[スポンサーリンク]

ケムステニュース

位相情報を含んだ波動関数の可視化に成功

アイキャッチ画像: “Detection of the shape of an electronic wave function with a six-fold symmetry” by NRC Ottawa 1

早稲田大学理工学術院の新倉弘倫(にいくらひろみち)教授は、カナダ国立研究機構 (National Research Council of Canada)、独マックス・ボルン研究所(Max Born Institute)と共同で、アト秒レーザー(高次高調波)によるネオン原子の光イオン化過程で生成した、ほぼ純粋なf-軌道電子(電子波動関数)の密度分布と、その位相を分けた波動関数に相当するイメージの直接測定に成功しました。またさらに、イオン化した電子波束がどのような位相と振幅を持つ波動関数から成っているかを同定する方法を開発しました。(引用:早稲田大学 2017年6月16日)2

早稲田大学教授の研究チームが、アト秒パルスレーザーにより放出された光電子の波動関数を直接可視化することに成功しました3。これは量子力学の発展に大きく寄与するものであるとともに、アト秒物理学(Attosecond Physics)が飛躍的な進歩を遂げていることを表します。

早稲田大学の公式サイトにて研究内容については詳しく記述されています2。アト秒物理学は近年発展が目覚ましい分野です。これからは、アト秒物理学技術を利用した化学の研究が行われていくのでしょうか。

研究背景

波動関数とは

アイザック・ニュートンらが構築した古典力学は、物質の挙動を記述する物理学の基礎学問でした。しかしながら19世紀末頃から、古典力学では説明することのできない、原子や電子に関連した実験結果が報告され、それらミクロな物質も全て含めた物質の挙動を記述する基礎学問が必要となりました。それが、エルヴィン・シュレーディンガーやマックス・ボルンらによって構築された量子力学です。

量子力学はシュレディンガー方程式を基礎方程式として展開されます。対象とする物質に関する情報は、その方程式の解である、ψ に内包されています。つまり、化学反応がどのように生じるのか、物質がどのような性質を有しているのか、などを根源的に理解するためには、それらの発生源となっている主な物質である電子の、 ψ について知ることが必要となります。 この  ψ が波動関数です。

シュレディンガー方程式(関数形式)

波動関数は複素関数であり、主に振幅と位相によって特徴付けられます。シュレディンガー方程式から関数を求め、その形状などを描像することは理論上可能でしたが、実験によって実際の波動関数を直接測定することは非常に困難です。また、波動関数そのものをどう解釈するべきであるのかという理解を助ける糸口という意味でも、直接的な測定は長らく求められ続けています4

アト秒物理学とは

アト(atto)とは、キロやミリ、ナノなどと同じ接頭辞の1つであり、10のマイナス18乗を表します。すなわちアト秒とは、10のマイナス18乗秒となります。小さな値すぎてなかなか想像ができないですね。

地球誕生から現在まで46億年と言われていますが、それを秒に直すと0.15 ×「10の18乗」秒です。もし46億年を1秒に縮めたとしたら、0.15秒が1アト秒になります。人間のまばたきは約0.3秒と言われていますので、人が1回まばたきしたとして、地球のこれまでの長い歴史を1秒と見なすと、2アト秒に相当します。アト秒の世界を観測することがいかにすごいかが分かりますね。(引用:THE PAGE 2016年10月1日)5

太陽系の一部として地球が生まれてから現代に至るまでを1秒とすると、1アト秒は私達が瞬きをする時間の半分程度となるわけです。どれほどに短い時間であるかイメージが湧くと思います。

アト秒物理学とは、そのような短い時間に生じる物理現象を取り扱う学問であり、2001年にアト秒レーザー発生が報告されてから急速に発展してきました。アト秒の世界では、原子や分子の振動などさえ遅すぎます。もっと質量の小さな電子などの運動そのものが観測できるのです。

関連図書

参考文献・関連記事

  1. Interplay of light and matter – A “perfect” attosecond experiment” | idw
  2. アト秒レーザーで位相を分けた電子波動関数の直接イメージングに成功 新規なアト電子テクノロジーの開発に期待』 | 早稲田大学ニュース
  3. “Coherent imaging of an attosecond electron wave packet”, D. M. Villeneuve, Paul Hockett, M. J. J. Vrakking, Hiromichi Niikura, Science 2017, 356, 6343, DOI: 10.1126/science.aam8393
  4. “Direct measurement of the quantum wavefunction”, Jeff S. Lundeen, Brandon Sutherland, Aabid Patel, Corey Stewart & Charles Bamber, Nature 2011, 474, 188-191, DOI: 10.1038/nature10120
  5. 2016年「物理学賞」は誰の手に? 日本科学未来館がノーベル賞予想』 | THE PAGE

関連リンク

The following two tabs change content below.
Eine

Eine

北京の大学院生。音楽が好きで、聴いたり、作ったり、演奏したりする。音楽ゲームも好き。研究では主にナノレベルの世界の解析をしている。言語や文化の壁と戦いながら、分子や電子たちの気持ちを考える日々。

関連記事

  1. 染色なしで細胞を観察 阪大ベンチャーが新顕微鏡開発
  2. 中外製薬が工場を集約へ 宇都宮など2カ所に
  3. 新薬と併用、高い効果
  4. アルツハイマー原因物質、緑茶成分に抑制機能・埼玉医大など
  5. 花粉症 花粉飛散量、過去最悪? 妙案なく、つらい春
  6. ユニバーサル・フェーズセパレーター発売
  7. 乳がんを化学的に予防 名大大幸医療センター
  8. 三菱化学、酸化エチレン及びグリコールエーテルの価格を値上げ

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. メビウス芳香族性 Mobius aromacity
  2. H-1B ビザの取得が難しくなる!?
  3. ナトリウムトリス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロポキシ)ボロヒドリド:Sodium Tris(1,1,1,3,3,3-hexafluoroisopropoxy)borohydride
  4. パテントクリフの打撃顕著に:2012製薬業績
  5. 三井化学、出光興産と有機EL材料の協業体制構築で合意
  6. 吉田善一 Zen-ichi Yoshida
  7. トーマス・ホイ Thomas R. Hoye
  8. アノマー効果を説明できますか?
  9. Gilbert Stork最後の?論文
  10. ストラディバリウスの音色の秘密は「ニス」にあらず

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

元素手帳 2018

今年も残すところあと1ヶ月半となってきました。来年に向けて、そろそろアレを購入される方もいら…

シクロペンタジエニル錯体の合成に一筋の光か?

β-炭素脱離を用いるシクロペンタジエニル(Cp)錯体の新たな調製法が報告された。本法により反応系中で…

ルミノール誘導体を用いるチロシン選択的タンパク質修飾法

2015年、東京工業大学・中村浩之らは、ルミノール誘導体と鉄-ポルフィリン複合体(ヘミン)を用い、チ…

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP