[スポンサーリンク]

化学書籍レビュー

Semiconductor Photocatalysis: Principles and Applications

[スポンサーリンク]

本書は光触媒自体の特性(触媒活性、バンド構造等)ではなく光触媒を介した反応自体にフォーカスした珍しい一冊。この一冊で光化学と電気化学の基礎に加え光触媒反応(有機物分解、水分解, CO2還元, 有機合成)に関する基礎知識得ることができる。

対象

光化学が専門の大学院生以上

解説

本書は約200パージでタイトルが“Semiconductor Photocatalysis: Principles and Applications”となっているが、全体の約半分を基本的な光化学(1-3章)と電気化学(4章)にあて、残りの5章で光触媒を利用した反応を解説している。

特徴は5章で光触媒を用いた有機合成について比較的多くのページ数を割いている点である。現在、有機物の光触媒反応に関する論文は非常に多いが、その多くは環境浄化を目的とした有機物をCO2に分解する反応である。しかしながら光(紫外線-近赤外線)の持つエネルギーは約40-240 kcal/molでC≡Cの結合エネルギー(~200 kcal/mol)よりも大きく、光触媒が変換できる光の波長をコントロールすることで様々な有機反応を常温常圧下にて行うことが可能で、幅広い応用が期待されている。

本書は光化学と電気化学の基礎から始まり、光触媒を用いた有機物や水の分解のみならず、CO2還元や有機合成について解説している。

内容

1章

光化学の歴史に関する簡単な記述に加え、触媒と光触媒に違いに関する解説。

2章(基礎的な光化学)

単分子による光の吸収とそれにより励起された電子がどのような遷移過程を経るかをカシャの法則とフランク=コンドンの原理を元に示し、その後、具体例(π-π*遷移、異なる物質間での電子移動等)を解説します。

3章 (単分子光触媒)

数ページほどではあるが光化学反応(分子光触媒)について解説

4章(基礎的な電気化学)

様々な界面(イオン-半導体, 半導体-金属, 半導体-半導体等)における電子移動とフェルミ順位もしくはバンド構造の変化と、これらがどのように測定可能な物性値(拡散反射, 電圧-電流プロット)に反映するかについて。

5章(光触媒反応)

光触媒のバンドギャップ(バンド構造)と表面構造に基づいた実際の光触媒反応について(水分解, CO2還元, 有機合成)有機合成ではC-N, C-CカップリングやC-H活性化反応について。

現在出版されている光触媒関連の書籍は光触媒自体の特性(触媒活性、バンド構造等)に焦点を当てたものが多い中、本書は光化学と電気化学の基礎をベースに光触媒を介した反応自体にフォーカスした貴重な一冊です。ただ全体的に表現が若干回りくどく感じられる点が、少し残念に思います。

 

関連書籍

Ohno

投稿者の記事一覧

博士(理学)。ナノ材料に関心があります。

関連記事

  1. 海の生き物からの贈り物
  2. 麺の科学 粉が生み出す豊かな食感・香り・うまみ
  3. Small Molecule Medicinal Chemist…
  4. 読むだけで身につく化学千夜一夜物語 食品、日用品から最先端技術ま…
  5. Letters to a Young Chemist
  6. 実験室の笑える?笑えない!事故実例集
  7. 最新有機合成法: 設計と戦略
  8. 化学の歴史

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. CTCLS、製薬業界向けに医薬品の探索研究に特化した電子実験ノートブックを販売
  2. アメリカで医者にかかる
  3. シクロカサオドリン:鳥取の新しい名物が有機合成された?
  4. 治療薬誕生なるか?ジカウイルスのアロステリック阻害剤開発
  5. フロイド・ロムスバーグ Floyd E. Romesberg
  6. 第5回慶應有機化学若手シンポジウム
  7. 材料研究分野で挑戦、“ゆりかごから墓場まで”データフル活用の効果
  8. ジェームズ・ロスマン James Rothman
  9. 食品アクリルアミド低減を 国連専門委「有害の恐れ」
  10. エリック・ベッツィグ Eric Betzig

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年1月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

【十全化学】核酸医薬のGMP製造への挑戦

「核酸医薬」と聞いて、真っ先に思い起こすのは、COVID-19に対するmRNAワ…

十全化学株式会社ってどんな会社?

私たち十全化学は、医薬品の有効成分である原薬及び重要中間体の製造受託を担っている…

化学者と不妊治療

これは理系の夫視点で書いた、私たち夫婦の不妊治療の体験談です。ケムステ読者で不妊に悩まれている方の参…

リボフラビンを活用した光触媒製品の開発

ビタミン系光触媒ジェンタミン®は、リボフラビン(ビタミンB2)を活用した光触媒で…

紅麹を含むサプリメントで重篤な健康被害、原因物質の特定急ぐ

健康食品 (機能性表示食品) に関する重大ニュースが報じられました。血中コレステ…

ユシロ化学工業ってどんな会社?

1944年の創業から培った技術力と信頼で、こっそりセカイを変える化学屋さん。ユシロ化学の事業内容…

日本薬学会第144年会付設展示会ケムステキャンペーン

日本化学会の年会も終わりましたね。付設展示会キャンペーンもケムステイブニングミキ…

ペプチドのN末端でのピンポイント二重修飾反応を開発!

第 605回のスポットライトリサーチは、中央大学大学院 理工学研究科 応用化学専…

材料・製品開発組織における科学的考察の風土のつくりかた ー マテリアルズ・インフォマティクスを活用し最大限の成果を得るための筋の良いテーマとは ー

開催日:2024/03/27 申込みはこちら■開催概要材料開発を取り巻く競争や環境が激し…

石谷教授最終講義「人工光合成を目指して」を聴講してみた

bergです。この度は2024年3月9日(土)に東京工業大学 大岡山キャンパスにて開催された石谷教授…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP