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2019年ノーベル化学賞は「リチウムイオン電池」に!

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スウェーデン王立科学アカデミーは9日、2019年のノーベル化学賞を、リチウムイオン電池を開発した旭化成の吉野彰・名誉フェロー(71)ら3人に授与すると発表した。リチウムイオン電池は軽量かつ高出力で、充電して繰り返し使える。スマートフォンやノートパソコン、電気自動車などに広く使われており、人々の生活を変えた業績が評価された。 授賞理由は「リチウムイオン電池の開発」。同時に受賞するのは米テキサス大オースティン校のジョン・グッドイナフ教授(97)、米ニューヨーク州立大ビンガムトン校のスタンリー・ウィッティンガム卓越教授(77)の2氏。グッドイナフ氏は1901年に授与が始まったノーベル賞史上、最高齢での受賞となる。(引用・読売新聞)

今年のノーベル化学賞は、以前から注目を集めていた「リチウムイオン電池」の研究に関わった3名の研究者が受賞しました。

世界を変えたリチウムイオン電池

リチウムイオン電池が出てくる前の時代は、若い人にはもはや想像すら出来ないかもしれません。
たとえば電話。各家庭に1台しかなく、女の子に電話するにも、お父さん・お母さんに取り次いでもらう必要がありました。もちろん、かけるのは近くの公園の公衆電話からです。
それが、コードレスホンの登場により、自分の部屋で友達と電話が出来るようになりました。続く携帯電話の登場により、いつでもどこでも誰とでもつながれる時代になっています。
また電車や飛行機の中では情報端末が使えず、仕事をすることは到底出来ませんでした。それがノートパソコンの登場により、電車や飛行機の中でも仕事が出来るようになりました。
このような革命的と呼ぶにふさわしい社会の変化を支えた技術こそが、リチウムイオン電池なのです。

電池世界の技術革新

古くは充電式バッテリー(二次電池といいます)として、「ニッカド電池」が使われていました。しかし容量の問題からたくさんの電池を積む必要があり、電話機も500mLペットボトルくらいの大きさになっていました。

そんなころ、電池の世界に起きた革命がリチウムイオン電池です。
・極めて強い還元剤「リチウム」を充填する炭素系負極材料
・強い酸化剤である遷移金属酸化物
・水よりも酸化還元に対して安定な有機溶媒
という組み合わせにより、3Vを超える高電圧を実現することが出来るようになりました。
ここにはいくつもの革新的な技術が用いられています。

インターカレーション物質を使ったリチウム電池の発明:スタンリー・ウィッティンガム

ノーベル財団プレスリリースより引用・改変

スタンリー・ウィッティンガムは正極材料として二硫化チタンを使い、負極にリチウム金属を使うことで、繰り返し充放電可能な新しい電池を開発しました。二硫化チタンは層状の化合物で、リチウムイオンが出入りしても形が壊れにくく、繰り返し充放電が可能な物質です。この”層状化合物にイオンが出入りする”という考え方は、インターカレーションと呼ばれており、その後の電池材料で広く使われている極めて重要な考え方になりました。しかしチタンの硫化物は重く、水などに不安定で、より性能の高い材料が求められました。

コバルト酸リチウムをリチウム電池に:ジョン・グッドイナフ

ノーベル財団プレスリリースより引用・改変

1980年、ジョン・グッドイナフは、コバルト酸リチウムという酸化物がリチウムイオン電池の正極材料に適していることを報告します。
これは酸素並に強い酸化力を有しており、高い電圧が見込めるうえ、充放電を繰り返しても安定な、とても「使える」材料です。グッドイナフは元々物理学者で、酸化物内部の電子の性質に関する理論的な研究で世界的に有名でした。その研究の中で、彼はニッケル酸リチウムという、よく似た化合物を1958年に報告しています。このリチウムを含んだ酸化物でリチウムイオン電池を作製したグッドイナフと、そこに留学していた水島公一らは、コバルト酸リチウムがリチウムを極めて効率よく出し入れすることを見出し、報告しました。これが今でも利用されるコバルト酸リチウムを使ったリチウム電池となりました。

このリチウム電池は、それまでのマンガン電池や鉛蓄電池よりも小さくてパワフルという特徴がありましたが、充放電を繰り返すとリチウムの表面に針状の金属が成長し、正極まで到達して爆発する、という問題がありました。

炭素負極の開発とリチウムイオン電池の完成:吉野彰

ノーベル財団プレスリリースより引用・改変

そこに登場したのが、旭化成、ソニーといった、当時隆盛を極めていた日本企業です。当時旭化成に所属していた吉野彰は、金属リチウムの代わりに、ポリアセチレン(ノーベル賞を受賞した白川英樹氏が発見)にリチウムイオンを取り込んでやればいい、ということを見いだし、さらに電極の間にポリエチレン膜を挟むことで、安定な電池を作りました。この電池では、リチウムは金属化しないので、リチウム”イオン”電池と名付けられました。その後、ポリアセチレンの代わりにグラファイトなどのカーボン材料が用いられるようになります。

リチウムイオン電池は、それまで使われていたニッカド電池やニッケル水素電池と比較して、小型でたくさんのエネルギーを発生させることができ、勝手に放電しないため1年くらい放置してもすぐ使える、電圧が高いので電池の数を少なくできる、充電したエネルギーをほとんど使いきることができるなど、様々な点で優れた性質を持っています。そのため、昨今のようにノートパソコン・携帯電話を誰もが常に持ち運び、いつでもどこでもつながりあえる、ユビキタスコンピューティング・SNS時代の発展になくてはならないものとなりました。

さらに、よりパワーの必要な太陽電池のエネルギーを蓄えたり、電力を平準化する用途や電気自動車・ハイブリッド車など、「コンセントいらずの電子機器」のほとんどすべてに搭載されるに至っています。

その礎となる研究に、今回、ノーベル化学賞が受賞されました。
現代の生活を一変させたという意味では、極めて順当な受賞であると思います。

とりわけ基礎から応用まで幅広い研究を行うグッドイナフの研究スタイルは、現代の大学研究者の模範になるといえるかもしれません。

リチウムイオン電池の基礎的研究開発ではアメリカの力も大きかったものの、実用化面での研究開発は、かなりの側面で日本企業が世界をリードしており、誇るべきことだと思います。グッドイナフと同時期にコバルト酸リチウムを研究していた水島公一・東京大学名誉教授、またソニーで旭化成と競って炭素負極を開発していた西美緒氏など、リチウムイオン電池の研究には今回受賞していない日本人の大学・企業研究者が数多くいたことも併せて述べ、筆を置きたいと思います。

謝辞

本記事はケムステスタッフ・みねちゃん さんのご協力をあおぎ、作成致しました。

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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