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日本人化学者インタビュー

第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 教授

 

25回目のインタビュー。今回は第7回の杉本先生、第21回の深瀬先生からの紹介で、京都大学化学研究所の二木史朗教授にお話いただきました。ペプチド設計・合成という化学のものづくりから、分子生物学、細胞生物学、あるいは構造生物学に至る研究と、化学と生物、両方の視点から研究を行い、活躍している第一線の研究者です。実をいうと2年前にお声をかけさせていただき快諾をいただきましたが、お忙しいことから返事がいただけませんでした(同じような状況の先生方は多数いらっしゃいますので公開をお楽しみに!)。もう一度お願いした結果、今度は素早く回答してくださいました。お忙しいところご協力に心より感謝いたします。それではインタビューをどうぞ!

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

他の先生方のお答えを見ると皆さん立派なことを書いておられますのでちょっと気恥ずかしいのですが、回り道と偶然の結果という気もします。大学に入った直後くらいだったと思うのですが、ワトソンの「二重らせん」を読みました。DNAの構造が明らかにされる過程での緊迫のストーリを読み、自分もこのように生命現象の本質を探る仕事をしてみたいと思いました。

京大薬学部の3回生の時、非常勤講師に来ておられた阪大理学部の濱口浩三先生の講義を聴いて、タンパク質(特に構造形成)は面白いと思いました。例えば生化学をするにしても、世の中の色々なタンパク質を扱っている人に混じって勝負をするには何か強みを持ちたいと言うことで、当時RNase A(リボヌクレアーゼ A)の化学合成に成功していた矢島治明先生の研究室に卒業実習生として配属しました。タンパク質の化学合成ができれば強力と思って志願したのですが、20~30アミノ酸程度のペプチドでも、当時は合成が容易ではなく、正直言って、しまった!と思ったことは多々ありました。ただ、アミノ酸原料から自分で作ったことで、アミノ酸の官能基やペプチド配列の「くせ」に関して身をもって体験できたことは、私の貴重な財産となっています。

学位を取った前後に、Peter KimやBill DeGradoらの短いペプチドを効果的に使ってタンパク質機能をシミュレートする、あるいは具現化する仕事を見て、ペプチドの機能設計の仕事をしたいと思いました。日本の研究者では、例えば三原久和先生や森井孝先生のお仕事から大きな刺激を受けました。助手として赴任した徳島大学で、イオンチャネルなど、膜を機能発現の場とするペプチドに興味を持ちだし、1997年に京都大学化学研究所に助教授で採用していただいた時に、当時研究室を主宰されていらっしゃった杉浦幸雄先生のご理解・ご支援のもと、生細胞とペプチドの相互作用を探る仕事を始めることができ、現在に至っています。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

研究者になろうと思ったきっかけが生命現象を探りたいということでしたので、もっとどっぷり分子生物学やウイルス学に浸かった仕事をしてみても良かったかなという気もします。

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

京都大学に移って、最初に出た仕事の一つがアルギニンに富む膜透過ペプチド(アルギニンペプチド)に関するものです。何故カチオンに富むこのようなペプチドが細胞膜を透過できるのかと考え、細胞膜との相互作用を生物物理化学的、細胞生物学的に調べて行くと、色々な新しい発見がありました。膜透過における対イオンの効果やマクロピノサイトーシスという特殊なエンドサイトーシスの関与などについての発見です。

2015-03-13_09-02-48

 

 

アルギニンペプチドが注目されている大きな理由は、種々のバイオ高分子や薬物を細胞内に容易に導入に使用できると言う点です。ただ、医療や細胞内可視化などを目的としたケミカルバイオロジーへの応用を考えると、恐らく現時点の数倍、あるいはそれ以上の導入効率が望まれます。抗体サイズ(IgGで分子量約15〜16万)のタンパク質を効率的に細胞内に導入する手法を開発したいと、現在、幾つかのアプローチを用いて取り組んでいます。

もう一つ、今、とても興味を持っているのは、「ペプチドによる膜曲率(curvature)の誘導」です。細胞内小胞輸送、細胞運動、細胞分裂などの生命現象には生体膜のダイナミックな形状変化と曲率誘導が伴います。曲率誘導に対しては、膜構成脂質のみならず、細胞内のタンパク質が様々に関与していることが最近明らかになってきました。タンパク質でできるのなら、ペプチドを上手くデザインすることで同様のこと、あるいはタンパク質にできないことができるかも知りません。まだまだ試行錯誤(悪戦苦闘?)の段階ですが、膜の構造変化を誘導できる新しい細胞操作ツールとしての機能性ペプチドを創出したいと考えています。また、膜タンパク質の会合制御にも興味があります。

 必ずしもすぐさま応用に直結するものでなくても、面白い!と他の人に思ってもらえる(当然自分も面白い)研究を目指したいと思っています。同時に、このような試みの中から、ユニークで世の中の役に立つ技術を創り出したいと思っています。

 

 

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

司馬遼太郎が好きで、色々読んでいるのですが、好きなものの一つは「坂の上の雲」です。

大河ドラマのイントロのようですが、明治の時代、日本という国が必死で背伸びして近代国家となろうとしていた際に、その時代を生きた、あるいは担った人の息吹に触れてみたいと思います。秋山兄弟はもちろん、児玉源太郎とか東郷平八郎などにも興味があります。東郷平八郎に関しては、連合艦隊の司令長官に選ばれた理由が「東郷は運のいい男ですから」であるというエピソードが印象に残っています。恐らく逆境で活路を拓く運を引き寄せる「人間の器」というのがあるのではと思っています。

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

ちょっと記憶が曖昧ですが、教授に昇任して1〜2年(教授昇任は2005年)は、夏休みなどに気分転換を兼ねて膜透過ペプチドなどを幾つか作った気がしますが、かなり主体的にやった実験というのは、その1〜2年前に、人工イオンチャネルの開口制御の評価のために平面膜を用いてチャネル活性を測定したり、リポソーム上に提示したpH感受性ペプチドの構造評価を行ったりしたことだと思います。自分で手を動かすと、特に上手くいかなかった時に新しいヒントが生まれるので、やりたいのは山々なのですが。。。

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

実は私はあまり音楽を聴かない人でして。。。でも、じっくり時間があるのなら、昔、ニューヨークでポスドクしていたときに聞きに行ったワグナーの「ニーベルングの指環」(舞台が見えないと寝てしまうので、できればDVDで)を最初から最後までもう一度聞いてみたいと思います(全4夜なので結構長い)。

聞くのにつかれたら、浅田次郎の小説を読むなどして、ちょっとうるうるするのも良いかと思ったりします。いずれにせよ、あまり風景にマッチしていませんね。

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

私の年代だと杉本直己先生のインタビューにも出ている生命化学研究会のメンバーの方はそれぞれ一家言持っていそうで面白いかと思います。若手の人だと東大理学研究科の後藤佑樹さんとかはどうでしょう?話を聞いてみたい方はいろいろいて、大変悩ましいのですが。

 

 関連書籍

 

 

二木史朗教授の略歴

 

2015-03-13_09-05-28京都大学化学研究所教授。専門は細胞ペプチド工学、生体機能化学。1983年京都大学薬学部卒業、1987年同大学院薬学研究科博士後期課程中退。同年徳島大学薬学部助手。1989年〜1991年米国ロックフェラー大学留学。1993年徳島大学薬学部助教授。1997年京都大学化学研究所助教授。2005年より現職。1994年日本ペプチド学会奨励賞、1995年日本薬学会奨励賞、1997年有機合成化学協会 第一製薬研究企画賞など

*本インタビューは2015年3月5日に行われたものです

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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