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化学者のつぶやき

高い分離能のCOF膜が作製可能な二段階構築法の開発

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極めて高い水透過性を有する共有結合性有機構造体(COF)膜を作製できる二段階構築法が開発された。これまで同時に行われていた重合と結晶化を二段階に分離したことで、高品質なCOF膜の作製が可能となった。

COF膜の二段階構築

共有結合性有機構造体COFは、H、C、N、O、B、Siなどの軽元素のみからなり、共有結合を介して形成された均一な多孔質構造を有する結晶性高分子材料である[1]。COFは、低密度かつ高比表面積でありながら、高い化学的安定性と規則的な細孔構造をもつだけでなく、前駆体の選択により細孔のデザインも可能である[2]。そのため、吸着剤、触媒、化学センサーなど様々な応用が期待されている(図1A)。中でも、高性能COF膜の膜分離技術への応用は、分離に使われているエネルギー消費(世界のエネルギー消費量の約10–15%)の削減が期待できるため、注目を集めている。

これまでに、高品質なCOF膜を作成するために様々な手法が開発されており、その代表的な手法として界面重合法がよく知られている[2]。例えば、Banerjeeらはアルデヒドモノマーを含む有機層とアミンモノマー含む水層の液-液界面で、重合と結晶化を同時に進行させることで、COF膜を作製した (図1B)[3]。この手法で得られるCOF膜は、良好な溶媒透過性と溶質阻止性をもつが、厚いCOF膜の形成が難しく機械的強度が低いため、分離膜への応用には適していない。

このような背景のもと、2020年に著者らは、界面が安定している固-気界面に着目し、COF膜形成がより速い固-気界面法を開発した(図1C)[4]。固-気界面法では、アルデヒドモノマーを基盤上に担持させ、アミンモノマー蒸気と固-気界面で重合と結晶化を同時に進行させCOF膜を作製する手法である。この手法では、固相モノマーの量の調節により膜の厚さが制御できる。しかし、この手法には、蒸気になりにくい(高沸点の)アミンモノマーが適用できない。そこで、今回著者らは、既存のCOF膜作製法の改良を目指し、二段階構築法を提案した(図1D)。第一段階で、アルデヒドモノマーとアミンモノマーの混合溶液を基盤(ITO)上に担持し、低温で反応させて粗生成膜を形成する。第二段階では、溶媒と触媒を含む気相中で加熱することで、COF膜を形成する。本手法は、従来法と異なり、重合と結晶化の工程を巧妙に分割したことで、高結晶性かつコンパクトなCOF膜が作製できた。また、モノマーは沸点による制約を受けないため、固-気界面法と比べてCOF膜設計の自由度において明確な優位性がある。

図1. (A) COFの応用 (B) 液-液界面重合法 (C) 固-気界面重合法 (D) 二段階構築法

 

“Assembling Covalent Organic Framework Membranes via Phase Switching for Ultrafast Molecular Transport”
Khan, N. L.; Zhang, R.; Wang, X.; Cao, L.; Azad, C. S.; Fan, C.; Yuan, J.; Long, M.; Wu, H.; Olson, M. A.; Jiang, Z.
Nat. Commun. 2022, 13, 3169. DOI: 10.1038/s41467-022-30647-3

論文著者の紹介

研究者:Zhongyi Jiang
研究者の経歴:

1987 BSc, Hebei University of Technology, China
1994 Ph.D. Tianjin University, China
1994–1998 Assistant Professor, Tianjin University, China
1998–2002 Associate Professor, Tianjin University, China
2002–present Professor, Tianjin University, China
研究内容:バイオミメティックおよびバイオインスパイアード膜・膜プロセス、酵素触媒、光触媒の開発

研究者:Hong Wu (吴 洪)
研究者の経歴:
1994 BSc, Tianjin University, China
2000 Ph.D. Tianjin University, China
2000–2004 Assistant Professor, Tianjin University, China
2004–2010 Associate Professor, Tianjin University, China
2010–present Professor, Tianjin University, China
研究内容:膜材料、イオン交換膜、ガス分離膜、水処理膜、液体分離膜、電池セパレータの開発

研究者:Runnan Zhang (张 润楠)
研究者の経歴:
2011 BSc, Nankai University, China
2018 Ph.D. Tianjin University, China (Prof. Z. Jiang)
2018–present Assistant Professor, Tianjin University, China
研究内容:バイオミメティックおよびバイオインスパイアード膜の開発

論文の概要

本研究では、アミンモノマーとして1,4-フェニレンジアミン(PDA)を、アルデヒドモノマーとして2,4,6-トリホルミルフロログルシノール(TFP)を用いてCOF膜を作製した(図2A)。反応の第一段階目ではアミンとアルデヒドの混合溶液を基盤上に担持させ、60 °Cで溶媒ジメチルアセトアミド(DMAc)を蒸発させながら粗生成膜を形成した。続いて第二段階では、o-ジクロロベンゼン(o-DCB)とノルマルブチルアルコール(nBuOH)の混合溶媒および酸触媒を含む気相中で145 °Cに加熱し、粗生成膜を結晶化させCOF膜を作製した。また、固-気界面法では使用できなかった4,4’,4’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイル)トリアニリン(TTA)モノマーを用いても、高品質なCOF膜が得られた。

PDAとTFPからなるCOF膜を用いて、二段階法での作製過程を解析した(図2B)。フーリエ変換赤外分光法(FT-IR)により、第一段階では、60 °Cで形成した粗生成膜のスペクトルにおいて、PDA由来のNH2のピーク(3200–3400 cm–1)が消失し、PDAが消費されたと考えられる。第二段階で作製したCOFにおいて、TFP由来のC=O結合のピーク(1643 cm–1)が観測されず、新しく形成したC=O(1609 cm­­–1)、C=C(1580 cm–1)に対応するピークが確認できたため、イミン結合の生成が示唆される。続いて、第二段階での反応温度がCOF膜の性能に与える影響を調べた(図2C)。145 °Cで結晶化させた場合、COF膜は水透過率、色素CR(Congo Red)阻止率ともに高水準であった。一方で、125 °Cと135 °Cでは、膜の水透過率は高いが、CR阻止率は低かった。これは、低温条件下溶媒と触媒の蒸気圧が低く、第二段階の結晶化が不完全だったためと考えられる。155 °Cでは、CR阻止率が最も高くなった一方、水透過率は低くなった。その原因は、高温条件下においてCOF膜が急速に成長した結果、チャネル構造が潰れたCOF膜となったためと考えられる。

次に、粗生成膜とCOF膜の表面を評価した(図2D, E)。比表面積測定により、第一段階で形成した粗生成膜は比表面積が小さく、不均一な細孔が観測できた。一方、第二段階から形成したCOF膜は高い比表面積と均一な細孔をもつことが明らかとなった。また、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、粗生成膜とCOF膜の表面を観察した(図2F, G)。粗生成膜では、小さな粒や糸状の構造からなる不均一な表面が観測された。しかし、18時間の蒸気処理で、表面が滑らかな状態になったことが確認された。高温(145 °C)で粗生成膜は溶解と再結晶化が起こり、小さなCOFの粒や糸が融合し、粒界欠陥が修復され、コンパクトなCOF膜が得られる[5]

COF膜の安定性、再利用性などの性能解析については論文を参照されたい。

図2. (A) COF膜の作製 (B)FT-IR分析 (C) 水透過率と色素阻止率 (D, E) 粗生成膜とCOF膜のBET曲線 (F, G) SEMによる膜表面の観察  (論文から引用、一部改変)

 

以上、二段階構築法で分子分離分野への応用に適する高分離能のCOF膜を作製する手法が開発された。本手法はCOF膜を精密かつ巧妙に構築する上で、膜技術などの分野に画期的な変革をもたらすものであろう。

用語説明

粒界(GB: grain boundary)とは、多結晶体における2つの粒(結晶子)間の界面である。粒界は結晶構造の欠陥であり、材料の電気伝導率や熱伝導率を低下させる傾向がある。粒界は通常、固体が結晶化する際に不均一に成長することによって生じる。粒の大きさは1 μmから1 mm程度である。

 参考文献

  1. Khan, N. A.; Humayun, M.; Usman, M.; Ghazi, Z. A.; Naeem, A.; Khan, A.; Khan, A. L.; Tahir, A. A.; Ullah, H. Structural Characteristics and Environmental Applications of Covalent Organic Frameworks. Energies 2021, 14, DOI: 10.3390/en14082267
  2. (a)Wang, R.; Guo, J.; Xue, J.; Wang, H. Covalent Organic Framework Membranes for Efficient Chemicals Separation. Small Struct. 2021, 2, 2100061. DOI:1002/sstr.202100061 (b) Wang, J.; Zhuang, S. Covalent Organic Frameworks (COFs) for Environmental Applications. Coord. Chem. Rev., 2019, 400, 213046. DOI: 10.1016/j.ccr.2019.213046 (c) Wang, Z.; Zhang, S.; Chen, Y.; Zhang, Z.; Ma, S. Covalent Organic Frameworks for Separation Applications. Chem. Soc. Rev. 2020, 49, 708–735. DOI: 10.1039/C9CS00827F
  3. (a) Dey, K.; Pal, M.; Rout, K. C.; H, S. K.; Das, A.; Mukherjee, R.; Kharul, U. K.; Banerjee, R. Selective Molecular Separation by Interfacially Crystallized Covalent Organic Framework Thin Films. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13083–13091. DOI: 10.1021/jacs.7b06640 (b) Liu, X.-H.; Guan, C.-Z.; Ding, S.-Y.; Wang, W.; Yan, H.-J.; Wang, D.; Wan, L.-J. On-Surface Synthesis of Single-Layered Two-Dimensional Covalent Organic Frameworks via Solid–Vapor Interface Reactions. J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 10470–10474. DOI: 10.1021/ja403464h
  4. Khan, N. A.; Zhang, R.; Wu, H.; Shen, J.; Yuan, J.; Fan, C.; Cao, L.; Olson, M. A.; Jiang, Z. Solid–Vapor Interface Engineered Covalent Organic Framework Membranes for Molecular Separation. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 13450–13458. DOI: 10.1021/jacs.0c04589
  5. (a) Chen, X.; Zhang, H.; Zhang, M.-K.; Zou, Y.: Zhang, S.; Qu, Y.-Q. Temperature-Responsive Dissolution/Recrystallization of Zn MOF Enables the Maximum Efficiency and Recyclability of Catalysts. Chem. Commun. 2020, 56, 1960–1963. DOI: 10.1039/C9CC09342G (b) Tu, M.; Wannapaiboon, S.; Fischer, R. A. Inter-Conversion Between Zeolitic Imidazolate Frameworks: A Dissolution–Recrystallization Process. J. Mater. Chem. A. 2020, 8, 13710–13717. DOI: 10.1039/D0TA02975K
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