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GCにおける水素のキャリアガスとしての利用について

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最近ヘリウムの深刻な供給不安により、GCで使うガスボンベの納期が未定となってしまい、ヘリウムが無くならないか不安だという声が聞かれます。そこで、ヘリウムの代替として水素をGCのキャリアガスとして使用することについて各社の情報をまとめました。

ヘリウムがキャリアガスに適している理由

そもそもヘリウムがキャリアガスとして適している理由ですが、幅広い線速度で高い分離能を示すからです。

0:35あたりでキャリアガスごとのファン・デームテルの式が示されており、窒素は2次曲線の形がシャープなのに対して、ヘリウムと水素は平均線速度(X値)が大きくなってもHETP(1理論段当たりのカラム長さ Height equivalent to a theoretical plate: Y値)は上昇しないことが読み取れる。

実際、窒素とヘリウムで同じサンプルをGCで測定すると流量が少ない時は、ヘリウムと窒素でピーク分離に差がありませんが、流量を上げると窒素は分離が悪くなることが確認されています。このように実験室では広く使われている窒素もヘリウム代替の選択肢の一つですが、隣接したピークが検出されるようなサンプルを測定している場合には、窒素を使うと収率の計算等に影響が出る可能性があります。

水素をキャリアガスにするメリットとデメリット

水素を使うメリットの一つに入手性が挙げられます。水素はヘリウムと比べて安価ですし、天然資源ではないので世界情勢によって供給不安に陥るリスクも小さいと考えられます。また水素発生器を利用してGCに供給すれば、シリンダー交換の手間がなくなり、大量のガス漏れの心配も少なくなります。さらに上記の動画で紹介されている通り、線速度が速い条件ではヘリウムよりもHETPが低いため分析にかかる時間を短くすることが可能です。

水素発生装置(出典:AXEL

デメリットはガスの滞留で爆発のリスクがあることで、水素の爆発範囲は4から75%と広いため、GCから排出されるガスが密閉された空間に充満すると爆発する可能性があります。またヘリウムと比べて、ノイズが大きくなったりベースラインの上昇することもあります。特にGC-MSの場合は、真空度が低下して測定感度が低下する可能性があります。また水素と反応する化合物の定性、定量にも使えないことがデメリットとして挙げられます。

実際に水素をキャリアガスとして使う方法

まず、大前提として使っているGCが水素ガスに対応しているかを確認する必要があります。下記は、各社のWebページで公表している水素ガス対応と明確に記述されているGCの一例です。

その他のメーカーについては、キャリアガスとして水素の使用を禁止していたり、水素ガス使用可だが推奨はしていなかったりと様々なアドバイスが見受けられました。実際に水素に変更する場合には、メーカーに問い合わせを行ったほうが安全かと思われます。

水素をキャリアガスとしたGC運用には、水素ガスが部屋に滞留しないために換気の環境がある実験室でGCを使用する必要があります。また、ガス漏れを防ぐためにガスリークディテクタでの配管の継ぎ手などのガス漏れチェックを使用毎に行うことが必要です。

ハンディタイプのリークディテクター(出典:モノタロウ

さらには、水素検知器を設置して常時部屋の水素ガス濃度をモニターし、異常時には警報を出したり水素ガスラインを遮断したりする対策を行うことで爆発のリスクをより低減できます。

内部のカートリッジを交換することで水素を含む種々のガスを検知できる(出典:AXEL

パラメーターの設定については、RESTEK社のHPで公開されているEZGC Method Translator and Flow Calculatorを使うとヘリウムの条件をそのまま水素や窒素の条件に変換することができます。

島津製作所の水素ガスへの対応

島津製作所が販売しているGCでは電子式フローコントローラーにより、異常時・停電時には水素ガスを自動的に停止する機構があります。またカラムオーブン内に水素が滞留しないことを確認しており、仮にオーブン内で点火しても軽い爆発音がするだけで何も起こらないそうです。

加えて、最近のモデルであるNexis GC-2030では、キャリアガス漏れチェック機能や自己診断機能を搭載しており、装置に異常がないかを簡単に調べることができます。さらにGC本体に水素ガスセンサをオプションで搭載でき、潜在的なリークを早期に発見できます。リークが検知された場合は,スタンバイモードへの移行,自動電源OFFなどで事故を未然に防ぐことができます。

1:35付近で水素をキャリアガスとした分析が紹介されている

アジレント・テクノロジーの水素ガスへの対応

アジレント・テクノロジーにおいては、上記のモデルにおいて異常時には、バルブがシャットダウンされたり、流量が制限されるような機構を備えています。さらに、水素が GC オーブン内で爆発しても、ドアや構造体が飛び散らない設計となっています。

さらに最近発売したAgilent 5977C GC/MSDとAgilent 7000E および 7010C トリプル四重極GC/MSでは、HydroInertイオン源を搭載しており、水素ガスキャリアガスに伴う感度の低下とスペクトルのシフトを最小限に抑えることができるそうです。

1:18付近にてHydroInertについて紹介されている

GCにおけるヘリウムの消費量はNMRと比べるとかなり少ないので、一本でも予備のシリンダーがあればすぐに無くなることはないかと思います。しかしながらヘリウムの供給が元に戻るかは不透明であり、新しいGCの導入を検討されている場合には水素をキャリアガスにできるような装置を検討した方が良いかもしれません。将来、水素がGCのキャリアガスとして当たり前に使われていることも想定されます。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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