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化学者のつぶやき

ヒドロキシ基をスパッと(S)、カット(C)、して(S)、アルキル化

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α-ヒドロキシカルボン酸誘導体のα位アルキル化反応の開発に成功した。α-ヒドロキシカルボン酸誘導体がDMAP-ボリルラジカルで一電子還元される。続く炭素–酸素結合開裂に伴う、スピン中心移動(SCS)により生じたα-カルボニルラジカルがアルケンと反応する。

α-ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシ基の変換

α-ヒドロキシカルボン酸は天然物に頻出する構造である。そのヒドロキシ基の変換により、様々なα-官能基化カルボニル化合物を合成できる。極性機構とラジカル機構があるが、ここではラジカル機構について述べる。例えば、炭素–酸素(C–O)結合を均等開裂すれば、α-カルボニルラジカルを生じ、様々な反応剤と反応できる。しかし、そのC–O結合の結合解離エネルギーは大きく、開裂は容易ではない。したがって、ヒドロキシ基を脱離容易な官能基(”活性基”, X)に変換し、炭素–活性基(C–X)結合を均等開裂させ、α-カルボニルラジカルを生成する手法が一般的であり、近年多くの脱酸素的官能基化が報告されている(図1A)[1]
一方で、本著者のWangらは最近、トリフルオロアセトアミドやトリフルオロ酢酸エステルの炭素–フッ素(C–F)結合の連続的なα位アルキル/水素化を開発した(図1B)[2]。強固なC–F結合の切断に成功した鍵に、スピン中心移動(Spin center shift: SCS)機構の利用がある。SCS機構ではまず、カルボニル基の一電子還元によりラジカル種を生成する。そのラジカル中間体から、フッ素アニオンの脱離とヘテロ原子Yからの電子供与により1,2-ラジカル移動(スピン中心移動)することでα-カルボニルラジカルとなる。これとアルケンや水素源を反応させることで、炭素–フッ素結合の官能基化が可能となった。
今回著者らは、この知見をもとに、直接に炭素–活性基(C–X)結合を均等開裂させない手法、つまり、SCS機構でα-ヒドロキシカルボン酸誘導体のC–O結合を切断し、α-カルボニルラジカルの生成を試みた(図1C)。その結果、弱い活性基(Z = Ac)でも、α-カルボニルラジカルの生成に成功し、未踏のα-ヒドロキシカルボン酸誘導体のアルキル化反応を開発した。

図1. (A) 炭素–酸素結合開裂の例 (B) 連続的α-炭素–フッ素結合の官能基化 (C) 本手法

 

“Dehydroxylative Alkylation of α-Hydroxy Carboxylic Acids Derivatives via a Spin-Center Shift”
Peng, T.-Y.; Xu, Z.-Y.; Zhang, F.-L.; Li, B.; Xu, W.-P.; Fu, Y.; Wang, Y.-F.
Angew. Chem., Int. Ed. 2022, Early View.
DOI: 10.1002/anie.202201329

論文著者の紹介

研究者:Feng-Lian Zhang
研究者の経歴:
2015 Ph.D., Nanyang Technological University, Singapore (Prof. S. Chiba)
2016–2019 Postdoc, University of Science and Technology of China, China (Prof. Y.-F. Wang)
2019– Research Assistant Professor, University of Science and Technology of China, China (Prof. Y.-F. Wang)
研究内容:ルイス塩基ホウ素ラジカルの新規反応性の解明

研究者:Yi-Feng Wang
研究者の経歴:
2003 B.S., Central China Normal University, China
2006 M.S., Nankai University, China (Prof. H. Yang)
2010 Ph.D., Nanyang Technological University, Singapore (Profs. K. Narasaka and S. Chiba)
2011–2015 Research Fellow, Nanyang Technological University, Singapore (Prof. S. Chiba)
2015– Professor, University of Science and Technology of China, China
研究内容:ルイス塩基ホウ素ラジカルの新規反応性の解明

研究者:Yao Fu
研究者の経歴:
2000 B.S., University of Science and Technology of China, China
2005 Ph.D., University of Science and Technology of China, China (Prof. G. Qingxiong)
2005–2010 Associate Professor, University of Science and Technology of China, China
2010– Professor, University of Science and Technology of China, China
研究内容:計算化学、遷移金属触媒を用いた有機合成、グリーンケミストリーにおける新規反応や触媒開発

論文の概要

4-ジメチルアミノピリジンボラン(DMAP-BH3)、1,2-ビス(tert-ブチルオキシ)ジアゼン(TBHN)、ベンゼンチオール(PhSH)存在下、アセトニトリル中、60 °Cでα-ヒドロキシカルボン酸誘導体(主にアミド、活性基はAcもしくはMs基)1に対し、アルケン2を作用させることで、アルキル化体3が得られる(図 2A)。本反応は乳酸から合成したアミドにも適用でき3aへと導いた。その他にコレステロール由来のアミド、マレイン酸由来のエステルもアルキル化により、それぞれ3b, 3cが得られた(Z=Ac)。α-ヒドロキシエステルの場合は、Z=Msとすることで、血管拡張薬cyclandelateのアルキル化も進行し3dを与えた。
反応機構はラジカルクロック実験やDFT計算により、次のように推定した。まず、DMAP-BH3とラジカル開始剤TBHNからDMAP-ボリルラジカルが生成し、1のカルボニルを一電子還元する。続くSCS機構により、α-カルボニルラジカル中間体を生じ、これがアルケン2と反応することで、アルキル化体3を与える。
本反応のDMAP-ボリルラジカルによる1のカルボニル基の一電子還元では、SOMO/LUMOエネルギーギャップが関与する(図2B)。アミド4とアルケン5を用いたα位アルキル化では、4の置換基R1、R2の電子求引性が強いほど、SOMO/LUMOエネルギーギャップは小さく、一電子還元が進行してSCS機構によりアルキル化体6を与える。なお、置換基R1をエステルにすると(電子求引性を高める)、よりSOMO/LUMOエネルギーギャップが小さくなり、OTs基やOMs基のみならず、OAc基の切断が可能になる(低収率ではあるがOH基も)。

図2. (A) 基質適用範囲(B) アミド4の置換基とSOMO/LUMOギャップの関係

以上著者らは、α-ヒドロキシカルボン酸のアルキル化を報告した。SCS機構を巧みに操ることで、さらなる不活性結合の官能基化が期待できる。

参考文献

  1. (a)Lutsker, E.; Reiser, O. Synthesis of Chiral Tetrahydrofurans and Pyrrolidines by Visible-Light-Mediated Deoxygenation. J. Org. Chem. 2017, 2017, 2130–2138. DOI: 10.1002/ejoc.201700014 (b) Rackl, D.; Kais, V.; Kreitmeier, P.; Reiser, O. Visible Light Photoredox-Catalyzed Deoxygenation of Alcohols. Beilstein J. Org. Chem. 2014, 10, 2157–2165. DOI: 10.3762/bjoc.10.223 (c) Cai, A.; Yan, W.; Liu, W. Aryl Radical Activation of C–O Bonds: Copper-Catalyzed Deoxygenative Difluoromethylation of Alcohols. J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 9952−9960. DOI: 10.1021/jacs.1c04254 (d) Dong, Z.; MacMillan, D. W. C. Metallaphotoredox-enabled Deoxygenative Arylation of Alcohols. Nature 2021, 598, 451−456. DOI: 10.1038/s41586-021-03920-6 (e) Gao, M.; Sun, D.; Gong, H. Ni-Catalyzed Reductive C–O Bond Arylation of Oxalates Derived from α-Hydroxy Esters with Aryl Halides. Org. Lett. 2019, 21, 1645–1648. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b00174 (f) Monteith, J. J.; Rousseaux, S. A. L. Ni-Catalyzed C(sp3)–O Arylation of α-Hydroxy Esters. Org. Lett. 2021, 23, 9485–9489. DOI: 10.1021/acs.orglett.1c03674 (g) Ran, C.-K.; Niu, Y.-N.; Song, L.; Wei, M.-K.; Cao, Y.-F.; Luo, S.-P.; Yu, Y.-M.; Liao, L.-L.; Yu, D.-G. Visible-Light PhotoredoxCatalyzed Carboxylation of Activated C(sp3 )–O Bonds with CO2. ACS Catal. 2022, 12, 18–24. DOI: 10.1021/acscatal.1c04921
  2. Yu, Y. J.; Zhang, F. L.; Peng, T. Y.; Wang, C. L.; Cheng, J.; Chen, C.; Houk, K. N.; Wang, Y.-F. Sequential C–F Bond Functionalizations of Trifluoroacetamides and Acetates via Spin-center Shifts. Science 2021, 371, 1232– DOI: 10.1126/science.abg0781

山口 研究室

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