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化学書籍レビュー

【書籍】ゼロからの最速理解 プラスチック材料化学

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今月発売された『ゼロからの最速理解 プラスチック材料化学』(佐々木 健夫 著,コロナ社)という書籍をご紹介します。

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概要

本書はそんな背景から,世の中に存在する多くのプラスチックについて,化学的な観点からその歴史や性質をわかりやすくまとめたものである。これまでポリマーについては習っていても,プラスチックが何なのかについてはこれから勉強する,という読者を想定している。ただし,さきほども述べたようにプラスチックの理解には化学だけでなく広い範囲の知識が必要となるので,すべてを本書一冊で説明することはできない。本書を読み終えたあと,それぞれのトピックについて詳しく書かれた本を参照することが必要である。(「はじめに」より)

日々の生活の中で,プラスチックを目にしない日はまずないでしょう。昨年からプラスチック製レジ袋の有料化が義務化され,不便に感じている人も多いことでしょう。プラスチックは今でこそ便利で生活に無くてはならない存在となりましたが,その性質が化学的に解明されてからまだ100年足らずです。高校や大学で化学を学んできた皆さんでも,身近なプラスチックがどうやって生み出されたのか,どんな構造でどんな特性を持っているのか,知らないことも多いのではないでしょうか。

本書はそのような読者を想定し,身のまわりに溢れるプラスチック工業製品に関心を持つところから,その歴史や個々のプラスチックを作り出す化学反応,性質までを広く扱っています。

目次

序. 身のまわりのプラスチック
0.1 よく見かけるプラスチック
0.2 プラスチックの見分け方
0.3 フィルムの素材
0.4 リサイクルマーク
0.5 プラスチックと環境負荷
1. ポリマーとプラスチック
1.1 ポリマーの発見とプラスチックの利用
1.2 ポリマーの特徴,ポリマーの構造と物性
1.3 プラスチックの特性評価
1.4 プラスチックの成形
2. プラスチック材料の誕生
2.1 生体ポリマーの利用
2.2 プラスチック材料の登場
2.3 ポリエステルとナイロンの登場
3. ポリマーの合成
3.1 合成ポリマー
3.2 工業的重合方法
4. 逐次反応でできるプラスチック材料
4.1 ポリエステル
4.2 全芳香族ポリエステル
4.3 天然物を原料とするポリエステル
4.4 脂肪族ポリアミド
4.5 芳香族ポリアミド
5. 連鎖反応でできるプラスチック材料
5.1 ポリエチレン
5.2 ポリプロピレン
5.3 均一系シングルサイト触媒で合成されるポリマー
5.4 塩素置換エチレンのポリマー
5.5 スチレンのポリマー
5.6 アクリル樹脂
5.7 ニトリル基を持つビニルポリマー
5.8 フッ素樹脂
5.9 ポリ酢酸ビニル系ポリマー
5.10 アセタール化ポリビニルアルコール
5.11 ピロリドン置換エチレンのポリマー
5.12 オレフィンと二酸化硫黄との共重合ポリマー
6. ポリウレタンとエポキシ,メラミン樹脂
6.1 ウレタン樹脂
6.2 エポキシ樹脂
6.3 メラミン樹脂
7. エンジニアリングプラスチック
7.1 ポリカーボネート
7.2 ポリオキシメチレン
7.3 ポリエーテルエーテルケトン
7.4 ポリイミド
7.5 ポリスルホン
7.6 ポリフェニレンサルファイド
7.7 変性ポリフェニレンエーテル
8. エラストマー
8.1 熱硬化性エラストマー
8.2 熱可塑性エラストマー
8.3 シリコーン系エラストマー
付録
A.1 プラスチックの商品名
A.2 プラスチックの略号

タイトルのとおり,この本は「第1章」ではなく「第0章」(序章)から始まります。ゼロ章は「身のまわりのプラスチック」と題して,生活の中でよく見かけるプラスチックの種類や特徴がわかりやすくまとめられています。特にこのゼロ章は文章も平易で読みやすいので,読者の皆さんを惹きつけること間違いなし。

各章末には「章末チェック」が設けられていて,それぞれ数問~数十問の記述式の問いがあります。巻末に模範解答が設けられているわけではありませんが,その章を読めば答えが出るものばかりです。これに取り組むことで理解度を自分でチェックでき,わからなければ立ち返って確認できるという自習に適した配慮が嬉しいですね。

感想

プラスチックはポリマー,つまり同じ構造の低分子がたくさん連なって出来た長い分子から成ります。このポリマーを作り出す化学反応のパターンが非常に少ないことに,ケムステの読者のみなさんは驚くかもしれません。具体的な反応は第3章以降で扱われますが,重縮合・重付加・付加縮合・ラジカル重合・カチオン重合・アニオン重合といった限られた反応機構で説明がついてしまいます。このような数少ない反応機構で,世の中の多様なプラスチックが生み出されているというのが,ポリマー(高分子)という構造のおもしろいところです。私も大学で「高分子化学」の講義を受けましたが,この本を読んで改めてそのことに気づかされました。

ポリマーはその多くが工業生産を見据えて生み出されてきたという歴史から,産業界と切り離して語ることはできません(詳しくは本書の第2章)。しかし,プラスチックの物理的性質(耐熱温度,硬度,強度,弾性率など)や,工業的な成形方法(射出成形,押出成形など)については,大学の授業で教えられないことも多いと思います。化学系の学生の就職先として,化学メーカーは圧倒的な人気がありますが,ここでギャップになるのが「ポリマーの合成反応は知っていても,物理的な性質はあまり覚えていない」ということだったりします。そんな皆さんは,まず本書の第1章を読んでみてください。

ポリマー(高分子)という構造が理解されるはるか昔から,人類は繊維,紙,ゴムなどの生体ポリマーを利用してきました。化学の発展につれてその性質の理解と改良が進み,やがて天然物に手を加えた「セルロイド」に代表される半合成プラスチックの利用が始まります。化学原料から人工的に作られた初めてのプラスチック材料は1907年に合成されたベークライトで,1928~1931年頃にデュポン社のカローザスによってポリエステルやナイロンが分子設計して合成され,いまや多くのプラスチックが工業生産されています。

個別のプラスチックの専門家には物足りないと感じる面もあるかもしれませんが,それは他書籍で補うとよいでしょう。私自身,プラスチック製品を生産・販売する企業に勤めているのですが,導入教育として「こんな本が欲しかった!」と思います。A5版で256ページと持ち運びにも便利で,自習教材としても読み物としても楽しめる書籍ですので,是非お手にとっていただければと思います。

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工学(修士);専門は応用化学・生物物理学。会社員です。

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