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海外化学者インタビュー

第58回―「集積構造体を生み出すポリマー合成」Barney Grubbs教授

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第58回の海外化学者インタビューは、バーニー・グラブス教授です。ダートマス大学化学科に所属(訳注:現在はニューヨーク大学ストーニーブルック校に所属)して、ポリマー合成に取り組んでいます。ちなみに父親は2005年ノーベル化学賞受賞者のロバート・グラブスです。より大きくでき、興味深いと言われ、もしかしたらいつか役立つかもしれない、それでもなおとても小さい構造として組み立てられるべき物質です。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

化学(および化学者)のそばで育ったので、ものに火をつけるなど、よくある若さ故の衝動を発露させていました。

中学と高校では、感動的な科学/化学教師に出会いました。Covington先生とPaul Groves先生です。しかし、人類学と、その後は言語学を学ぶつもりで大学に進学しました。二年生の終わりに、化学が好きであることに気づき、そこから先は化学に進みました(言語学の授業はまだ少し取っていましたが)。

分子が次第に大きなスケールで相互作用し観察可能な物体や効果をもたらすというアイデアと、興味深い分子を設計し合成するための方法は絶えず増え続けています。これが私を含めた、化学者の巨大コミュニティを魅了し続けています。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

研究室での時間が少なくなるにつれ、料理をますます楽しむようになってきました。しかし、「分子ガストロノミー」がもたらした科学的装置を受け入れたとしても、食品調理業で生き残ろうとする不屈の精神まではないと思います。

アルコール飲料づくりに関わることも、化学的原理の名誉ある応用ですが、同じく経済的に成り立たないでしょうし、すでに酷使されている肝臓にも厳しい話でしょう。

もし化学者でなかったら、科学や食べ物やお酒について書くのが一番幸せだったこでしょうね(特にアルコール飲料については、興味深い多様な消費機会が頂けますね)。

Q. 概して化学者はどのように世界に貢献する事ができますか?

考慮すべきレベルはいくつかあります(ここで何を言っても、手を振るような無意味な話になってしまうのではと心配していますが)。

最も基礎的なレベルでは、新しい有用な分子や物質をつくれたり、新しい分子と古い分子がどのように相互作用するか理解できたりします(そし、前者ができる方々に、どういう分子を作るべきか教えることが出来ます)。

より社会的なレベルでは、より多くの人々に、 (1) 化学者として我々が行っていることは、皆の日常生活にとって重要かつ基本的であること  (2) 物理学・化学・生物学はすべて、基礎レベルで理解する価値があり、恐れることは何もないこと を納得してもらう必要があると思います(私自身は今でも(2)に取り組んでいます)。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

もしお酒メインのディナーなら、Brendan Behanを酔っ払わせ、そこで生まれた歌や物語などを楽しむ機会を持てたらよかったなぁと思います。Benjamin Franklinもおそらく面白い人でしょうから、おそらくはもっと楽しい食事になるでしょう。存命の人であれば、村上春樹と食事をし、煙の立ち込めた日本のジャズクラブで話をしながらお酒を飲む機会を楽しみたいと思います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

2005年9月、いくつかの新規フリーラジカル重合開始剤を試しました。これは非常に上手く行き、これまでに大学院生数人分の仕事になり、論文数報へと結実しました。いまは単純な機械の基本的修理をしていることが多いです。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

文字通り砂漠の島であれば、Euell Gibbonsの「Beachcomber’s Handbook」はなくてはならないですね(パームワインの作り方が書いてあるだけの本ですが)。そうでなければ、村上春樹の「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」がその状況に打って付けかもしれません。

WFMUの魔法のようなライブストリームがダメであれば、CDについては次のどれかになるでしょう。古き良き栄光・Poguesの「Rum, Sodomy, & the Lash」、叙事詩的ブラックメタル・Weaklingの「Dead as Dreams」、あるいはの別世界的スピリチュアル・Pharoah Sandersの「Tauhid」です。その後は、多くの音楽が(そして文明も)恋しくなるでしょう。[島流しになるようなこと、私は何かしましたか?]

原文:Reactions -Barney Grubbs

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※このインタビューは2008年4月4日に公開されました。

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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