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佐治木 弘尚 Hironao Sajiki

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佐治木弘尚(さじきひろなお)は、日本の有機化学者である。岐阜薬科大学 教授(薬品化学研究室)。専門は固体触媒(不均一系触媒)の開発と固体触媒の有機合成化学的応用研究~重水素標識化、酸化還元、カップリング、フロー反応、メカノ反応など~

経歴

1983年 3月  岐阜薬科大学卒業
1985年 3月  岐阜薬科大学大学院博士前期課程修了
1986年 9月  岐阜薬科大学大学院博士後期課程中退
1986年 10月  寿製薬(株)入社
1989年 4月   岐阜薬科大学研究生
1989年 10月   学位取得 薬学博士(岐阜薬科大学、牧敬文 教授)
1990年  2月   ニューヨーク州立大学オルバニー校 化学科 博士研究員 (F. M. Fauser 教授)
1991年  6月   マサチューセッツ工科大学 化学科 博士研究員 (正宗 悟 教授)
1992年  9月   米国Metasyn, Inc. (後のEPIX Pharmaceuticals) グループリーダー
1995年  9月  岐阜薬科大学 助手(廣田耕作 教授)
1999年  4月  岐阜薬科大学 講師
2001年  4月  岐阜薬科大学 助教授
2006年  4月~ 岐阜薬科大学 教授
2014年  4月~ 岐阜県環境審議会 会長
2017年  7月~  日本プロセス化学会 会長

受賞歴

1999年 日本薬学会東海支部奨励賞
2003年 日本プロセス化学会優秀賞
2012年 有機合成化学協会 企業冠賞 日産化学・有機合成新反応/手法賞
2012年 日本薬学会学術貢献賞
2015年 エスペック環境研究奨励賞
2017年 岐阜市職員表彰
2020年 岐阜県環境保全推進功労者表彰

主な研究業績

1.官能基選択的不均一系接触還元触媒の開発1,2,(1)-(10)

我々の研究グループでは、2種類の制御方法を利用して様々な官能基選択的不均一系接触還元触媒を開発してきました。1つ目は、適切な触媒毒を既存の不均一系触媒に固定して触媒活性を低下させる方法であり、2つ目は触媒担体の特性・表面積・細孔容積などの違いを利用する方法です。以下の図に当研究室で開発した不均一系触媒の代表例を示しますが、多くは試薬として市販されています。これらの触媒は、基本的に枠内還元性官能基の水素化反応のみを触媒します。例えばPd/Cにエチレンジアミンを固定したPd/C(en)は反応終了後濾過するだけで容易に回収・再利用できますが、ベンジルエーテル・ベンジルアルコール・N-Cbz保護基等に対する水素化分解活性を持たず、ベンジルエステル等の還元性官能基の接触還元を選択的に触媒します。また、ボロンナイトライド(BN)等の無機化合物やポリエチレンイミン(PEI)に坦持した触媒は、活性が低く高い官能基選択性を示します。Pd/PEIとPd/BNはLindlar触媒よりも官能基選択性が高く、過還元を受けやすい一置換アルキンも一置換アルケンに部分還元できます。

2.不均一系白金族触媒の新たな機能性発掘3-8,10,13,16,(11)-(19)

①酸化反応や炭素-炭素・炭素-X結合形成反応・芳香核還元反応など

Pd/C、Pt/C、Ru/C、Rh/Cは汎用接触還元触媒ですが、酸化反応や炭素-炭素・炭素-X結合形成反応・芳香核還元反応などの触媒としても機能することを見いだし、新たな触媒機能の発掘研究を展開しました。 

 

一電子ドナー添加によるPd/Cの活性化

 アミンは接触還元反応では触媒毒として作用しますが、芳香族ハロゲンなどの水素化分解反応では一電子ドナーとして働き、反応を加速するため常温常圧で完結します。

 これを、PCBDDTやダイオキシン類の脱塩素無害化法として応用することに成功し、特にPCB分解反応は2008年度の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)マッチングファンドに採択され、パイロットプラント研究まで進めることができました。

重水素標識法:水素による白金族触媒の活性化

水素が、Pd/C、Pt/C、Ru/C、Rh/C等の既存不均一系白金族触媒によるH-D交換反応の活性化剤として機能することを見出し、様々な官能基・化合物の重水素標識法として確立しました。

また2-プロパノールを共溶媒として添加すれば、反応系中で不均一系白金族触媒的に脱水素酸化されて少量のアセトンとともに水素が生成し、活性化剤として機能することも明らかにしました。これらの方法論を用途に合わせて利用することで、重水素標識医薬品や重水素標識ポリマーなどの機能性物質の合成が可能となりました。

最近では、重水を重水素源としたH-D交換反応とフロー反応を組み合わせた連続標識法の開発にも成功しており、効率とコストを低下させた実用的な方法論の確立に挑戦しています。

3.新しいデバイス・エネルギーを利用した固体触媒反応の開発9-12,14,15,(20)-(22)

長年に及ぶ不均一系触媒開発研究の経験を基軸として、不均一系触媒を用いた連続フロー式反応、さらにマイクロ波 (MW)が媒介する連続フロー式反応を利用した新しい反応系の開発研究を進めています。Pd/C、Pt/CやRh/Cはアルコールの脱水素反応を効率良く触媒し、酸化剤を使用することなくケトンやカルボン酸に変換します。これらの反応にMWとフロー反応を組み合わせると、球状活性炭に担持した白金触媒カートリッジを通過するわずかな時間で、メチルシクロヘキサン等の有機水素キャリア(Liquid Organic Hydride, LOHから、水素を定量的に取り出し芳香化できることが明らかになりました。わずか10Wのマイクロ波照射で、LOHから連続的に水素を取り出すことができるエネルギー・触媒効率の高い方法論として、直近に迫っている水素社会への貢献が期待されます。

また、遊星型ボールミルによるメカノ反応条件下、水や有機溶媒から水素を取り出して他の有機化合物に固定化(接触水素化)したり、二酸化炭素をメタン化するなどメカノエネルギーと固体金属触媒効果を組み合わせた、有機合成方法論の開発にも取り組んでいます。さらに、様々なデバイスやエネルギーの有機反応への適用研究も精力的に進めています。

関連文献

2021年3月現在:

原著論文数250、総説・著書59

特許出願 国内100件以上(特許されたもの57件)、国際出願28件

代表的原著論文

  1. Sajiki H., Selective Inhibition of Benzyl Ether Hydrogenolysis with Pd/C Due to the Presence of Ammonia, Pyridine or Ammonium Acetate, Tetrahedron Lett., 36, 3465-3468, (1995), DOI: 1016/0040-4039(95)00527-J
  2. Sajiki H., Hattori K., Hirota K., The Formation of a Novel Pd/C-Ethylenediamine Complex Catalyst: Chemoselective Hydrogenation without Deprotection of the O-Benzyl and N-Cbz Groups. Org. Chem., 63, 7990-7992, (1998), DOI: 10.1021/jo9814694
  3. Maegawa T., Kitamura Y., Sako S., Udzu T., Sakurai A., Tanaka A., Kobayashi Y., Endo K., Bora U., Kurita T., Kozaki A., Monguchi Y., Sajiki H., Heterogeneous Pd/C-Catalyzed Ligand-Free, Room-Temperature Suzuki-Miyaura Coupling Reaction in Aqueous Media, Eur. J., 13, 5937-5943 (2007), DOI: 10.1002/chem.200601795
  4. Maegawa T., Fujiwara Y., Yuya Inagaki, Hiroyoshi Esaki, Yasunari Monguchi, Hironao Sajiki, Mild and Efficient H-D Exchange of Alkanes Based on C-H Activation Catalyzed by Heterogeneous Rhodium on Charcoal, Chem. Int. Ed., 47, 5394-5397 (2008), DOI: 10.1002/anie.200800941
  5. Kume A., Monguchi Y., Hattori K., Nagase H., Sajiki H., Pd/C-catalyzed Practical Degradation of PCBs at Room Temperature, Catal. B Environ., 81, 274-282 (2008), DOI: 10.1016/j.apcatb.2007.12.019
  6. Kitamura Y., Sako S., Tsutsui A., Monguchi Y., Maegawa T., Kitade Y., Sajiki H., Ligand-Free and Heterogeneous Palldium on Carbon-Catalyzed Hetero-Suzuki-Miyaura Cross-Coupling, Synth. Catal., 352, 718-730 (2010), DOI: 10.1002/adsc.200900638
  7. Fujiwara, Y.; Iwata, H.; Sawama, Y.; Monguchi, Y.; Sajiki, H., Regio-, chemo- and stereoselective deuterium labeling method of sugars based on ruthenium-catalyzed C-H bond activation, Commun.,46, 4977-4979 (2010), DOI: 10.1039/C0CC01197E
  8. Ishihara S., Ido A., Monguchi Y., Nagase H., Sajiki H., Pd/C-catalyzed Dechlorinationof Polychlorinated Biphenyls under Hydrogen Gas-free Conditions, Hazard. Mater. 229-230,15-19 (2012), DOI: 10.1016/j.jhazmat.2012.05.005
  9. Sawama Y., Morita K., Yamada T., Nagata S., Yabe Y., Monguchi Y., Sajiki H., Rhodium-on-Carbon Catalyzed Hydrogen Scavenger- and Oxidant-free Dehydrogenation of Alcohols in Aqueous Media, Green Chem., 16, 3439-3443 (2014), DOI: 1039/C4GC00434E
  10. Park K., Matsuda T., Yamada T., Monguchi Y., Sawama Y., Doi N., Sasai Y., Kondo S., Sawama, Y., Sajiki H., Direct Deuteration of Acrylic and Methacrylic Acid Derivatives Catalyzed by Platinum on Carbon in Deuterium Oxide, Synth. Catal., 360, 2303-2307 (2018), DOI: 10.1002/adsc.201800170
  11. Sawama Y., Niikawa M., Yabe Y., Goto R., Kawajiri T., Marumoto T., Takahashi T., Itoh M., Kimura K., Sasai Y., Yamauchi Y., Kondo S., Kuzuya M., Monguchi Y., Sajiki H., Stainless-Steel-Mediated Quantitative Hydrogen Generation from Water under Ball Milling Conditions, ACS Sustainable Chem.3, 683-689 (2015), DOI: 10.1021/sc5008434
  12. Sawama Y., Kawajiri T., Niikawa M., Goto R., Yabe Y., Takahashi T., Marumoto T., Itoh M., Kimura Y., Monguchi Y, Kondo S., Sajiki H., Stainless-steel Ball-milling Method for Hydro-/Deutero-genation Using H2O/D2O as a Hydrogen/Deuterium Source, ChemSusChem, 8, 3773-3776 (2015), DOI: 1002/cssc.201501019
  13. Monguchi Y., Kunishima K., Hattori T., Takahashi T., Shishido Y., Sawama Y., Sajiki H., Palladium-Catalyzed C-H Monoalkoxylation of α,β-Unsaturated Carbonyl Compounds, ACS Catal., 6, 3994-3997 (2016), DOI: 1021/acscatal.6b01084
  14. Ichikawa T., Matsuo T., Tachikawa T., Yamada T., Yoshimura T., Yoshimura M., Takagi Y., Sawama Y., Sugiyama J., Monguchi Y., Sajiki H., Microwave-mediated Site-selective Heating of Spherical-carbon-bead-supported Platinum for the Continuous, Efficient Catalytic Dehydrogenative Aromatization of Saturated Cyclic Hydrocarbons, ACS Sustainable Chem. Eng., 7, 3052-3061 (2019), DOI: 1021/acssuschemeng.8b04655
  15. Sawama Y., Niikawa M., Ban K., Park K., Aibara S., Itoh M., Sajiki H., Quantitative Mechanochemical Methanation of CO2with H2O in a Stainless Steel Ball Mill, Chem., Soc., Jpn.93, 1074-1078 (2020), DOI: 10.1246/bcsj.20200105
  16. Park K., Ito M., Yamada T., Sajiki H., Efficient Continuous-Flow H-D Exchange Reaction of Aromatic Nuclei in D2O/2-PrOH Mixed Solvent in Catalysts Cartridge Packed with Platinum on Carbon Beads, Chem. Soc. Jpn.,94600-605 (2021), DOI: 10.1246/bcsj.20200325

 

関連書籍・総説

  1. 官能基選択的不均一系接触還元触媒の開発
  1. 不均一系白金族触媒の新たな機能性発掘

3.新しいデバイス・エネルギーを利用した固体触媒反応の開発

  • Monguchi Y., Ichikawa T., Yamada T., Sawama Y., Sajiki H., Continuous-flow Suzuki–Miyaura and Mizoroki–Heck Reactions under Microwave Heating Conditions, Rec. (Guest Ed. by Hironao Sajiki), 19, 3-14 (2019), DOI: 10.1002/tcr.201800063
  • Sawama Y., Niikawa M., Sajiki H., Stainless Steel Ball Milling for Hydrogen Generation and its Application for Reaction, Synth. Org. Chem., Jpn.77, 1070-1077 (2019), DOI: 10.5059/yukigoseikyokaishi.77.1070
  • 山田強, 朴貴煥, 佐治木弘尚, 反応を選択的に促進する固体触媒の開発と連続フロー反応への展開, 有機合成化学協会誌, 79, in press (2021)

 

関連リンク

・研究室HP (http://www.gifu-pu.ac.jp/lab/yakuhin/

重水素標識反応 Deuterium Labeling Reaction | Chem-Station (ケムステ) (chem-station.com)/有機反応データベース

不均一系接触水素化 Heterogeneous Hydrogenation | Chem-Station (ケムステ) (chem-station.com)/ 有機反応データベース

OPRD誌を日本プロセス化学会がジャック? | Chem-Station (ケムステ) (chem-station.com)

日本プロセス化学会・JSPC・医薬・農薬を核とする機能性物質の製造法 (jspc-home.com)

ベンジル位アセタールを選択的に酸素酸化する不均一系触媒 | Chem-Station (ケムステ) (chem-station.com)/ 第65回スポットライトリサーチ (安川 直樹)

重水素ってなんだ? 有用性と産業・科学的応用  第1話:水素と重水素 ~重い水素の正体~:達人に訊け!:中日新聞Web (chunichi.co.jp)

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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