[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

立体選択的な(+)-Microcladallene Bの全合成

[スポンサーリンク]

 

D. Kim, Park, B. Kim, H. Kim, and D. Kim.Angew. Chem. Int. Ed.,2006, 46, 4726 DOI:10.1002/anie.200700854.

 

ソウル大学(Seoul National University)のKimらによる(+)-Microcladallene Bの全合成です。どうでもよい話ですが、この著者たちみんなKimです(苦笑)。

海洋天然物である(+)-Microcladallene Bはテトラヒドロフラン環とα,α-transオキソセンがcisに縮環した、2,9-dioxabicyclo-[6.4.0]dodecaneを骨格に、アレーンとブロモ基を有するユニークな構造を有しています

 

鍵反応は、ジアニオンアルキル化、閉環メタセシス、SmI2を用いた環化反応と特別目新しいところはないですが、始めに導入した不斉点を足がかりにして、きれいに合成しています。

 

注目すべきところ、 以下のハロゲン化反応。ブロモ化が、立体保持で進行しています。おかしなスルホナートを使っているところ、TBDPS基が外れているのもちょっと気になりますね。どう思いますか?

 

NALG

おそらく賢い方はすぐにわかったと思います。そうです、この怪しげなアリールスルホナートが存在することによりSNi反応が進行しているのです。残念ながらTBDPSが外れて、水酸基がSN2反が起こり、立体反転、BrアニオンがSN2反応がおこり立体反転し、結果的に立体保持したわけではありません。TBDPSはたまたま外れてラッキーというだけでした。

 

つまり、図のようにスルホナートにある酸素原子が、金属(ここではチタン)に配位して、生じたカチオン中間体に分子内からブロモアニオンが攻撃つまりSNi反応を起こしているのです。

 

NALG2

 

SNi反応はSN1反応と異なりラセミ化、エピメリ化もしないですし、立体を保持したまま反応させることができます。このアリールスルホナートのような役割をする脱離基をNALG(Nucleophile Assisting Leaving Groups)といい、著者らはNALGを利用したハロゲン化反応[1]により、良好な収率で臭素を導することに成功しています。

 

関連文献

  1.  Lepore, S. D.; Bhunia, A. K.; Cohn, P.J. Org. Chem.2005, 70, 8117.  DOI:10.1021/jo051241y

 

外部リンク

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 化学結合の常識が変わる可能性!形成や切断よりも「回転」プロセスが…
  2. 電気化学的HFIPエーテル形成を経る脱水素クロスカップリング反応…
  3. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の応用 ー新しい…
  4. 有機合成化学協会誌2024年11月号:英文特集号
  5. トンネル効果が支配する有機化学反応
  6. 【ワイリー】日本プロセス化学会シンポジウム特典!
  7. 書店で気づいたこと ~電気化学の棚の衰退?~
  8. 炭素をつなげる王道反応:アルドール反応 (4)

注目情報

ピックアップ記事

  1. 自己多層乳化を用いたマトリョーシカ微粒子の調製 〜油と水を混ぜてすぐ固めるだけ〜
  2. 2018年1月20日:ケムステ主催「化学業界 企業研究セミナー」
  3. 炭素原子のまわりにベンゼン環をはためかせる
  4. 研究室の安全性は生産性と相反しない
  5. 第159回―「世界最大の自己組織化分子を作り上げる」佐藤宗太 特任教授
  6. とある水銀化合物のはなし チメロサールとは
  7. メカニカルスターラー
  8. ウィッティヒ反応 Wittig Reaction
  9. 砂糖から透明樹脂、大阪府立大などが開発に成功
  10. ランシラクトンCの全合成と構造改訂-ペリ環状反応を駆使して-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

先端の質量分析:GC-MSおよびLC-MSデータ処理における機械学習の応用

キャラクタライゼーションの機械学習応用は、マテリアルズ・インフォマティクス(MI)およびラボオートメ…

原子半径・電気陰性度・中間体の安定性に起因する課題を打破〜担持Niナノ粒子触媒の協奏的触媒作用〜

第648回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(山口研究室)博士課程後期2年の松山…

リビングラジカル重合ガイドブック -材料設計のための反応制御-

概要高機能高分子材料の合成法として必須となったリビングラジカル重合を、ラジカル重合の基礎から、各…

高硬度なのに高速に生分解する超分子バイオプラスチックのはなし

Tshozoです。これまでプラスチックの選別の話やマイクロプラスチックの話、およびナノプラスチッ…

新発想の分子モーター ―分子機械の新たなパラダイム―

第646回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機反応論研究室 助教の …

大人気の超純水製造装置を組み立ててみた

化学・生物系の研究室に欠かせない超純水装置。その中でも最も知名度が高いのは、やはりメルクの Mill…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP