[スポンサーリンク]

一般的な話題

陶磁器釉の構造入門-ケイ酸、アルカリ金属に注目-

[スポンサーリンク]

 

世の中に存在するほとんどの陶磁器の釉薬の組成はケイ酸が大部分を占めており、このケイ酸がネットワークを組んでいます。さて、釉薬の組成を表す一般式であるゼーゲル式は以下の通りです。軽めのゼーゲル式の説明はこの記事内にあります。

aR2O / bRO } xAl2O3ySiOただしa+b=1

 大抵の場合、y xに比べ数倍大きな値を取るように調合します。ケイ酸の方が全然多いということです。本記事ではとりあえずアルミニウムのことは置いておき、ケイ酸がどんな構造をとっているのか、Rすなわちアルカリ金属がどんな働きをするのかについてお話致します。私の落書き付きです。

ケイ酸ネットワーク

以下にケイ酸ネットワークの平面構造(落書き①)を示します。大きな白丸がSiで小さな赤丸がOです。(実際は三次元的にSiとOが繋がっていますが省略しています。)釉薬は基本的な構造はケイ酸のアモルファスなのです。一度1300℃に近い環境で焼成され、そこから冷却されていく過程でガラス転移温度を下回り、ガラスとなった状態ですね。Siに着目してやれば5員環、6員環、7員環…と、様々な構造をとっていることがわかります。ただしSiは三次元的に見てやれば、更に二つの酸素と手をつないで四面体構造をとっていますので、組成としてはSiO2です。

落書き① ケイ酸ネットワークの平面構造

 

アルカリ金属たちは?

釉薬にはカリウムKやナトリウムNaなどのアルカリ金属や、マグネシウムMgやカルシウムCaなどのアルカリ土類金属も含まれます。こいつらは釉薬中ではカチオンとしてケイ酸ネットワークの隙間に入り込みます。下に落書き②を示します。橙丸は金属カチオンを表しています。カチオンが入り込むと電気的な不安定さを解消するために、一部の酸素はSiと手をつながずに、酸素アニオンとなるやつがでてきます。こうしてネットワークに亀裂が生まれるのです。二酸化ケイ素の融点は1600℃以上にもなります。やきものは高くても1300℃程度で焼けて欲しいものです。アルカリ分たちは融点降下の効果があるってことです。

落書き② 隙間にカチオンが入り込んだもの

なお、一価のカチオンなのか二価なのか、あるいは第何周期なのか(イオン半径はどの程度か)という違いでも、釉薬自体の機械強度や融点も変わってきます。下に最後の落書き③を示します。ナトリウムイオンよりイオン半径の大きいカリウムイオンのほうがよりケイ酸ネットワークを押し広げ、釉薬を’弱く’させそうなことが想像できますね。

落書き③

Na+は第三周期でMg2+も同じ第三周期ですから、後者の方が電荷密度が大きく、よりケイ酸構造を引き締めたりするわけですよ。同じ周期だとそういう違いがあったりします。そういうことをなんとなく考えながらNa多めの長石(ソーダ長石なんて陶芸家は呼びます)にするか、K多めの長石(カリ長石)にするか、あるいはその中間をとるか、なんてことを決めて釉薬作りに励むのです。

ちなみに、Siのようにアモルファスに単体でなることができるようなものをglass network formerと呼んだりすることがあります。ナトリウムやカリウムはそれ単体としてアモルファス固体になるには厳しいですからガラスのネットワークの隙間に入り込んだりしています。これらは、glass network modifierと呼ばれたりします。

最後に

今回はこの辺でお終いです。陶磁器をご使用になる前に、そうか!隙間に軽い金属のカチオンが隠れているのか!って思いながら眺めてやってください。

参考文献

  • 高嶋廣夫著,’陶磁器釉の科学’,株式会社内田老鶴圃(1994).

関連書籍

[amazonjs asin=”4416517041″ locale=”JP” title=”陶芸 銅・マンガン・クロムを使った装飾技法: 金属顔料で新しい色彩表現に挑む”] [amazonjs asin=”4526053104″ locale=”JP” title=”トコトンやさしいガラスの本 (B&Tブックス―今日からモノ知りシリーズ)”]

SASAKI

投稿者の記事一覧

我輩は応用化学科の学部生である。専門はまだない。(とか言ってたらラボは化学工学系に決まりました。)将来の夢が陶芸家なのか研究者なのかわかんなくなっている迷い猫です。

関連記事

  1. 褐色の要因となる巨大な光合成膜タンパク質複合体の立体構造の解明
  2. 学会ムラの真実!?
  3. 複雑な試薬のChemDrawテンプレートを作ってみた
  4. 化学者のためのエレクトロニクス講座~配線技術の変遷編
  5. ペーパーミル問題:科学界の真実とその影響
  6. タンパク質機能をチロシン選択的な修飾で可逆的に制御する
  7. 半導体・センシング材料に応用可能なリン複素環化合物の誘導体化
  8. マテリアルズ・インフォマティクスに欠かせないデータ整理の進め方と…

注目情報

ピックアップ記事

  1. メラノーマ治療薬のリード化合物を発見
  2. ペロブスカイト太陽電池が直面する現実
  3. 第160回―「触媒的ウィッティヒ反応の開発」Christopher O’Brien博士
  4. 2011年日本化学会各賞発表-学会賞-
  5. 4つの性がある小鳥と超遺伝子
  6. 誰もが憧れる天空の化学研究室
  7. 第59回「希土類科学の楽しさを広めたい」長谷川靖哉 教授
  8. 米国もアトピー薬で警告 発がんで藤沢製品などに
  9. 新たな環状スズ化合物の合成とダブルカップリングへの応用
  10. 酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年8月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

日本プロセス化学会2024ウインターシンポジウム

有機合成化学を基盤に分析化学や化学工学なども好きな学生さん、プロセス化学を知る絶好の…

2024年ノーベル化学賞は、「タンパク質の計算による設計・構造予測」へ

2024年10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル化学賞を発表しました。今…

デミス・ハサビス Demis Hassabis

デミス・ハサビス(Demis Hassabis 1976年7月27日 北ロンドン生まれ) はイギリス…

【書籍】化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学(CSJカレントレビュー: 50)

概要これまで化学は,解析と合成を両輪とし理論・実験を行き来しつつ発展し,さまざまな物質を提供…

有機合成化学協会誌2024年10月号:炭素-水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年10月号がオンライン公開されています。…

レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~

Tshozoです。筆者が所属する組織の敷地に大きめの室外冷却器がありほぼ毎日かなりの音を立て…

Pdナノ粒子触媒による1,3-ジエン化合物の酸化的アミノ化反応の開発

第629回のスポットライトリサーチは、関西大学大学院 理工学研究科(触媒有機化学研究室)博士課程後期…

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP