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科研費の審査員を経験して

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さて、研究者の皆様におかれましては、【科学研究費補助金】の申請書作成がいろいろな意味で終了したころではないかと思います。かくいう私も、いろいろな意味で終了しました。良くあることなのですが、「来年こそはがんばろう」、という思いを強くしたに違いありません。

そんな研究者の皆様に、今回は、

「申請書はどうのように書くべきか」

ではなく、審査員の経験者であるapoptosisが、

「審査員は申請書のどんなところを気にするのか」

について何となくつぶやいてみたいと思います。

 

いきなりこんなことを言うのも何ですが、ケムステスタッフは非常に若い研究者がそろっています。しかも研究力もすばらしい人たちばかりです。そのため、ケムステの記事をお読みいただくことによってケムステスタッフの研究哲学を学ぶことができ、読者の皆様の申請書を作成する力がアップするのは間違いありません。事実、ケムステスタッフの中でおそらく一番年寄りのapoptosisも若い血を吸うことができ、とても良い刺激になっています。

 さて、そんな若い人たちで構成されているケムステスタッフですが、あまり若いと科学研究費の審査委員になることはできません。細かいことを言うと審査員になるための条件は年齢というわけではないのですが、とりあえず若い人が審査員になる確率は低いと言うことです。

ということで、年寄りのくせに筆の遅いapoptosisが、折角経験した科研費の審査で思ったこと、すなわち、申請書作成時にこんなことを気にしてほしかった事などを書き出してみます。

1.研究内容

 一番ここが大切ですね。まあ、当たり前ですが。ただ、たくさん情報を入れれば良いというわけではありません。いくら近い分野の研究者であるとは言っても、何でもかんでも分かる訳ではありません。そのため、大きいところから入って目的となる対象に向かってわかりやすく書いてあるかどうか、がポイントになります。

「え、そんなの当たり前だろ」

 という声が聞こえてきそうですが、意外と書けていない人が多いのです。逆に言うと、この流れがきちんと書けていると、審査員の頭の中に【研究の波及効果】が浮かび上がるようになります。この点を抑えると、長々と波及効果について説明する必要がなくなるというメリットがあります。ただし、鈍感な審査員だと分からない恐れはあります。

 次にこれまでの実績と絡めた取得したデータ等の図に関してです。化学式などは直感的に分かりやすいので良いのですが、写真などの図の場合、非常に微妙になります。今は白黒でしか審査員に届かないのでわかりにくい写真等の図を使う人は少ないでしょうが、【解説を多く必要とする図】の使用ははっきり言って理解を妨げます。ですので、図の説明に文章量が必要になる場合は、その図の使用は避けた方が賢明です。ただし、分野がストライクの審査員の場合は効果絶大だったりしますので、そんなに大きくない分野の場合はこの限りではないです。

 最後にオリジナリティ。これも当たり前なのですが、何故これがオリジナルなのかを短時間で理解するのは結構難しいんです。【世界で初めての報告】とか、【既成概念を覆す発見】とか、良く書かれているのですが、みんな同じ事が書かれていると、正直辟易してしまいます。だから、どうして【世界で初めての報告】なのか、その文章に至るまでにきちんとした説明がほしいですね。後、何故その発想に至ったのかが分かると好感度アップします。さらに、その研究者が得意とする【必殺技】によって初めて可能になる、なんて言うのは効果的です。ただし、その必殺技が効かない審査員もいる可能性はもちろんあります。

2.研究計画

  正直なところ、可能な限り生々しく書いてほしいのですが、紙面の都合上無理です。その上で、審査員にどれだけ研究の流れをイメージさせられるかがポイントになってくると思います。個人的には派手さのない【堅調な】研究計画が好きですが、そうは言っても申請者の【必殺技】が何処で出てくるのかも気になるところです。月並みなところでは、細目ごとの時間軸が視覚的に分かるようにしてもらうと評価しやすいのです。
いろいろ評価項目がある中、私が特に気にしたのは研究期間の配分です。研究期間は長く、予算は多くほしいのは理解できるのですが、例えば『3年間分ほしいから3年で計画した』のが分かるようでは非常に心証が悪くなります。『研究は計画的に』と言うことになるのですが、『目的を達成するための課題設定』および『個々の課題の期間配分』が審査員が容易に想像できるかが鍵になるのです。いくらやったことのない実験であっても、いたずらに長い期間を設定するとさすがに分かります。計画通りに研究がうまくいくかどうかは分かりませんが、とりあえず設定した項目が上手く消化できる期間を設定するようにしてください。あと、意外と設定項目が充実しているのにもかかわらず、期間設定が短すぎる人もいます。控えめに書いた方が良いと思って短くしたとしたならば完全に逆効果ですので、『可能な限り適切な期間設定』をしてください。

 最後に、『上手く進まなかったときの対応法』に関してですが、たいていの人は記載しているかと思います。もちろん、実際にうまくいかなかったときにどういう風に回避するのかを書くべきなのですが、目的のところでさりげなく言及した『波及効果』と絡められるとなお良いかと思います。どういう事かというと、当初目的とした事は達成できなくても、関連した研究に流し込めるような伏線を張っておくと、申請した研究計画の潜在的な壮大さを訴えることができます。ただし、くどいようですが鈍感な審査員だと分からない恐れはかなりあります。

3.その他の項目

たいてい上記2項目が上手く書けている申請書は高得点になりやすいのですが、意外とその後の項目を適当に書くと非常に印象が悪くなります。ちょっと目に余った気になった点を少し紹介したいと思います。

 まずは『予算』のところですが、研究開始してからまもなく『海外出張』を予定されている方が意外といらっしゃいます。連綿と続いている研究であることがきちんと書いてある場合は理解できるのですが、そうでない場合があります。そんなに焦って国際会議で発表する必要性は限りなく低いので、予算の妥当性に疑問符がつきます。 

 次は、『これまでに受けた研究費』および『申請中の研究費』の点です。はっきり言って、審査員はほとんどの申請者の名前を存じ上げません。ですので、これまでの研究実績というのは非常に気になるのです。そんなの、論文などのリストを見れば良いではないか、というのですが、論文の中味までは詳細に分からないので、こちらを読む方がよっぽど参考になります。ということで、スペースは少ないのですが、『何をやってきたのか』および『研究申請ごとの差異』をきちんと書いてください。このあたりから、申請者の『必殺技』が見えてくるので、意外と手は抜けないのです。

 最後は『誤字脱字』です。1,2カ所くらいあったところでどうも思わないのですが、同じ間違いを繰り返している、すなわち適当のコピペで作成しているのが分かってしまうような場合に関しては、その申請書の印象は非常に残念なものになってしまいます。ですので、ありがちな変換ミスなどは気合いを入れて見つけ出しましょう

 

こういう有用な(?)記事はもっと早い時期に書いてくれ!というおしかりの声が聞こえてきそうですが、あくまでも単なる1審査員の戯れ言であり、また、審査員は複数名つくわけですから、参考にしたからとって必ずしも役に立つとは限りません。それに、よくよく考えてみると、ここに書いたことのほとんどは当たり前のことです。ただ、この記事を来秋の初めころに思いだして、あたかも審査員ときちんと会話しているかのような申請書を書く時の参考にしていただければ幸いです。

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微生物から動物、遺伝子工学から有機合成化学まで広く 浅く研究してきました。論文紹介や学会報告などを通じて、研究者間の橋掛けのお手 伝いをできればと思います。一応、大学教員で、糖や酵素の研究をしております。

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