[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

リンダウ会議に行ってきた③

[スポンサーリンク]

リンダウ・ノーベル賞受賞者会議(Lindau Nobel Laureate Meeting)の参加報告、第三回目です。 (前回の記事はこちら)
今回はノーベル賞化学者達の講演ハイライトについてお伝えします。

ノーベル賞受賞者は個性豊かな方々ばかりで、奇抜な講演も目白押しでした。自身の研究からかけ離れた話をされていた人も少なくありませんでした。数名紹介してみましょう。

 

Richard R. Ernst (1991年化学賞)

BO5C1141.JPGP1010528.JPG

エルンスト教授はFT-NMR開発の業績でノーベル賞を受賞されています。が、この講演では研究の話をいっさいせず。「科学者はマルチタレントな人が多い」という前置きの後、ご自身の趣味である、チベット芸術や曼荼羅のコレクション披露と解説の独演会に。

 

その入れ込みようはまさに現在の研究テーマと言ってもよいほどで、自宅には顔料分析のためのラマン分光装置まで持ってるそうです。この分析には”NMR is useless ! “などと言って会場の爆笑を誘っておられ、あまりにシュールすぎました。

 講演自体かなり年季の入ったスタイルで、どうもこの話はあちらこちらでされているようです。いや、正直いったいどんな世界に旅立ってしまわれたのかと・・・あまりにぶっ飛んだ光景そのものでした。

Harold Kroto (1996年化学賞)

BO5C3213.JPG

 

フラーレンC60の発見者の一人であるクロトー教授。もしこれまでに彼の講演を聴いたことがないのであれば、公式サイトへ行って是非一度視聴してみてください。エンターテイメントとして相当ハイクオリティなトークで、会場を絶えなき爆笑の渦に誘っておられました。

現在は化学啓蒙に力を入れておられる様子です。

 

Walter Kohn (1998年化学賞)

BO5C3449.JPGBO5C3492.JPG

 

 

密度汎関数理論(DFT)の提唱で受賞されたコーン教授。しかしご自身の化学については全く触れず。いや喋るどころか、自分が監督し出演した、ソーラーエナジー活用に関する啓蒙ビデオを30分流して終わりという・・・ビデオの出来は確かにいいんですけど・・・そんなのアリなんですか? 会議側も、ちゃんと内容の打ち合わせぐらいしといてくださいよ・・・と正直思えました。

講演後にはそのビデオを聴衆に配布しておられました(写真右)。

 

下村脩Martin ChalfieRoger Tsien (2008年化学賞)

BO5C3731.JPGBO5C3772.JPGBO5C3891.JPG

 

緑色蛍光タンパク(CFP)関連の研究にて受賞されていた三氏は連続講演。いずれも自身の研究について話されていました。

下村教授はGFPよりも、むしろルシフェリン・ルシフェラーゼシステムの研究をライフワークとされてるそうです。仕事は大変オリジナリティが高く素晴らしいと思えましたが、英語での講演はそれほどご達者では無さそうな感じでした。アメリカのお二方は、プレゼンテーションスキルがやはり高いですね。何を見せれば聴衆が凄いと思うか、良く分かって喋っているような印象を受けました。

いずれの科学者も熱の入ったメッセージを若手科学者に贈っておられました。

 

ノーベル賞科学者達のパネルディスカッション

受賞者たちが壇上に上り、特定のテーマに対して議論を交わすパネルディスカッション。会議を通じて2回ほど催されていました。議題は「Renewable Energyと気候変動」について。現在のホットトピックながら、2回とも似たような主題でした。

実は今回の会議では、オゾン層破壊のメカニズムを示した1995年受賞の三氏(Rowland, Crutzen, Molina)も、全員参加して講演していました (冒頭の写真はRowland教授)。似たような話ばっかりになってしまってるので、聞いてる方はちょっと退屈でしたが・・・。

つまりは、環境問題に力を入れているドイツならではの企画意図があるわけですね。いかに国として力を注ぎ、確固たる方針を打ち出そうとしているか、世界へ向けてのアピールタイムでもあったというわけです。

とはいえ環境化学が専門で無い学者も多く、議題として答えの出ようがない難しいものだったためか、若干議論がかみ合ってない感はあったような・・・。P1010635-thumb-200x150-1645

BO5C2753-thumb-200x150-1630

 

ともあれ他にもたくさん、すばらしい講演がありました。講演動画は公式サイトにアップされているので、そちらも参照していただければと思います。

 

ノーベル賞学者とのディスカッション

午前中はノーベル賞化学者の講演を聴き、昼食休憩のあと当日講演したノーベル賞化学者とのディスカッションに参加する、というのが毎日のスケジュールとなっていました。

ノーベル賞学者一人ずつに対し、島内各所の会場が一つずつあてがわれていました。興味のある学者がいる場所を若手研究者が訪れ、一対多の質疑応答に参加するという形式でした。

それぞれの学者ごとに、スペースなどがそもそもかなり異なる感じで、ディスカッションに集まってくる人数も違っていました。個人的には右の写真程度の小さめの会場のほうが、ノーベル賞学者を身近に感じられ、かつ質問もしやすいので、むしろ好ましいと感じられました。

どのノーベル賞学者もバイタリティは十分で、二時間にもわたる学生からの絶え間なき質疑応答(時には激論になることも)に対し、真剣に応えておられました。

BO5C2834.JPGBO5C3606.JPG(左:Ciechanover教授とのディスカッション、右:Agre教授とのディスカッション)

こんな感じで毎日のアカデミックイベントは進んでいました。

次回は最後に、参加者同士の交流イベントの様子をお伝えしたいと思います。

 

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. パラジウム光触媒が促進するHAT過程:アルコールの脱水素反応への…
  2. 特許にまつわる初歩的なあれこれ その2
  3. リガンド指向性化学を用いたGABAA受容体の新規創薬探索法の開発…
  4. 可視光によるC–Sクロスカップリング
  5. 抗薬物中毒活性を有するイボガイン類の生合成
  6. Pixiv発!秀作化学イラスト集【Part 1】
  7. 糖鎖合成化学は芸術か?
  8. 累計100記事書きました

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 金と炭素がつくりだす新たな動的共有結合性を利用した新たな炭素ナノリングの合成法の確立
  2. カネカ 日本の化学会社初のグリーンボンドを発行
  3. 次世代電池の開発と市場予測について調査結果を発表
  4. ライトケミカル工業2024卒採用情報
  5. 抗結核薬R207910の不斉合成
  6. メチオニン選択的なタンパク質修飾反応
  7. 天然物の全合成研究ーChemical Times特集より
  8. フェノールフタレイン ふぇのーるふたれいん phenolphthalein
  9. Elsevierのニッチな化学論文誌たち
  10. ロピニロールのメディシナルケミストリー -iPS創薬でALS治療に光明-

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年7月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  

注目情報

注目情報

最新記事

マテリアルズ・インフォマティクスを実践するためのベイズ最適化入門 -デモンストレーションで解説-

開催日:2023/04/05 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

ペプチド修飾グラフェン電界効果トランジスタを用いた匂い分子の高感度センシング

第493回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 物質理工学院 材料系 早水研究室の本間 千柊(ほ…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 2

第一弾に引き続き第二弾。薬学会付設展示会における協賛企業とのケムステコラボキャンペーンです。…

有機合成化学協会誌2023年3月号:Cynaropicri・DPAGT1阻害薬・トリフルオロメチル基・イソキサゾール・触媒的イソシアノ化反応

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年3月号がオンライン公開されました。早…

日本薬学会  第143年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part 1

さて、日本化学会春季年会の付設展示会ケムステキャンペーンを3回にわたり紹介しましたが、ほぼ同時期に行…

推進者・企画者のためのマテリアルズ・インフォマティクスの組織推進の進め方 -組織で利活用するための実施例を紹介-

開催日:2023/03/22 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

Part 1・Part2に引き続き第三弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

第2回「Matlantis User Conference」

株式会社Preferred Computational Chemistryは、4月21日(金)に第2…

日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回のPart 1に引き続き第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける従来の実験計画法とベイズ最適化の比較

開催日:2023/03/29 申し込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP