[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

C–NおよびC–O求電子剤間の還元的クロスカップリング

[スポンサーリンク]

C–N求電子剤とC–O求電子剤間のクロスカップリング反応が初めて開発された。有機化合物中に普遍的に存在する窒素原子および酸素原子を利用する本手法は、C–C結合形成の新たな戦略として期待される。

求電子剤から直接C–C結合を形成するクロスカップリング反応

遷移金属触媒を用いるクロスカップリング反応は、有機合成領域における最も有用な合成手法の一つである。従来は、化学量論量の有機金属試薬と求電子剤を反応させていたが、近年、二種類の求電子剤を用いた還元的クロスカップリング反応が注目を集めている(1)
先駆的な例として、1996年にPérichonらはNi触媒を用いた有機ハロゲン化物同士のクロスカップリング反応に成功した(1)。本手法は電気化学条件を必要としたが、その後PérichonらやGosminiら、Weixらにより、還元剤を利用したクロスカップリングが報告された(図1A(a))(1)
一方でハロゲン化物に代わりC–O求電子剤と有機ハロゲン化物を用いたクロスカップリング反応がいくつかのグループから報告されている(図1A(b))。またC–N求電子試薬として、アンモニウム塩を利用したクロスカップリングが古くから知られる(図1A(c))(2)。しかし、アリールハライドを一切用いない還元的カップリングの報告例は未だに少ない。
今回Shu教授らは、ベンジル/アリールアンモニウム塩とビニルアセテートまたはアリールトリフラートを用いたカップリング反応の開発に成功した(図1B)。反応機構に関する検討から、本カップリング反応ではラジカルが関与することが明らかになった。

図1. (Aa) 還元的クロスカップリング反応とこれまで利用された (Ab) C–Oまたは (Ac) C–N求電子剤 (B) 今回の報告

 

“Reductive Coupling between C–N and C–O Electrophiles”

He, R.; Li, C.; Pan, Q.; Guo, P.; Liu, X.; Shu, X.J. Am. Chem. Soc. 2019, 141, 12481.

DOI: 10.1021/jacs.9b05224

論文著者の紹介


研究者:Xingzhong Shu
研究者の経歴:
2001-2005 B.S., Shaoxing University
2005-2010 Ph.D, Lanzhou University (Prof. Yongmin Liang)
2010-2012 Postdoc, University of Wisconsin–Madison (Prof. Weiping Tang)
2012-2015 Postdoc, University of California, Berkeley & Lawrence Berkeley National Laboratory (Prof. Dean F. Toste and Prof. Paul Alivisatos)
2015- Professor, Lanzhou University
研究内容:C–O/C–N結合の還元的官能基化反応、アルケンを用いた求電子剤同士の不斉クロスカップリング反応

論文の概要

本反応はアンモニウム塩1とビニルアセテート2またはアリールトリフラート3を、NiBr2(diglyme)/Bphen触媒とMn存在下DMF溶媒中で反応させることで、カップリング体4または5を生成する(図2A)。

ビニルアセテートの適用範囲を調査したところ、本反応ではアルケン誘導体(4a, 4c)、スチレン誘導体(4b)が良好な収率で対応するカップリング体を与えた。さらに種々のアリールトリフラート誘導体(5a5c)を用いた場合にも効率良くカップリングが進行した。このカップリングにはベンジルアンモニウム塩(4a, 4b,5a5c)やアリールアンモニウム塩(4c)が利用可能であった。
続いて、著者らは本反応にラジカルが関与するのではないかと考え、種々の実験により反応機構解析を行った(図2B)。

最適条件で1bのみを反応させた場合、還元体6およびホモカップリング体8が得られるが、水素ドナーであるHantzschエステルを加えると8の生成が抑制された。続いて酸素雰囲気下反応を行うと8が殆ど得られず、代わりにベンズアルデヒド7が生成した(図2B(1))。さらなる検証のため1bとラジカルクロック9を反応させた結果、環拡大生成物10が得られた。

また、シクロプロピル基を有するアンモニウム塩1cをビニルアセテート2bと反応させた際に開環体12, 13が得られている(図2B(2))。以上の結果より、本反応ではニッケル触媒によりベンジルアンモニウム塩からベンジルラジカルが生成することが示唆される。

図2. (A) 基質適用範囲 (B)反応機構解明実験

 

以上、ベンジル/アリールアンモニウム塩とビニルアセテートまたはアリールトリフラートを用いたカップリング反応が開発された。今後C–C結合形成の新たな方法論として用いられることが期待される。

 参考文献

  1. Knappke, C. E. I.; Grupe, S.; Gar̈tner,D.; Corpet, M.; Gosmini, C.; Jacobi von Wangelin, A. Reductive Cross-Coupling Reactions between Two Electrophiles. Chem- Eur. J. 2014,20,6828. DOI: 10.1002/chem.201402302
  2. (a) Richmond, E.; Moran, J. Recent Advances in Nickel Catalysis Enabled by Stoichiometric Metallic Reducing Agents. Synthesis 2018,50,DOI: 10.1055/s-0036-1591853(b) Vara, B. A.; Patel, N. R.; Molander, G. A. O-Benzyl Xanthate Esters under Ni/Photoredox Dual Catalysis: Selective Radical Generation and Csp3–Csp2Cross-Coupling.ACS Catal.2017,7,3955.DOI: 10.1021/acscatal.7b00772(c) Jia, X.-G.; Guo, P.; Duan, J.-C.; Shu, X.-Z. Dual Nickel and Lewis Acid Catalysis for Cross- electrophile Coupling: the Allylation of Aryl Halides with Allylic Alcohols. Chem. Sci.2018, 9,640. DOI: 10.1039/c7sc03140h(d) Wenkert, A.-L. Han and C.-J. Jenny, J. Chem. Soc.Chem. Commun.1988,0,975. DOI: 10.1039/C39880000975
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. ケムステVシンポまとめ
  2. アザボリンはニ度異性化するっ!
  3. DOIって何?
  4. 生体医用イメージングを志向した第二近赤外光(NIR-II)色素:…
  5. SDFって何?~化合物の表記法~
  6. 取り扱いやすく保存可能なオキシム試薬(O-ベンゼンスルホニルアセ…
  7. 定型抗精神病薬 「ピモジド」の化学修飾により新規難治性疼痛治療薬…
  8. センチメートルサイズで均一の有機分子薄膜をつくる!”…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ペルフルオロデカリン (perfluorodecalin)
  2. 化学系学生のための就活2020
  3. 化学者のためのエレクトロニクス講座~電解で起こる現象編~
  4. 【PR】Chem-Stationで記事を書いてみませんか?【スタッフ・寄稿募集】
  5. ダフ反応 Duff Reaction
  6. アメリカで Ph.D. を取る -Visiting Weekend 参加報告 (前編)-
  7. DNAを切らずにゲノム編集-一塩基変換法の開発
  8. ソウル大教授Nature Materials論文捏造か?
  9. Marcusの逆転領域で一石二鳥
  10. トリプトファン選択的タンパク質修飾反応 Trp-Selective Protein Modification

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年10月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

ダイヤモンド半導体について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、究極の…

有機合成化学協会誌2025年6月号:カルボラン触媒・水中有機反応・芳香族カルボン酸の位置選択的変換・C(sp2)-H官能基化・カルビン錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年6月号がオンラインで公開されています。…

【日産化学 27卒】 【7/10(木)開催】START your ChemiSTORY あなたの化学をさがす 研究職限定 Chem-Talks オンライン大座談会

現役研究者18名・内定者(26卒)9名が参加!日産化学について・就職活動の進め方・研究職のキャリアに…

データ駆動型生成AIの限界に迫る!生成AIで信頼性の高い分子設計へ

第663回のスポットライトリサーチは、横浜市立大学大学院 生命医科学研究科(生命情報科学研究室)博士…

MDSのはなし 骨髄異形成症候群とそのお薬の開発状況 その2

Tshozoです。前回はMDSについての簡易な情報と歴史と原因を述べるだけで終わってしまったので…

水-有機溶媒の二液相間電子伝達により進行する人工光合成反応

第662回のスポットライトリサーチは、京都大学 大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 阿部竜研究…

ケムステイブニングミキサー 2025 報告

3月26日から29日の日本化学会第105春季年会に参加されたみなさま、おつかれさまでした!運営に…

【テーマ別ショートウェビナー】今こそ変革の時!マイクロ波が拓く脱炭素時代のプロセス革新

■ウェビナー概要プロセスの脱炭素化及び効率化のキーテクノロジーである”マイクロ波…

予期せぬパラジウム移動を経る環化反応でベンゾヘテロールを作る

1,2-Pd移動を含む予期せぬ連続反応として進行することがわかり、高収率で生成物が得られた。 合…

【27卒】太陽HD研究開発 1day仕事体験

太陽HDでの研究開発職を体感してみませんか?私たちの研究活動についてより近くで体験していただく場…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP