの応用が期待されます。

カスケード反応を用いたインドロキナゾリンアルカロイドの合成研究

北海道医療大学薬学部 阿部 匠

査読者によるコメント:

インドール-3-アルデヒドのDakin酸化からはじまるカスケード反応が、インドロキナゾリン骨格を持つ天然物群の統一的全合成を可能にする。

総説:メソジオールの非対称化反応の最近の進展

大阪大学産業科学研究所 鈴木健之

査読者によるコメント:

メソジオールの非対称化反応の約10年間の報告をまとめた総説です。酵素触媒や金属触媒、また近年急速に進歩している有機分子触媒を用いた反応例が網羅的に記載されており、これを読めば、“非対称化マスター”になれるかも!?是非、ご一読ください。

アズレンを基盤とする有機半導体材料の創出

山形大学大学院理工学研究科 山口裕二、片桐洋史*

査読者によるコメント:

アズレンはナフタレンの異性体ながら、それとは似て非なる分子です。筆者らはアズレンを用いた有機半導体材料の開発を先駆的に行なっており、それらの合成やアズレン独特の固体構造の解明について紹介されております。困難な合成をいくつも乗り越えて合成された美しいアズレンオリゴマーの魅力をご覧ください。

ヒドラゾン-パラジウム触媒によるアリル化合物を利用した分子変換反応

千葉大学大学院工学研究院 渡邉康平、三野 孝*、吉田泰志、坂本昌巳

査読者によるコメント:

金属錯体を触媒とする反応において、凝った構造をしており反応性において優秀だが合成が面倒なリガンドというのがしばしば見られます。それに対して本論文では、ユニークだが非常にシンプルなリガンドを用いることで新たな反応性を獲得した触媒系を紹介しています。

Rebut de Debut: ラダーポリマーとその合成

今月号のRebut de Debutの著者は2名です!全てオープンアクセスです。一人目は、相模中央化学研究所の巳上 幸一郎 博士です。

モノマーユニット間が 2 つ以上の結合でつながれたポリマー、ラダーポリマーについて、その特性や近年の画期的な合成法がまとめられています。

Rebut de Debut: ハロゲンフリーエポキシドの実用的合成法

二人目は、味の素株式会社の松田 豊 博士です。

一見して既に多くの方法論があり、確立されている「エポキシド合成」について、企業で研究されている立場から、その問題点や近年の解決法について述べられています。

ラウンジ: 天然物構造決定におけるDFT計算の活用

弘前大学農学生命科学部の橋本 勝 教授による執筆記事です。

橋本教授自身のこれまでの経験や実施例を踏まえ,天然物の構造解析の視点からDFT 計算利用の概要を紹介されています。簡潔かつ詳細に執筆されており、実際に行うときに非常に参考になると感じました。

巻頭言:経験的グローバル人材論

今月号は三井化学株式会社 リサーチフェロー 藤田 照典 博士による巻頭言です。

グローバル人材とは「価値観や文化の異なる人たち と一緒に仕事をして成果が出せる人」であると定義され、グローバル人材となるには何が重要なのかについて説いておられます。筆者自身、グローバル人材になれているのか考えさせられました。英語に関して、「恥を捨てる」ことの重要性に特に賛同できます。
オープンアクセスです。

追悼:伊藤椒先生を偲んで

東北大学名誉教授の平間 正博 教授によって執筆された追悼記事です。オープンアクセスになっています。

東北大学名誉教授・徳島文理大学名誉教授であられる伊東 先生は、2018年4月21日、カナダ・ヴィクトリアの自宅で腎不全にて93歳で逝去されました。
世界的に活躍され、現代の日本の天然物合成化学、有機化学の礎を築かれました。この追悼記事をお読みになれば、そのことがより深くわかります。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。

感動の瞬間(Eureka Moment in My research):平衡と非平衡

感動の瞬間(Eureka Moment in My research)の第四弾は、東北大学大学院薬学研究科の山口 雅彦 教授による寄稿記事です。

ご自身のラセン有機化合物の合成研究を通して、平衡と非平衡とな何なのかを、いくつもの感動を経て追究されてきました。オープンアクセスです。

これまでの紹介記事は有機合成化学協会誌 紹介記事シリーズを参照してください。

関連書籍

[amazonjs asin=”4759819320″ locale=”JP” title=”企業研究者たちの感動の瞬間: モノづくりに賭ける夢と情熱”] [amazonjs asin=”4759810803″ locale=”JP” title=”化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語”]

Avatar photo

めぐ

投稿者の記事一覧

博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

関連記事

  1. 『鬼滅の刃』の感想文~「無題」への回答~
  2. 香りの化学4
  3. 100年前のノーベル化学賞ーフリッツ・ハーバーー
  4. アスタチンを薬に使う!?
  5. MEDCHEM NEWS 32-3号「シン・メディシナルケミスト…
  6. 普通じゃ満足できない元素マニアのあなたに:元素手帳2016
  7. 含ケイ素四員環 -その1-
  8. ゾル-ゲル変化を自ら繰り返すアメーバのような液体の人工合成

注目情報

ピックアップ記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスのためのデータサイエンティスト入門
  2. 株式会社メカノクロス – メカノケミストリーの社会実装に向けた企業の設立
  3. 量子化学計算を駆使した不斉ホスフィン配位子設計から導かれる新たな不斉ホウ素化反応
  4. 理系の海外大学院・研究留学記
  5. カルベン触媒によるα-ハロ-α,β-不飽和アルデヒドのエステル化反応
  6. 国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ
  7. ナノ合金の結晶構造制御法の開発に成功 -革新的材料の創製へ-
  8. 武田薬品工業、米バイオベンチャー買収へ 280億円で
  9. 若手化学者に朗報!YMC研究奨励金に応募しよう!
  10. 第64回―「ホウ素を含むポルフィリン・コロール錯体の研究」Penny Brothers教授

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年8月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP