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スポットライトリサーチ

自己組織化ねじれ双極マイクロ球体から円偏光発光の角度異方性に切り込む

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第327回のスポットライトリサーチは、筑波大学大学院数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 山本・山岸研究室の大木 理(おおき おさむ)さんにお願いしました。

山本研究室では、分子の集合構造を制御することでオプトエレクトロニクスデバイスに繋がるさまざまな機能を発現させる研究を精力的に開発されています。

今回ご紹介いただける成果は、キラルな構造を持つ発光性ポリマーのマイクロ球体に関するものです。単一のマイクロ球体からの発光が円偏光発光をもち、しかもそれが球体からの発光方向に依存した円偏光を発することを精緻な光計測から明らかにされています。これは一見均一に見えるマイクロ球体内部の局所構造の存在に切り込む独創的な成果で、J. Am. Chem. Soc.誌に原著論文として公開され、プレスリリースも公開されています。

“Robust Angular Anisotropy of Circularly Polarized Luminescence from a Single Twisted-bipolar Polymeric Microsphere”
Osamu Oki, Chidambar Kulkarni, Hiroshi Yamagishi, Stefan C. J. Meskers, Zhan-Hong Lin, Jer-Shing Huang, E. W. Meijer, Yohei Yamamoto, J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 8772-8779. DOI: 10.1021/jacs.1c03185

研究室を主催する山本洋平教授からは、大木さんと本成果について以下のようなコメントをいただいています。

この研究は、4年前に私がオランダのアイントホーフェン工科大学のBert Meijer教授を訪問した時に遡ります。Bert教授とのディスカッションの末、キラル共役ポリマーで球体を作製すれば、目標とする円偏光マイクロレーザーが実現できるのではないかとの提案を受け、先方で扱っていたキラルF8BTをご提供いただきました。その時、当時M1の大木くんもドイツに短期留学に来ていたため、彼に試料を渡して実験を進めるように指示しました。球体の形成とレーザー発振(円偏光レーザーではありませんでしたが)までは順調に進み、一旦論文にまとめてみたものの、もう一歩の仕上がりで、投稿するか迷っていたところ、大木くんより「各球体のPOMの見え方に類似性があることから、この球体はマルチドメインではなくシングルドメインではないでしょうか?」との提案がありました。さらに1年かけて様々な実験を行い球体の内部構造について検討した結果、twisted-bipolar構造にたどり着きました。さらに、アイントホーフェンのグループから、「これまでにCPLの角度異方性を実証した例はない」との助言を受け、1粒子CPL計測を実施した結果、球体からの明確な異方性を確認することができました。4年越しの大木くんの粘り強さが実り、JACS誌に論文を掲載することができました。

大木さんの洞察力と粘り強さが今回の成果の鍵だったことが良くわかります。素晴らしいですね! それでは、大木さんのインタビューをお楽しみください!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では,内部に異方的ならせん分子配向をもつ有機マイクロ球体1粒子が示す円偏光発光に異方性が存在することを実験的に実証しました.円偏光発光(Circularly Polarized Luminescence, CPL)は、偏光面が右または左回りに回転しながら伝搬するキラルな光が生じる現象で,立体視デバイスや光暗号への応用が期待されています.そもそも,らせんとは軸をもつ1次元異方的な形であり,「らせん秩序で配向した分子集積体が示すCPLにも異方性があるはずだ」ということは推測できるのではないでしょうか.しかし,らせん配向構造とCPLの相関を実験的に実証した前例はありませんでした.「超分子集積体1つが示すCPLの角度分解測定をする」ことを考えれば,確かに一筋縄ではいきません.本研究では,キラルな側鎖をもつπ共役ポリマーの自己組織化により形成したキラルなマイクロ球体をモデルとし,CPLの異方性に切り込みました.我々の作製したマイクロ球体は,外形は等方的な球体形状であるにも関わらず、内部にはねじれ双極構造と呼ばれる異方的ならせん分子配向が形成しており(図1a),分散液では0.2を超える巨大な非対称強度(g値)でCPLを発現しました.そこで、このマイクロ球体1粒子のCPLを精査するため,新たに顕微光学系を立ち上げました.その結果,球体1粒子が示すCPLのg値は明瞭な角度異方性を示し,らせん分子配向方向へ最大で0.5におよぶg値を示すことを明らかにしました(図1b).

(a) ねじれ双極構造マイクロ球体の模式図.(b) g値の角度依存プロット.

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

球体内部のねじれ双極構造が明らかになった瞬間です.一般に,自己組織化ポリマーマイクロ球体の等方的な形状は無秩序な凝集によるもので,球体内部に分子の配向秩序はないことがほとんどです.本研究で扱ったキラルポリマーもマイクロ球体を形成しましたが,偏光顕微鏡観察の結果,従来とは異なる分子配向を内部にもつマイクロ球体であることが分かりました(図2a-c).しかし,球体の内部配向を明らかにする術もなく長らく棚上げ状態に.そんな折に,学会のポスター発表の場で出逢ったある先生から,本研究の転機となるコメント頂きました.「樹脂包埋した球体断面のTEM観察をしてみたら?」.そこで,細胞組織の観察に用いられる樹脂包埋をマイクロ球体に適用し,薄片のTEM像を観察したところ,マイクロ球体の断面はらせん配向構造のねじれ周期に対応した明瞭な明暗像を示していたのです(図2d).こうして明らかになったねじれ双極構造が中核となり,本研究は大きく前進することとなりました.

(a)キラル共役ポリマーの分子構造.(b-d)自己組織化マイクロ球体のSEM(b),POM(c),およびスライスした球体薄片のTEM(d)画像.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

CPLを適切に計測する光学系の立ち上げです.所属研究室では以前より顕微分光を得意としていましたが,従来の顕微分光装置では偏光の検出ができません.はじめは私もこの装置を利用し球体1粒子のCPL検出を試みていましたが,装置の都合上どうしても除けない光学素子によりCPLの偏光状態が正しく検出できていないことが後に判明し,膨大な時間を費やして集めていたデータが無に帰しました.系中の光学素子や反射が偏光の検出に与える影響の深刻さに真正面から臨むことで,時間を要しながらも適切な光学系を立ち上げ,最終的にマイクロ球体1粒子からのCPL計測を実現できました.

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究のねじれ双極構造マイクロ球体もそうですが,分子集合体が前触れもなく予想を超えた姿形をみせてくる瞬間に立ち会うと心の底からワクワクします.今後も「こんなモノできるの?!」という新鮮さと驚きを併せもつ自己組織化の科学を突き詰めていきたいです.また,今後は今まで以上に自身の研究に対する興味と科学技術の社会的発展・意義との狭間に頭を悩ませていこうと思います.研究を問い続けた先に,「〇〇と言ったら大木君だよね」と言われるような一分野を築いていきたいです.

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究を進めるにあたり,偶然の人との出逢いや思いがけない過去の経験が後々大きなきっかけとなる場面に多々遭遇しました.本研究においても,学会のポスター発表でのディスカッション,本学に細胞標本の専門職員がいらっしゃったこと,短期の海外留学先で光学系の立ち上げを横で眺めていた経験,このどれか1つでも欠けていたら本研究は未だ着地していないように思います.日々の躓きや後悔も含め,きっと先に繋がる何かを掴んでいるのが研究というものだと感じる今日この頃です.毎日がチャンスと思って一緒に研究に邁進していきましょう!

関連リンク

  1. 研究室HP:筑波大学 数理物質科学研究科 山本・山岸研究室
  2. プレスリリース:有機マイクロ球体から発生する円偏光発光の角度依存性を実証

研究者の略歴

プロフィール:
名前:大木 理(おおき おさむ)

所属:筑波大学大学院数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 博士後期課程3年

専門:分子工学,光物性工学

略歴:
2017年 筑波大学理工学群応用理工学類 卒業
2019年 筑波大学院 数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 博士前期課程 卒業
2019-現在 筑波大学院数 理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 博士後期課程 在学中

spectol21

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ニューヨークでポスドクやってました。今は旧帝大JKJ。専門は超高速レーザー分光で、分子集合体の電子ダイナミクスや、有機固体と無機固体の境界、化学反応の実時間観測に特に興味を持っています。

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