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スポットライトリサーチ

抗体結合ペプチドを用いる非共有結合的抗体-薬物複合体の創製

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第69回目となるスポットライトリサーチは、東京薬科大学 薬学部(林良雄 研究室) 博士課程3年・六車 共平さんにお願いしました。

六車さんの所属する林研究室では、ペプチドなどの生体分子に基づく創薬化学研究を展開しています。とりわけ近年では革新的な抗体医薬品を指向した研究にも取り組まれているようで、今回紹介する成果もその一つです。六車さんは先日行なわれました第53回ペプチド討論会にて本成果を発表し、見事若手口頭発表賞を受賞されました。

研究室を主宰される林良雄 教授は、六車さんをこう評しておられます。

六車(むぐるま)という名前は、全国に4400人しかいない珍しい名字のようで、コンピューターで彼の名前を入力する時はいつも苦労しますが、当研究室の六車君は現院生の中でリーダーです。知識が豊富でよく勉強ができます。特に有機化学が得意科目で、頭の中では実はいつも反応のことを考えている人なのですが、研究室ではペプチド・蛋白質化学を中心に上記の抗体薬物複合体の創薬を担当してもらっています。その彼を放っておいたら、最近は細胞生物学にも傾倒し、細胞の実験データを教授室に持ち込み始めました。軽薄な意味でなくマルチタレントな院生ですね。研究のやり過ぎで熱を出して倒れたこともありましたが、それでもまた元気に実験台の前に戻ってくるのが六車君です。面白いですね。Beyond the Thesis!で益々この世界で活躍することを願っています。

Q1. 今回の受賞対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

抗がん剤(Plinabulin)と抗体結合ペプチド(Z33)の架橋体を合成することで、非共有結合的な抗体-薬物複合体(ADC)を創製しました。

ADCは、抗体の抗原特異性に基づくドラッグデリバリーの画期的な手法ですが、薬物と抗体を架橋する方法は十分に確立されておらず、様々な課題を抱えています。理想的なADCは、結合薬物が抗体の抗原結合部位に影響を与えず、均質な修飾体であり、さらには簡便な手法で得られることが望まれます。本研究では、Fc特異的抗体結合ペプチドの性質を利用することで、Fc部位に薬物を担持した非共有結合型ADCを調製しました。具体的には、以下の図に示すジスルフィドリンカーを介したPlinabulin-Z33架橋体を合成しました。この架橋体は抗HER2抗体(Herceptin)と複合体を形成し、HER2抗原を過剰発現している細胞に対して選択的な殺細胞活性を示すことを明らかにしました(K. Muguruma et al., Bioconjugate Chem., 2016, 27, 1606)。

sr_k_muguruma_1

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

Plinabulin-Z33架橋体の合成において、我々の研究室で開発した Npys-Cl resinA. Taguchi et al., Org. Biomol. Chem., 2015, 13, 3186)を応用したところです。本研究で用いた抗がん剤は水溶性が乏しいだけではなく、平面性の高い構造であるため溶解できる有機溶媒も限られます。そのため水溶性の高いペプチドとの液相中での架橋反応は困難でした。そこで検討したのが、下図に示す Npys-Cl resin を用いる新規架橋法です。この樹脂は水系、有機系のどちらの溶媒にも適用することができるため、架橋反応を二段階に分けることで、それぞれの化合物に適した溶媒条件で反応を行うことができます。結果として、液相反応では合成困難であった架橋体を獲得することができました。

sr_k_muguruma_2

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

合成した架橋体の細胞系での評価が難題でした。慣れない細胞実験であることに加え、抗体とPlinabulin-Z33架橋体の二成分が存在するという通常とは異なる評価系が求められました。さらには有機合成と異なり、細胞のサイクルに実験を合わせないといけないため、条件検討に一年以上を費やすことになりました。最終的には、地道な文献調査から得たアイデアによりHerceptin耐性細胞を作製し、評価を実施することで架橋体の有用性を示すことができました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

薬剤師免許を有していることもあり、化学を基盤とした「薬」に関する研究、主に創薬研究に携わりたいと思っています。特に、今回の研究は有機化学のみではなく異分野の研究を取り入れることで達成できましたので、これからも多様な分野に幅広く興味を持って学際的な研究を続けていきたいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

このような機会を与えていただき、ありがとうございました。「いつかケムステに載りたいね!」と後輩と話しており、自分の中で一つの目標のようになっていましたので、実現して大変嬉しく思います。

私は、学部5年の時に現在のテーマに移りましたが、しばらくの間はデータのない状態が続きました。同期や後輩が成果を挙げる中でいくらかの焦りや不安を感じていましたが、それでも日々の試行錯誤を楽しんできました。皆さんも、辛いときでも研究を楽しむことを忘れなければいい結果がついてくるかと思います。

本研究は林良雄教授を始めとする多くの先生方からのアドバイスを受けることにより達成でき、今回の受賞や論文投稿に至るまでになりました。ご協力いただいた皆さまにこの場を借りて御礼申し上げます。

 

研究者の略歴

sr_k_muguruma_3六車 共平(むぐるま きょうへい)

所属:東京薬科大学 薬学部 薬学研究科 博士課程3年(林研究室)・日本学術振興会特別研究員(DC1)

経歴:1990年東京都生まれ。2014年東京薬科大学薬学部(6年制)を卒業後、同年同大学院 薬学部 薬学研究科へ進学。2015年—2018年日本学術振興会特別研究員(DC1)。

研究テーマ:腫瘍指向性プロドラッグの創製研究

受賞歴:
2014年  創薬懇話会 2014, ベストディスカッション賞
2015年  創薬懇話会 2015, ベストディスカッション賞
2015年  19th Korean Peptide Protein Society Symposium, 2015 Young Scientist Award
2015年 Antibody engineering & therapeutics 2015, Student Poster Winner
2016年  14th Chinese International Peptide Symposium/5th Asia-pacific International Peptide Symposium, Poster Prize
2016年  53rd Japanese Peptide Symposium, 若手口頭発表優秀賞

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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