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日本人化学者インタビュー

第71回「分子制御で楽しく固体化学を開拓する」林正太郎教授

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第71回目の研究者インタビューです! 今回は第51回ケムステVシンポ「光化学最前線2025」の講演者の一人、高知工科大学の林正太郎教授にお願いしました。

林先生は、有機分子の合成から分子性固体の新しい機能を開拓する研究を行われています。Vシンポでのご講演も要チェックです!

それではインタビューをどうぞご覧ください!

Q. あなたが化学者になった理由は?

受験生の頃に新宿紀伊国屋書店で本を物色していたところ、「現代化学」の鮮烈な表紙が飛び込んできまして・・・。ページをめくっていくと、化学ってアートだなと思ったのが化学科受験のきっかけになりました。入学後は指定教科書ではなかったのですが、ウォーレンの有機化学を読んで、反応とか分子軌道〜分子の機能美って面白いなぁと思っていました。結果的に、大学1年生の時には化学者がいいなと決めていました。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

なれるなら宇宙飛行士!とか言ってしまいたいのですが(笑)。高校生の時はもともと弁護士目指して法学部!とか考えていましたし、演劇の世界への憧れもあったので、両方に挑戦していたかもしれません。化学者じゃない場合になっているかもしれないのは、ちょっと高学歴で売れない舞台役者じゃないですかね?

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

「どんな分子や結晶があったら楽しいだろうか?」といった感性に従って低分子から高分子の合成・物性まで様々なに研究対象としていますが、分子設計して狙った高次構造と機能を出していく有機機能材料研究がお気に入りです。以前、結晶構造設計を綿密に行い得た「エラスティック結晶」でバズりましたので、結晶構造・機能をターゲットとした分子〜結晶作りに邁進しています。高知に来てからは特に、有機反応(共有結合合成)から自己組織化(非共有結合合成)を有機合成化学の基本と捉え、狙った通りに機能を出しながら、学生からの面白いリスポンスを待っています。すごく面白い結果は、ちょっと予想から外れたものになったりすることもしばしばです。また今は社会実装に興味を持っていて、面白いシーズを社会ニーズに還元していくことも考えています。将来的にも「化学って楽しい!」って言いながら、感性に従って研究していきたいですね。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

加藤与五郎先生との会食に興味があります。加藤科学振興会でも大変お世話になっておりますが(笑)、発明・開発に関わることや人を支援する姿勢など学び深い時間になる様な気がします。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

普段から空き時間にレーザー照射や顕微観察、顕微分光は行なっていますが、自分で合成して全て測定までディープに実験を行ったのは2019年が最後です。1960年頃に報告された芳香族炭化水素を合成し、検証を行なったものです。当時の論文ではNMRスペクトルも単結晶構造もなかったので、本当にその化合物があるのかも疑っていたのですが、何段階かで合成してキャラクタライズできた時は嬉しかったですね。因みに分光学的に解析した結果は当時とは真っ向から異なるものでした。恐らく当時は不純物を多く含んでいたのでしょうね。研究結果は出揃って論文も書いていますが、なぜか未だに投稿せずにしまっています。もし投稿して掲載されれば、最後の単著論文ですね(笑)

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

生きて帰ることが前提にあるならば、実験化学講座を読みながら座して待ちたいですね。もしそうでないなら、自分の人生について振り返る自由帳が必要です。。。。

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Q.次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

どんなインタビューになるのか興味があるのは信州大学の伊藤冬樹先生です。教育学部で驚異的なアクティビティを出されている方です。有機結晶つながりでは山形大学の片桐洋史先生、高知県つながりでは高知大学の仁子陽輔先生が良いですね。身近に見ている地方大学の星です(笑)。深い見識と挑戦的な思想にいつも刺激をもらっていますので、是非とも取り上げてください。

spectol21

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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