[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

マダンガミンの網羅的全合成

[スポンサーリンク]

高度に縮環した構造を有するマダンガミンA、C、Eの全合成が達成された。E/Z選択的なスキップジエン合成法の開発とN-アシルイミニウム環化反応が本合成の鍵である。

マダンガミンA–E

マダンガミン類(madangamine)はパプアニューギニアに生息する海綿Xestospongia ingensから得られるアルカロイドでAndersenらによりA–E体が単離、構造決定された(図1A)[1]。マダンガミンA–Eはスキップジエンからなる11員環を含む四環性骨格(ABCE環)を共通骨格としてもち、様々な形をした大員環(D環)をもつ。D環の構造により生物活性が変化することがわかっており、マダンガミンA、Dではそれぞれ異なるヒトガン細胞に対して毒性を示す。

高度に縮環した構造をもつことからマダンガミン類の全合成は容易ではなく、全合成の報告はAmatらのマダンガミンD合成に限られる(図1B)[2]。しかし、彼らの手法は合成中盤でD環を構築するため、類縁体の網羅的合成に適さない点と、E環構築におけるWittig反応によるスキップジエン合成のE/Z選択性が乏しい点といった課題が残る。

今回、慶應義塾大学の千田教授、佐藤准教授らはN-アシルイミニウムの環化による三環性骨格構築と、アレンのヒドロホウ素化–酸化と続く右田–小杉–StilleカップリングによるE/Z選択的なスキップジエン合成を鍵としてマダンガミン類の合成を達成した(図1C)。

図1. (A) マダンガミンA–E (B) マダンガミンDの合成例 (C) マダンガミン類の逆合成解析

 

Unified Total Synthesis of Madangamines A, C, and E
Suto, T.; Yanagita, Y.; Nagashima, Y.; Takikawa, S.; Kurosu, Y.; Matsuo, N.; Sato, T.; Chida,
J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 2952.DOI: 10.1021/jacs.7b00807

著者の紹介

研究者:千田憲孝
研究者の経歴:
–1979 修士, 慶應義塾大学大学院工学研究科応用化学専攻 (須網 哲夫教授)
1984 博士(理学), 東北大学大学院理学研究科化学専攻 (吉越 昭教授)
1984–1987 中央研究所研究員, 三楽オーシャン (株) (現メルシャン (株))
1987 助手, 慶應義塾大学理工学部応用化学科
1988–1989 博士研究員, ペンシルバニア大学化学科 (Amos B. Smith, Ⅲ教授)
1992 専任講師, 慶應義塾大学理工学部応用化学科
1995 助教授, 慶應義塾大学理工学部応用化学科
2003– 教授, 慶應義塾大学理工学部応用化学科
研究内容:天然物の全合成研究

論文の概要

マダンガミン類の合成の際に課題となるのが

  1.  高度に縮環したジアザトリサイクリックABC環の構築
  2.  E環のスキップジエン部位のE/Z選択的合成の二点である。

課題1に関しては彼らが2015年に報告したN-アシルイミニウムの環化反応を4に対して行うことで解決した(図2)[3]

課題2においては、アレンに対するE/Z選択的なヒドロホウ素化–酸化[4]と、続く各種のアルケニルスズとの右田–小杉–Stilleカップリング[5]を行うことで解決した(図2A)。すなわち、アレンに対しHB(sia)2を用いることでZ選択的なヒドロホウ素化が、また9-BBNを用いることでE選択的なヒドロホウ素化が進行する。その後、酸化、生じたアルコールの炭酸保護により(Z)-もしくは(E)-アリルアルコール誘導体を合成し、(E)-もしくは(Z)-アルケニルスズとのカップリング反応を行うことでスキップジエンの全ての幾何異性体の作り分けが可能になった。

実際に本手法を合成中間体3に対し適用し、高いE/Z選択性でスキップジエン(Z,Z)-2が得られている(図2B)。その後、2の脱保護やマクロラクタム化を行うことでマダンガミン類の共通中間体1へと導いた。詳細は論文を参照されたいが、共通中間体1から炭素鎖を伸長し種々のD環を構築することで網羅的にマダンガミンA、C、Eの初の全合成を達成した。

図2. (A) 立体選択的スキップジエン合成, (B) マダンガミンA, C, Eの全合成

 参考文献

  1. (a) Kong, F.; Andersen, R. J. Am. Chem. Soc. 1994, 116, 6007. DOI: 10.1021/ja00092a077 (b) Kong, F.; Graziani, E. I.; Andersen, R. J. J. Nat. Prod. 1998, 61, 267. DOI: 10.1021/np970377r
  2. Ballette, R.; Pérez, M.; Proto, S.; Amat, M.; Bosch, J. Chem., Int. Ed. 2014, 53, 6202. DOI: 10.1002/anie.201402263
  3. Yanagita, Y.; Suto, T.; Matsuo, N.; Kurosu, Y.; Sato, T.; Chida, N. Lett. 2015, 17, 1946. DOI: 10.1021/acs.orglett.5b00661
  4. Kister, J.; DeBaillie, A. C.; Lira, R.; Roush, W. R. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 14174. DOI: 10.1021/ja905494c
  5. Castaño, A. M.; Echavarren, A. M. Tetrahedron Lett. 1996, 37, 6587. DOI: 1016/0040-4039(96)01406-2
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. 2001年ノーベル化学賞『キラル触媒を用いる不斉水素化および酸化…
  2. 日本のお家芸、糖転移酵素を触媒とするための簡便糖ドナー合成法
  3. 「さくら、さくら」劇場鑑賞券プレゼント結果発表!
  4. 「野依フォーラム若手育成塾」とは!?
  5. 分子間および分子内ラジカル反応を活用したタキソールの全合成
  6. 研究職の転職で求められる「面白い人材」
  7. ハウアミンAのラージスケール合成
  8. 励起状態複合体でキラルシクロプロパンを合成する

注目情報

ピックアップ記事

  1. シス優先的プリンス反応でsemisynthesis!abeo-ステロイド類の半合成
  2. ポンコツ博士の海外奮闘録⑪ 〜博士,データをとる〜
  3. 宝塚市立病院で職員が「シックハウス症候群」に…労基署が排気設備が不十分と是正勧告
  4. 第58回「新しい分子が世界を変える力を信じて」山田容子 教授
  5. あなたの分子を特別なカタチに―「CrystalProtein.com」
  6. 第57回若手ペプチド夏の勉強会
  7. 「ソーシャルメディアを活用したスタートアップの価値向上」 BlockbusterTOKYO 2020 第9回 研修プログラムを実施!
  8. 経営戦略を成功に導く知財戦略【実践事例集】
  9. メタンハイドレートの化学 ~その2~
  10. 第93回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2017年4月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

トッド・ハイスター Todd K. Hyster

トッド・カート・ハイスター(Todd Kurt Hyster、1985年10月10日–)はアメリカ出…

“最難関アリル化”を劇的に加速する固定化触媒の開発

第 703回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院 理工学府 博士課程前期で…

「ニューモダリティと有機合成化学」 第5回公開講演会

従来の低分子、抗体だけでなく、核酸、ペプチド、あるいはその複合体(例えばADC(抗体薬物複合体))、…

溶融する半導体配位高分子の開発に成功!~MOFの成形加工性の向上に期待~

第702回のスポットライトリサーチは、関西学院大学理学部(田中研究室)にて助教をされていた秋吉亮平 …

ミン・ユー・ガイ Ming-Yu Ngai

魏明宇(Ming-Yu Ngai、1981年X月XX日–)は米国の有機化学者である。米国パデュー大学…

第55回複素環化学討論会

複素環化学討論会は、「複素環の合成、反応、構造および物性」をテーマとして、化学・薬学・農芸化学など幅…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP