[スポンサーリンク]

ケムステニュース

AIを搭載した化学物質毒性評価サービス「Chemical Analyzer」の販売を開始

[スポンサーリンク]

インフォコム株式会社は、欧米の化学、製薬企業や研究機関にITサービスを提供するViridisChem,Inc.と販売代理店契約を締結し、化学物質毒性評価システム「Chemical Analyzer(ケミカルアナライザー)」の販売を開始しました。 (引用:SankeiBiz 6月10日)

Chemical Analyzerは、化学物質の健康毒性及び環境毒性を評価するシステムで、

  • 9千万を超える化合物の物性や化学的特性、毒性
  • 各国の化学物質管理システムへの登録状況
  • GHS区分UN番号

といった情報がまとめられていて、化学名や分子構造から調べたい分子の情報の検索や比較が容易にできるようなインターフェイスになっています。

さらに、実測値がない化合物についてもAIを使って毒性を予測することができることがこのシステムの大きな特徴です。検索方法も簡単で「New molecule」で調べたい化合物の構造を入力すると、AIによって予測された毒性のチャートが表示され、指定した構造の毒性の予測だけでなく毒性の少ない代替物質を提案する機能も有しているそうです。毒性の予測については、Deep learningの技術を応用していて、過去の予測をこのシステムが学習することで、より高い精度の予測を示すことができるようになっています。さらに実測値のデータが追加されることで、さらに予測値の値も正確性が向上されるようになります。

Chemical Analyzerのデモ、毒性の予測機能は、後半で登場

このシステムを開発したViridisChem,Inc.は、2014年に設立されたベンチャー企業で、創業者であるNeelam Vaidya博士は、化学とコンピューターサイエンスをバックグラウンドに持ち、IBMやSun Microsystemsでシステム開発の経験があります。ViridisChemの創業前には、ChiroSolve Inc.という別のベンチャー企業を立ち上げた経験もあり、ジアステレオマー法によるキラル分割に最適な光学分割剤・溶媒をハイスループットにスクリーニングするキットを開発してきたようです。その他のメンバーとしてAIと薬学、化学の専門家両方が入っていて、毒性を予測するAIは化学的なアプローチが考慮されて構築されていることが予想されます。

数々の賞を受賞していて、2017年には国連環境計画(UNEP)より「持続可能な化学に影響を与える最も革新的な新興企業」として選出されました。

化学品の開発において、どの産業でも毒性の評価は重要です。エンドユーザーが直接触れる化学品でなくても、取り扱う人の健康被害や、廃棄の過程での自然界への流出も考えて毒性の高い化学品で商品化を行うことは、難しくなっています。また、各国の化学品への規制も強くなっていて、規制の対象物質を含む製品は輸入不可などの厳しい制限がかかることもあります。そのため、毒性の有無を調べることは重要ですが、試験費用は高額で試験に必要な期間も長期に渡るため、開発初期でスクリーニングするよう種類の試験ではないと思います。そのため、開発初期に毒性がありそうな化合物の候補を試験なしで除外出来れば、性能評価に集中することができますが分子構造の小さな違いによって毒性は大きく異なるため、官能基やの炭素数で一概に毒性を予測することは容易ではありません。そのためこのChemical AnalyzerのAIによる毒性予測は、開発初期で毒性の高い化学品が含まれるリスクを減らすことができるため、企業の製品開発では特に有用であると考えられます。現状、化学品を認証したり登録する場合には、実験的に評価を行った実測値が必要ですが、十分な正確性をもって構築されたモデルを使った予測値でも登録できるようになれば、より測定費用や期間を抑えられるのではないかと思います。毒性などについては安全に関わることであり、なかなかルールを変えることは難しいですが、化学者が予測技術について正しく理解しAIの技術がより一般的になれば、実現できるのではないでしょうか。

近年のAI分野の発展により、化学に関連する様々な物性や性能を構造式から予測できるようになりました。次の展開として予測モデル同士の組み合わせが考えられ、一見知りたい結果と関連がなさそうなパラメーターでも、予測モデルの中では重要な相関を持つ可能性もあり、複数の結果を予測するモデルを組み合わせることで、お互いの予測精度を高めることができると考えられます。そのため予測システムの統合や連携が進むことを期待します。

関連書籍

[amazonjs asin=”4840813531″ locale=”JP” title=”医薬品GLPと毒性試験の基礎知識 第2版”] [amazonjs asin=”4873265665″ locale=”JP” title=”最新OECD毒性試験ガイドライン―英和対訳”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 光触媒で空気中に浮遊する”新型コロナウイルス”の感染性を消失させ…
  2. 日本コンピュータ化学会2005秋季年会
  3. 潤滑剤なしで抜群の滑りを実現する「自己潤滑性XXドーム」が開発さ…
  4. 積水化学、高容量電池の火炎防ぐ樹脂繊維複合材を開発
  5. ポリエチレンなど合成樹脂、値上げ浸透
  6. 2010年日本化学会各賞発表-学会賞-
  7. ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起
  8. 超合金粉末の製造方法の改善に機械学習が試行される

注目情報

ピックアップ記事

  1. もし新元素に命名することになったら
  2. 市民公開講座 ~驚きのかがく~
  3. マテリアルズ・インフォマティクスの普及に取り組む事業開発ポジションとは?〜最前線メンバー3人のキャリア選択と今について語る〜
  4. グラム陰性菌を爆沈!!Darobactin Aの全合成
  5. 平成をケムステニュースで振り返る
  6. ナノグラムの油状試料もなんのその!結晶に封じて分子構造を一発解析!
  7. スズ化合物除去のニュースタンダード:炭酸カリウム/シリカゲル
  8. Carl Boschの人生 その1
  9. 最も安価なエネルギー源は太陽光発電に
  10. アシロイン縮合 Acyloin Condensation

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2020年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP