[スポンサーリンク]

chemglossary

リガンド効率 Ligand Efficiency

[スポンサーリンク]

 

リガンド効率 (Ligand Efficacy: LE) またはリガンド効率指数 (Ligand Efficiency Index: LEI) とは、創薬において標的タンパク質と相互作用する分子の結合能を評価する指標の一つである。2004 年に当時ファイザーの Hopkins らが提唱した[1]リガンド効率とは、分子の大きさに対する結合強度の比で表される値である。すなわち、結合自由エネルギー (ΔG) を重原子数 (分子中の水素原子以外の原子数) で除したものがリガンド効率と定義される。

この式のΔG は以下のように置き換えられる。ここで Kd は解離定数、Rは気体定数、Tは絶対温度を表す。

Kd を正確に求めるには等温滴定型カロリメトリー (ITC) などの測定技術が必要だが、 Kd を IC50 など簡便な指標に置き換えることもできる (次式)[2]。

Fragment-Based Drug Discovery (FBDD) では、見つかってきた小分子リガンドの結合親和性は必ずしも高くない。しかしながら、結合親和性は各リガンドによって異なり、より小さいリガンドで強い結合活性を示すものは、それを起点とした Hit-to-Lead アプローチにおいて分子量や脂溶性の増大を抑えることができ、大きなアドバンテージを持つ。一般に活性が高くなるにつれて、見た目の LE は低下する傾向にあることが知られており、FBDD では予め充分に高いリガンド効率を示す化合物を出発点にすることが望ましい[3]。

その他の記述子を用いた指標

リガンド効率を表すものとして、先に示した LE (LEI) の代わりに、結合効率指数 (Binding Efficiency Index: BEI) が用いられることもある。これは薬理活性値を分子量で割ったものである。一口に重原子といっても、炭素原子とハロゲン原子などを同列に扱うことは適切ではない可能性もある。そこで用いられるのが、分子の大きさを分子量としてより簡便に表現した BEI である。そのほか、阻害活性 (%inhibition)を分子量で除したパーセント阻害効率指数 (PEI)、薬理活性を極性表面積 (PSA) で除した表面結合効率指数 (SEI) などもリガンド効率の代替指標として用いられることがある[4]。

         表1 各種リガンド効率の指標–文献[4]より引用

Fit Quality

Raynolds らの調査では、最大リガンド効率は、分子サイズの増大とともに減少することがわかった。つまりリガンド効率は、分子サイズが小さいヒットの場合に過大評価される傾向がある。そこで Raynoldsらは、リガンドのサイズに依存しない指標として、Fit Quality (FQ) を提唱した[5]。

FQ は、実測のリガンド効率を、計算により達成可能な最大リガンド効率 (LE_Scale) で割ることで得られる。

ここで、LE_Scale は以下のように定義される。HA は分子中の非水素原子数である。

リガンド脂溶性効率

リガンド脂溶性効率 (Ligand-Lipophilicity Efficiency: LLE) も FBDD において好んで用いられる指標である。提唱者が異なる LipE(Lipophilic Efficiency)という同様の指標も存在する。
脂溶性は化合物の ADMET 特性に直結するパラメータであり、また高脂溶性化合物は高い薬理活性を示しやすいものの、非特異的な相互作用を誘発しオフターゲット効果を発現しやすい欠点を持つ。LLE はこのような安全性の懸念を含めた脂溶性と薬理活性の相関を評価するための指標であり、以下の式で定義される。

LLE が大きいほどより特異的な結合を示し、開発候補化合物として優れていると考えられる。ただし LLE は、分子サイズが尺度として採用されていない点でリガンド効率指数との混同に注意が必要である。フラグメントヒットは LLE ≥ 3 を持つことが好ましく、Hit-to-Lead では LLE > 5~7 程度を目指すべきだと、Schultes らの総説では述べられている[6]。

その他、リガンド効率のクライテリアに関して同総説で以下の表が提唱されている。

表2 FBDDにおいて各種リガンド効率の目安となるスコア–文献[6]より引用

リガンド効率を重視した構造展開

以下では、ケムステと提携しているMEDCHEM NEWS の記事[3]より、リガンド効率を重視した FBDD による構造展開の例を引用して紹介する。
Astex 社によるサイクリン依存性キナーゼ (CDK) 阻害剤では、ヒットフラグメントとしてインダゾール (1) が見出された。容易に入手可能なインダゾール-3-カルボン酸を足場に LE を損なわない構造展開を行い、特に3から4への展開では IC50 値が大幅に低下しているものの、リガンド効率は保ったまま芳香環数の削減に成功している。その後も、表2 に示す LE ≥ 0.3 を保ちながらリード化合物 (7)を創出し、開発候補化合物 (8, AT7519) の開発に成功した。活性だけを見ると、3 から 4 への展開は妥当性に欠けるものの、リガンド効率を駆動力とすることで結果的に優れたリード創出に繋がった好例と言えるだろう。

なお、この CDK 阻害剤の開発においては、インダゾール (1) の他にナフタレン-スルホンアミド (9) も同じ結合ポケットをターゲットとしたヒットフラグメントとして見つかっていた [7]。IC50の差は微々たるもので有意差は無いかもしれないないが、9 の方がやや高活性で優れたヒットのように見えるかもしれない。しかしリガンド効率を算出すると、1の方が構造展開可能性においてより優れたヒットであることが分かった。

おわりに

リガンド効率の提唱から20年ほど経ち、数多くの指標が産み出されるに至っている。どういった指標を参考に構造展開を行なっていくかは戦略によってさまざまであろうが、とりわけアカデミアで行われる小規模な構造展開では薬理活性の強さに興味が惹かれがちで、リガンド効率のようなパラメータは見過ごされる傾向が強く感じられる。

リガンド効率は FBDD のような低分子創薬において強力な指標となるが、近年注目されている PPI 阻害薬や PROTACs のような、Beyond the Rule of 5 とも呼ばれる中分子化合物のデザインにおいても応用できる可能性がある。とりわけ PPI 阻害薬の開発過程では分子量や脂溶性が過剰に増大しがちであり、スクリーニングの段階でいかにリガンド効率や LLE に優れたヒットを見出すかが重要であろう。

参考文献

[1] Hopkins A.L. et al., “Ligand efficiency: a useful metric for lead selection”, Drug Discov. Today, 2004, 9, 430–431, DOI: 10.1016/S1359-6446(04)03069-7.

[2] Shultz M.D., “Setting expectations in molecular optimizations: Strengths and limitations of commonly used composite parameters”, Bioorg. Med. Chem. Lett, 2013, 23, 5980-5991, DOI: 10.1016/j.bmcl.2013.08.029.

[3] 田中大輔、”創薬化学者にとっての Fragment-Based Drug Discovery”, MEDCHEM NEWS, 2010, 20(1), 14-17, DOI: 10.14894/medchem.20.1_14.

[4] 田中大輔、”Fragment-Based Drug Discovery : その概念と狙い”、SAR NEWS, 2008, No.15.

[5] Raynolds C.H. et al., “The role of molecular size in ligand efficiency”. Bioorg. Med. Chem. Lett. 2007, 17, 4258–4261, DOI: 10.1016/j.bmcl.2007.05.038.

[6] Schultes S et al., “Ligand efficiency as a guide in fragment hit selection and optimization“, Drug Discovery Today, 2010, 7(3), e157-e162, DOI: 10.1016/j.ddtec.2010.11.003.

[7] 田中大輔、”Fragment-Based Drug Discovery : その概念と狙い”、YAKUGAKU ZASSHI, 2010, 130(3), 315-323, DOI: 10.1248/yakushi.130.315.

関連書籍

[amazonjs asin=”4807909487″ locale=”JP” title=”創薬化学: メディシナルケミストへの道”] [amazonjs asin=”475812258X” locale=”JP” title=”創薬研究のためのスクリーニング学実践テキスト〜アッセイ系の選択・構築から、ヒット・リード化合物の同定、自動化まで (実験医学別冊)”] [amazonjs asin=”B0CT4YJQ7R” locale=”JP” title=”実験医学増刊 Vol.42 No.2 あなたのラボから薬を生み出す アカデミア創薬の実践 All JAPAN体制の先端技術支援を利用した創薬の最前線”]
Avatar photo

DAICHAN

投稿者の記事一覧

創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなしていた、四年制薬学科の生き残り。現在は私大薬学部教員として実験に邁進中。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

関連記事

  1. MOF-74: ベンゼンが金属鎖を繋いで作るハニカム構造
  2. MOF-5: MOF の火付け役であり MOF の代名詞
  3. レドックスフロー電池 Redox-Flow Battery, R…
  4. mRNAワクチン(メッセンジャーRNAワクチン)
  5. ビオチン標識 biotin label
  6. トップリス ツリー Topliss Tree
  7. ソーレー帯 (Soret band) & Q帯 (Q …
  8. クオラムセンシング Quorum Sensing

注目情報

ピックアップ記事

  1. 海水から「イエローケーキ」抽出に成功、米科学者グループが発表
  2. 立体障害を超えろ!-「London分散力」の威力-
  3. 世界の最新科学ニュース雑誌を日本語で読めるーNature ダイジェストまとめ
  4. エチルマグネシウムクロリド(活性化剤:塩化亜鉛):Ethylmagnesium Chloride activated with Zinc Chloride
  5. 新日石、地下資源開発に3年で2000億円投資
  6. プメラー転位 Pummerer Rearrangement
  7. ロルフ・ヒュスゲン Rolf Huisgen
  8. 危険物データベース:第4類(引火性液体)
  9. 金属を使わない触媒的水素化
  10. マーティン・バーク Martin D. Burke

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2024年3月
月 火 水 木 金 土 日
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

第64回ケムステVシンポ「データとともに進化する未来の化学」を開催します!

第64回ケムステVシンポの会告を致します。産業技術総合研究所主催の化学シンポジウムシリーズ(…

品質工学とマテリアルズ・インフォマティクス ― 両技術の概要と連携事例

開催概要材料開発やものづくりの現場では、探索すべき組成やプロセス条件が増えるほど組み合わせが爆発…

大学院留学してよかったこと, 悪かったこと【英語, 経済面, オーバードクターに関するお話】

海外の大学で、その大学に籍を置く大学 (院) 生として留学することは「学位留学」と呼ばれたりします。…

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP