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一般的な話題

DeuNet (重水素化ネットワーク)

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Deunet とは?

重水素化ネットワーク (The Duteration Network, DeuNet) は重水素化施設と研究所の国際的なネットワークであり、中性子研究や他の特性評価技術で使用する分子や生体分子の重水素化サービスやカスタマイズされた重水素標識へのアクセスを容易にすることを目的とした非営利の国際連携団体です。DeuNetは、世界中の重水素化研究、重水素化情報、重水素標識によって可能となる研究成果へのアクセスの中心的ハブととして機能することを目標としています。

活動内容は以下の 4 つです。

  1. 重水素化施設と研究室間の協力を促進する。
  2. 重水素化の新しい方法の開発を促進する。
  3. 重水素科学の恩恵を受ける研究者や研究施設に対する会員の認知度を高める。
  4. 定期的な会合やユーザー・ワークショップを通じて,DeuNet会員とその共同研究者間のコミュニケーションを促進する。

歴史と活動

DeuNet は、EUのHorizon 2020 研究・革新プログラムの下、SINE2020(Science and Innovation with Neutrons in Europe in 2020、E.C.助成金番号65400)プロジェクトによって設立されました。SINE2020プロジェクトは、ヨーロッパの研究基盤コンソーシアムであり、世界最強の中性子源を有する ess (European Spallation Source, 2024年現在建設中) によってもたらされる機会をヨーロッパ中の研究者へと広げ、大規模中性子施設におけるイノベーションを促進することを目的としたものです。

ess の website より転載。加速器など建設中。

中性子実験では、X線や電子線など他の分光法では観測できない情報が得られることから近年科学分野での応用が急速に広がっています。特に、X線や電子線では水素を直接観測することは難しいですが、中性子実験では水素も感度良く観測することができます。さらに、中性子では水素の同位体を区別して観測することができるため、物質に重水素を導入した重水素化物質を使うことで、観測サンプルに含まれる注目したい箇所を感度良く追跡する、高度な実験ができるようになります。たとえば、二種類の高分子が混ざり合ったサンプルのうち、片方の種類だけを「観る」こともできます。従って、高純度で重水素化された物質を調製する技術は、中性子実験をするために最も重要な要素であるため、それぞれの中性子実験施設は施設内に重水素化施設をつくり、さらに世界中の先端重水素化技術のノウハウを共有し、研究者同士のネットワークを形成しようと DeuNet が設立されました。

現在は年に一度オンラインでの情報交換会 (Facility meeting) を実施しつつ、オンサイトの中性子実験や同位体関連の学会でシンポジウムを開くなど、中性子実験以外の分野もカバーした重水素化に関わる研究者・技術者の交流を推進しています。現在の Advisory board chair は Tamim A. Darwish 博士(ANSTO NDF Leader)が務めています。

メンバー

2024年現在は以下のメンバーが参画しています (AtoZ順, https://deuteration.org/members/)。中性子実験施設附設の重水素化ラボ、そして重水素化技術を保有するアカデミアラボから構成されます。

  • DEMAX (The Deuteration and Macromolecular Crystallisation platform, ESS, スウェーデン)
  • Deut-Switch (京大 CPiER Deuterium Science Research Unit、日本)
  • Deuteration Laboratory ORNL(Oak Ridge National Laboratory, アメリカ)
  • ILL Deuteration Laboratory  (Institut Laue-Langevin, フランス)
  • ILL Lipids Lab (Institut Laue-Langevin, フランス)
  • ISIS Deuteration Facility (イギリス)
  • JCNS Deuteration Service (Jülich Centre for Neutron Science, ドイツ)
  • J-Parc MLF Deuteration Laboratory (日本)
  • KID Station (Kumartori Deuteration Station, 京大、日本)
  • Lund University Protein Platform(スウェーデン)
  • National Deuteration Facility (ANSTO、オーストラリア)
  • NIST/IBBR Biomolecular Labeling Laboratory(National Institute of Standards and Technology, Institute for Bioscience and Biotechnology Research, アメリカ)
  • Protein Production Sweden(スウェーデン)
  • Sajiki Laboratory(岐阜薬大、日本)
  • Songshan Lake Deuteration Facility(Songshan Lake Materials Laboratory, 中国)

DeuNet に参加するメンバーの拠点(DeuNet のwebsite より転載)

ヨーロッパのメンバー施設は、先進中性子源連盟(LENS)のメンバーであり、Horizon2020プロジェクトBrightnESS2(E.C.助成金番号823867)にも参加しています。重水素化物質は各社企業から販売されていますが、市販ではアクセスできない重水素化物質の入手や取り扱い、研究の仕方などに困る場合も多いかと思います。以下、ここでは日本の読者がアクセスしやすい日本の 4 メンバーを紹介します。

Deut-Switch (京都大学 CPiER Deuterium Science Research Unit)

Deut-Switch (重水素学 学問創出プロジェクト)は、文部科学省による研究プロジェクト(科研費学術変革領域研究(B)「重水素学」)から発足した重水素研究チームです。本プロジェクトは、重水素化材料の特性を理解し、研究領域「重水素学」を開拓するとともに、重水素化によって材料機能を最大限に引き出す材料設計コンセプト「Deut-Switch」を提案しています。2023年からは京都大学 CPiER 重水素学研究拠点ユニットとして活動しています。重水素化された医薬品や有機材料の合成、生物学的な重水素化、重水素化物質の理論計算、分離、分析、分光、代謝解析、材料活用などの学術分野にまたがる様々な研究者が参画している点が特徴です。国際連絡代表者は筆者が担当しています。共同研究を通したサポート、コンサルティング(アカデミアは無償、企業は秘密保持契約の上有償)が可能です。加えて、2024年現在は創薬や生命科学研究開発が目的であれば AMED-BINDS 事業を通して重水素化された分子の合成を依頼・相談することもできます(アカデミア、企業とも無償)。

2023年の報告会の一コマ。現在のメンバーはこちら。

J-Parc MLF Deuteration Laboratory

物質・生命科学実験施設 (MLF)は、大強度パルス中性子・ミュオンを用いて研究するユーザー利用施設です。世界最強クラスの強度の短パルス中性子・ミュオンと最新の実験装置を組み合わせることにより、高感度・高速・高分解能測定や、より複雑な試料環境などの実験機会を提供しています。これにより、学理解明から産業応用に至る様々な分野における最先端の研究・開発が行われています。この茨城県東海村にある中性子施設に附設された重水素化ラボはこれらの中性子実験に必要な重水素標識物質の供給を担っています。得意とする技術は化学的重水素化による重水素化イオン液体などの合成、そして細菌培養技術を駆使した生物学的重水素化です。DeuNet のメンバーをホストしながら重水素や中性子に関わる研究会も定期的に開かれています。国際連絡代表者は青木裕之研究主幹(兼 高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所 教授)が務めています。

J-Parc MLF の重水素化ラボ。ビームラインの管理も兼任されながら取り組んでいらっしゃる研究スタッフの方が多く、主に中性子実験施設のニーズに合わせて活動されています。

Kumartori Deuteration Station (KID Station)

熊取重水素化ステーション(KID Station, Kumatori Deuteration Station)は、京都大学複合原子力科学研究所の重水素化施設です。ラボは大阪府熊取町にあります。得意とする技術は生物学的な重水素化で、以下を実施しています: (1) 生物学研究に重水素化タンパク質を供給する。(2) 重水素化技術の開発(重水素化比の精密制御、D2Oリサイクル、重水素化タンパク質の大量調製、タンパク質ライゲーションによる選択的重水素化)。(3) ライゲーション技術を利用したマルチドメイン蛋白質のドメイン選択的重水素化技術の開発。(4) SANSおよびその他の中性子散乱法の開発(細胞内(クラウディング)環境と動態の模倣)。国際連絡代表者は杉山正明教授です。こちらも2024年現在は創薬や生命科学研究開発が目的であればAMED-BINDS 事業(無償)によって重水素化されたタンパク質の合成を依頼・相談することもできます。

KIDS のロゴ。Kumaさんが生体分子に含まれる水素(H)を重水素(D)に置き換えます。

Sajiki Laboratory(岐阜薬大)

ケムステVプレミアレクチャーで講演された佐治木 弘尚先生のラボです。Pd/C など不均一触媒を用いた化学的な重水素化にいち早く取り組んでこられた重水素化研究のパイオニアです。J-Parc MLF や富士フィルム和光純薬工業への技術協力も実施しています。先述の Deut-Switch の PI の一人である澤間善成准教授も佐治木研で研鑽を積まれていました。DeuNet では佐治木先生が国際連絡代表者を務められています。レクチャーの内容は富士フィルム和光純薬工業サポートのもとケムステYoutubeで無料公開されています。こちらもぜひご覧ください。

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