[スポンサーリンク]

ケムステニュース

排ガス原料のSAFでデリバリーフライトを実施

[スポンサーリンク]

ANAは日本時間の10月30日、排ガスを原料とするSustainable Aviation Fuel(SAF)を使用し、米国ワシントン州のエバレットから羽田への新造機デリバリーフライトを三井物産株式会社と共同で実施しました。 (引用:Aviation Wire 11月13日)

化石燃料をエネルギー源として動く乗り物は、二酸化炭素の排出するため、様々な方法で総合的に二酸化炭素の排出を少なくする取り組みが行われています。最もわかりやすい方法は燃費の改善で、近年の車や飛行機はエンジンの改良によって燃費が大きく向上しました。しかしながら、機材を買い替える必要があり、高価で何十年も使う飛行機を常に最新のものに買い替えることは現実的ではありません。他の方法として代替燃料をつかうことが挙げられます。代替燃料として有名なバイオエタノールバイオディーゼルを燃料として使うと当然二酸化炭素は発生しますが、燃料の原料である植物が育つ際に、光合成によって二酸化炭素を吸収しているため、燃料を使っても二酸化炭素は発生していないことになります(カーボンニュートラル)。

地域別t炭素排出量の推移

このニュースは、航空大手であるANAが、米国で新造された航空機を日本まで運ぶ際に航空機用のバイオ燃料、SAFを使用したという内容です。使用したSAFはLanzaTech社が、製鉄所や製油所などの排ガスからガス発酵技術を使って製造したものです。製造方法は下の動画のとおりで、工場から排出されたガスをタンクに引き込み、タンクに貯蔵した後、バイオリアクターに吹き込みます。リアクター内のAcetogenic微生物は、排ガス中に多く含まれているCOからエタノールを合成します。得られたエタノールは抜き出してそのまま製品として出荷するか、脱水や重合などを行って適するアルキル鎖の炭化水素に変換してから燃料として出荷されます。

少し前には、トウモロコシからエタノールを製造し燃料に使用することが注目を集めましたが、逆に食物の供給を脅かすことが問題になったため、捨てられるマテリアルを有効活用して燃料を製造する技術を開発する動きが強いようです。LanzaTech社は、2005年に設立された企業で、米国イリノイ州を拠点としています。排ガスから微生物を使って燃料を製造する技術は他にも開発されていますが、LanzaTech社のテクノロジーの特長は、水素ガスを含んでいなくても合成ができる点で、水素ガスの含有量が少ない製鉄所や製油所の排ガスを活用できる点です。また、エタノールから炭化水素を合成するステップについても効率が高い触媒を開発していてSAFを安定的に製造できるようです。そのため多くの企業が注目をしていて、例えば英ヴァージンアトランティック航空は2018年10月にLanzaTech社が製造した燃料を使って米国のオーランドからロンドンまでの飛行を実施しています。さらには中国でのエタノール製造も2018年の5月に開始しています。

そもそも航空機が使用する燃料は、灯油を精製した炭化水素をベースに、高高度での飛行で凍結しないための不凍液やガムの発生を抑制する酸化防止剤などが添加されたものを使用しています。 具体的な物性は、ASTM D1655 (JIS K2209)という規格で決まれていて、これに合致する成分の燃料しか使うことはできません。代替燃料については2009年に別の規格 ASTM D7566が制定され、SAFについても通常の燃料と同じ低流動点と発熱量は持つことはもちろんのこと、エンジンや燃料供給設備を改良せずに利用して通常の燃料と混ぜても問題ないことが求められています。代替燃料については、製造方法まで認証される必要がありますが、LanzaTech社の製法も認証され規格書の付録に追加されています。

ジェット燃料の規格値

日本国内でもSAFに関するプロジェクトが進んでいて、いくつかの企業ではSAFの実証製造プラントの稼働が始まっています。またユーザーであるJALとANA両社も、このニュース以外にもSAFを使った飛行を何度も行っています。エネルギー技術開発の推進を行うNEDOではSAFの製造、サプライチェーンの事業化を民間に促進するため、関連したテーマを採択し着手しました。

バイオジェット燃料のサプライチェーンイメージ。NEDOではこれを国内で行うための支援を始めた。

今後もアジアを中心にフライト数は増加するため燃料の需要は増加していくと予想されるため、このようなバイオ燃料の開発は期待が高いといえます。視点を変えれば日本ははじめとする非原油生産国でも燃料を製造できるようになるため、航空運賃が世界情勢に左右されにくくなるかもしれません。ただし原油の精製とは異なり燃料を製造するまでの作業工程は多いため、製造コストをどれだけ下げられるかが課題であり、さらなる技術発展に期待します。

関連書籍

関連リンク

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. オルト−トルイジンと発がんの関係
  2. 農薬メーカの事業動向・戦略について調査結果を発表
  3. 米デュポン、高機能化学部門を分離へ
  4. 武田薬品、14期連続で営業最高益に
  5. JSR、東大理物と包括的連携に合意 共同研究や人材育成を促進
  6. 独バイエル、2004年は3部門全てで増収となった可能性=CEO
  7. マクドナルドなど9社を提訴、発がん性物質の警告表示求め=カリフォ…
  8. 首席随員に野依良治氏 5月の両陛下欧州訪問

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. シガトキシン /ciguatoxin
  2. 位相情報を含んだ波動関数の可視化に成功
  3. 遷移金属の不斉触媒作用を強化するキラルカウンターイオン法
  4. ハロゲン原子の受け渡しを加速!!新規ホウ素触媒による触媒的ハロゲンダンス
  5. 大型期待の認知症薬「承認申請数年遅れる」 第一製薬
  6. 2015年ケムステ人気記事ランキング
  7. ガラス器具を見積もりできるシステム導入:旭製作所
  8. 呉羽化学、明るさを保ちながら熱をカットする窓ガラス用素材
  9. ポンコツ博士の海外奮闘録 〜留学サバイバルTips〜
  10. セルロース由来バイオ燃料にイオン液体が救世主!?

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

超塩基に匹敵する強塩基性をもつチタン酸バリウム酸窒化物の合成

第604回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 元素戦略MDX研究センターの宮﨑 雅義(みやざぎ…

ニキビ治療薬の成分が発がん性物質に変化?検査会社が注意喚起

2024年3月7日、ブルームバーグ・ニュース及び Yahoo! ニュースに以下の…

ガラスのように透明で曲げられるエアロゲル ―高性能透明断熱材として期待―

第603回のスポットライトリサーチは、ティエムファクトリ株式会社の上岡 良太(うえおか りょうた)さ…

有機合成化学協会誌2024年3月号:遠隔位電子チューニング・含窒素芳香族化合物・ジベンゾクリセン・ロタキサン・近赤外光材料

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年3月号がオンライン公開されています。…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part3

日本化学会年会の付設展示会に出展する企業とのコラボです。第一弾・第二弾につづいて…

ペロブスカイト太陽電池の学理と技術: カーボンニュートラルを担う国産グリーンテクノロジー (CSJカレントレビュー: 48)

(さらに…)…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part2

前回の第一弾に続いて第二弾。日本化学会年会の付設展示会に出展する企業との…

CIPイノベーション共創プログラム「世界に躍進する創薬・バイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第104春季年会(2024)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界に躍進…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1

今年も始まりました日本化学会春季年会。対面で復活して2年めですね。今年は…

マテリアルズ・インフォマティクスの推進成功事例 -なぜあの企業は最短でMI推進を成功させたのか?-

開催日:2024/03/21 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP