[スポンサーリンク]

天然物

スピノシン Spinosyn

[スポンサーリンク]

 

スピノシン(Spinosyn)は、バージン諸島に生息する微生物Saccharopolyspora spinosa から単離された化合物である。この微生物が生産する成分スピノサドは、強い殺虫作用を有している。スピノサドは、スピノシンAとスピノシンDの混合物である。スピノサドは、毒性も低く、人、動物、環境に対して低負荷の殺虫剤として知られている。

スピノシンの殺虫活性は、昆虫の神経伝達系に関与していると考えられている。これは、従来の殺虫剤とは異なる作用機序である。スピノシンは、シナプス全膜からアセチルコリンが分泌されていないときでもシナプス後膜へ興奮を伝達する。スピノシンは酵素で分解されないため、昆虫に異常興奮を引き起こし、死に至らしめる。

 

スピノシンの生合成機構

スピノシンは、その構造中にcyclohexene構造を持つことから、その生成過程で[4+2] cycloaddition が起こることが予想されていた。そのため、生合成の観点からもスピノシンは注目を集めていた。

Spinosyn-scheme

図は、文献3より抜粋

Hung-wen Liuの研究グループは、Spinosynの生合成に関わる酵素のアッセイを行ない、SpnFがDiels Alder反応を触媒していることを明らかにした。SpnF非存在下でもDiels Alder反応はわずかに進行するが、SpnFを加えることにより反応速度が約150倍になった。

生合成においてDiels-Alder反応を触媒する酵素は、solanapyrone synthase、LovB、macrophomate synthase、riboflavin synthaseの4例しかこれまで報告されてこなかった。SpnFは、5例目のDiels Alderaseである。

 

参考文献

  1. “The spinosyn family of insecticides: realizing the potential of natural products research“ Kirst H. A. J. Antibiot. 2010, 63, 101–111. DOI: 10.1038/ja.2010.5
  2. 参考サイト http://www.greenjapan.co.jp/spinos_yurai.htm
  3. “Enzyme-catalysed [4+2] cycloaddition is a key step in the biosynthesis of Spinosyn A” Kim H. J., Ruszczycky M. W., Choi S-H., Liu Y., Liu H, Nature 2011, 473, 109. DOI: 10.1038/nature09981

 

Avatar photo

ゼロ

投稿者の記事一覧

女の子。研究所勤務。趣味は読書とハイキング ♪
ハンドルネームは村上龍の「愛と幻想のファシズム」の登場人物にちなんでま〜す。5 分後の世界、ヒュウガ・ウイルスも好き!

関連記事

  1. モルヒネ morphine
  2. 亜酸化窒素 Nitrous oxide
  3. プロリン ぷろりん proline
  4. みんなおなじみ DMSO が医薬品として承認!
  5. 酢酸ウラニル(VI) –意外なところから見つかる放射性物質–
  6. ブレビコミン /Brevicomin
  7. タミフル(オセルタミビル) tamiflu (oseltamiv…
  8. シラン Silane

注目情報

ピックアップ記事

  1. 酸素ボンベ爆発、男性死亡 
  2. セミナー「マイクロ波化学プロセスでイノベーションを起こす」
  3. 白い粉の正体は…入れ歯洗浄剤
  4. 日宝化学、マイクロリアクターでオルソ酢酸メチル量産
  5. 【書籍】有機スペクトル解析入門
  6. MT-スルホン MT-Sulfone
  7. 結晶学分野に女性研究者が多いのは何故か?
  8. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, RFB
  9. キレトロピー反応 Cheletropic Reaction
  10. エチルマレイミド (N-ethylmaleimide)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP