[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

リチウムにビリリとしびれた芳香環

[スポンサーリンク]

リチウムイオン電池の電極として炭素材料は注目を浴びてきました。あなたが今お使いのノートパソコンにもリチウムイオン電池が使われているかもしれませんね。

炭素材料はたいていグラフェンを用います。グラフェンは芳香環が延々と続いたような化学構造をしています。今回、芳香環を持ったモデル化合物を用いた実験により、リチウムイオン電池がどこまで高性能になるのか、新たに限界が明らかにされました。芳香環と芳香環の間に最大いくつまでリチウムイオンをためられるのか、限界を迎えたときに炭素骨格はどうなるのか、その答えはいかに!?

軽さの割に高容量で、充電も可能なリチウムイオン電池は、年々工夫がほどこされ、現代の最先端となると、何重にも工夫がはりめぐらされ、それ自体で芸術作品とも言えるほど、技術の緻密な積み重ねで成り立っています。一般には、正極にリチウム金属酸化物を用い、負極にグラファイト(黒鉛)のような炭素材料を用いるものが主流とされます。

ここで言うグラファイトとは、グラフェンの層が積み重なったものです。グラフェンの化学構造は、ベンゼン環が無限に連なり炭素原子が同一平面に広がったようなものです。リチウムイオンが電解質を動き回り、グラフェンの層と層の間に挟まることが、リチウムイオン電池が動作するための重要なポイントのひとつです。

 

グラフェンのように、リチウムイオン電池のための、炭素を用いた電極材料がさかんに研究されてきましたが、ベンゼン環のような六角形の芳香環と芳香環の間に、リチウムイオンが最大いくつまで挿入することができるかは、明らかにされていませんでした。従来はせいぜい2つ程度だろうと思われていました。

2015-12-01_16-25-58

最大ここまでいける!

六角形のベンゼン環が2つ隣り合ったナフタレン環を持つナフタレンテトラカルボン酸二無水物をモデル化合物にして実験したところ、6つの炭素原子が、最大で6つものリチウムイオンを許容できることが、明らかになりました。芳香環の6つの炭素原子あたり、限界は「」ということになります。ここまで来ると、炭素原子は同一平面上に並ぶことができません。

 

今回「リチウムイオン6つまで可能」と限界が示されました。この限界に挑むことで、グラフェンに根差した従来の電極材料は、さらなる改良が可能になるかもしれません。

 

参考論文

  1.  “How Many Lithium Ions Can Be Inserted onto Fused C6 Aromatic Ring Systems?” Xiaoyan Han et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2012 DOI: 10.1002/anie.201109187

 

関連書籍

 

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 有機反応を俯瞰する ーエノラートの発生と反応
  2. 【書籍】クロスカップリング反応 基礎と産業応用
  3. 第47回ケムステVシンポ「マイクロフローケミストリー」を開催しま…
  4. THE PHD MOVIE
  5. 非天然アミノ酸触媒による立体選択的環形成反応
  6. X線分析の基礎知識【X線の性質編】
  7. 分子の対称性が高いってどういうこと ?【化学者だって数学するっつ…
  8. 従来のペプチド合成法に替わるクリーンなペプチド合成法の確立を目指…

注目情報

ピックアップ記事

  1. タミフル(オセルタミビル) tamiflu (oseltamivir)
  2. 解毒薬のはなし その1 イントロダクション
  3. ノーコードでM5Stack室内環境モニターを作ろう
  4. 合成化学者のための固体DNP-NMR
  5. 「オープンソース・ラボウェア」が変える科学の未来
  6. 米デュポンの第2・四半期決算は予想下回る、エネルギー費用高騰が打撃
  7. ペプチドの特定部位を狙って変換する -N-クロロアミドを経由するペプチドの位置選択的C–H塩素化-
  8. IBX酸化 IBX Oxidation
  9. 電池長寿命化へ、充電するたびに自己修復する電極材
  10. 芳香族化合物のニトロ化 Nitration of Aromatic Compounds

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年5月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

ルイス酸性を持つアニオン!?遷移金属触媒の新たなカウンターアニオン”BBcat”

第667回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科 野崎研究室 の萬代遼さんにお願いし…

解毒薬のはなし その1 イントロダクション

Tshozoです。最近、配偶者に対し市販されている自動車用化学品を長期に飲ませて半死半生の目に合…

ビル・モランディ Bill Morandi

ビル・モランディ (Bill Morandi、1983年XX月XX日–)はスイスの有機化学者である。…

《マイナビ主催》第2弾!研究者向け研究シーズの事業化を学べるプログラムの応募を受付中 ★交通費・宿泊費補助あり

2025年10月にマイナビ主催で、研究シーズの事業化を学べるプログラムを開催いたします!将来…

化粧品用マイクロプラスチックビーズ代替素材の市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、化粧品…

分子の形がもたらす”柔軟性”を利用した分子配列制御

第666回のスポットライトリサーチは、東北大学多元物質科学研究所(芥川研究室)笠原遥太郎 助教にお願…

柔粘性結晶相の特異な分子運動が、多段階の電気応答を実現する!

第665回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院工学研究科(芥川研究室)修士2年の小野寺 希望 …

マーク・レビン Mark D. Levin

マーク D. レビン (Mark D. Levin、–年10月14日)は米国の有機化学者である。米国…

もう一歩先へ進みたい人の化学でつかえる線形代数

概要化学分野の諸問題に潜む線形代数の要素を,化学専攻の目線から解体・解説する。(引用:コロナ…

ノーベル賞受賞者と語り合う5日間!「第17回HOPEミーティング」参加者募集!

今年もHOPEミーティングの参加者募集の時期がやって来ました。HOPEミーティングは、博士課…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP