[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

2つの触媒反応を”孤立空間”で連続的に行う

[スポンサーリンク]

自己集合性を有するM12L24型かご錯体内の特異的反応場を用いて、同一溶液中酸化反応及び立体選択的Diels–Alder反応が連続的に進行することを見出した。

自己集合性錯体を利用した孤立空間の化学

生体膜やミセルのように複数の分子が規則的に配列され三次元構造をとるとき、内部には外部環境と切り離された「孤立空間」が生まれ、空間内で分子は特異な物理的・化学的性質を示す。

この特性を利用して分子認識や物性制御を行う例が知られているが、ここでは反応場制御としての応用に焦点を当てる。

孤立空間を利用し反応場制御を行うことは、相互作用により共存困難な分子同士の共存や効率的なエネルギー移動を可能にする。ゆえに、通常の条件では進行しない反応を行うことや選択性・反応性の向上が期待できる。最近では、この性質を生かして2つの触媒反応を同一溶液中で連続的に進行させる研究が報告されている。

2013年にTosteらは、ガリウムと配位子により形成された超分子内部で金触媒反応を行い、酵素との連続的な反応を達成した[1](図1A)。Tosteらの報告では、孤立空間に内包された金イオンは酵素と同一反応系に存在していても相互作用せず反応性が保たれる。このような孤立空間を用いた連続的な反応は半透膜[2]、デンドリマー[3]、多相系[4]などを用いた報告例があるものの、精密な操作が必要なことや触媒自体の反応性が低下するなどの問題点も存在する。

今回、東京大学の藤田教授らは分子の自己集合性により生み出される孤立空間をこれに応用した。藤田教授らは、以前より自己集合性かご型錯体の内部官能基化や分子の内包など様々な研究を行ってきた。本論文では、2004年に報告した自己集合性M12L24型かご錯体[5]を応用し異なる二つの触媒をそれぞれ閉じ込め相互作用させることなく同一溶液中酸化反応と立体選択的Diels–Alder反応を連続的に進行させることに成功したので紹介する(図1B)。

“Permeable Self-Assembled Molecular Containers for Catalyst Isolation Enabling Two-Step Cascade Reactions”

Ueda, Y.; Ito, H.; Fujita, D.; Fujita, M. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, ,6090. DOI: 10.1021/jacs.7b02745

図1. 孤立空間を利用した反応

 

論文著者の紹介


研究者:藤田誠
研究者の経歴(一部抜粋):(詳細はケムステ参照)
-1987 博士(工学), 東京工業大学
1994 助教授, 千葉大学工学部
1997 助教授, 分子科学研究所錯体化学実験施設
1999 教授, 名古屋大学大学院工学研究科
2002 教授, 東京大学大学院工学系研究科
研究内容:遷移金属を活用した自己集合性分子システム

論文の概要

M12L24型をはじめとする自己集合性錯体は、容易に合成可能であり、剛直な骨格により溶液中で安定化され配位子交換速度が極めて遅いという特徴を示す。

今回、藤田教授らはPd(Ⅱ)とTEMPO及びMacMillan触媒部位をもつ配位子3a, 3bからなるM12L24型錯体を合成した(図2A)。通常、これらの触媒が共存するとTEMPOがMacMillan触媒のアミンを酸化し失活させてしまうため同一反応系内で連続的に反応を行うことは困難である。

そこで、藤田教授らは錯体内の孤立空間にそれぞれを閉じ込めることでMacMillan触媒の失活を防ぎ、同一溶液中ながら2つの触媒反応を連続的に進行させることに成功した。

2aは、通常のTEMPOと同程度の反応性を示し反応終了後もその構造を保つほどの安定性を示した。さらに、Diels–Alder反応において、2bとMacMillan触媒単体は同一の立体選択性を示すことも明らかとなった。比較対照実験により、触媒のどちらか一方でも錯体に内包しない場合は、最終生成物は低収率に留まり、2つの触媒が共に内包された場合に反応が効率的に進行している(図2B)。

このように、M12L24錯体のもつ性質から高難度の触媒的カスケード反応が達成された。今後、様々な連続的触媒反応に適用することで合成の簡略化へつながることが期待できる。

図2. 孤立空間を利用したカスケード反応

 

参考文献

  1. Wang, Z. J.; Clary, K. N.; Bergman, R. G.; Raymond, K. N.; Toste, F. D. Chem. 2013, 5, 100. DOI: 10.1038/NCHEM.1531
  2. Miller, A. L.; Bowden, N. B. Mater. 2008, 20, 4195. DOI: 10.1002/adma.200801599
  3. Lu, J.; Dimroth, J.; Weck, M. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12984. DOI: 10.1021/jacs.5b07257
  4. Miyamura, H.; Choo, G. C. Y.; Yasukawa, T.; Yoo, W. J.; Kobayashi, S. Commun. 2013, 49, 9917. DOI: 10.1039/C3CC46204H
  5. Tominaga, M.; Suzuki, K.; Kawano, M.; Kusukawa, T.; Ozeki, T.; Sakamoto, S.; Yamaguchi, K.; Fujita, M. Chem., Int. Ed. 2004, 43, 5621. DOI: 10.1002/anie.200461422
The following two tabs change content below.
山口 研究室
早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. ReadCubeを使い倒す(1)~論文閲覧プロセスを全て完結させ…
  2. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり⑧:ネオジム磁…
  3. 高専シンポジウム in KOBE に参加しました –その 2: …
  4. タミフルをどう作る?~インフルエンザ治療薬の合成~
  5. 複数のイオン電流を示す人工イオンチャネルの開発
  6. UCリアクター「UCR-150N」:冷媒いらずで-100℃!
  7. 中学生の研究が米国の一流論文誌に掲載された
  8. DNAを人工的につくる-生体内での転写・翻訳に成功!

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 医薬品のプロセス化学
  2. 関東化学2019年採用情報
  3. フリッチュ・ブッテンバーグ・ウィーチェル転位 Fritsch-Buttenberg-Wiechell Rearrangement
  4. AIによる創薬に新たな可能性 その研究と最新技術に迫る ~米・Insitro社 / 英・ケンブリッジ大学の研究から~
  5. π-アリルパラジウム錯体
  6. クリストフ・マチャゼウスキー Krzysztof Matyjaszewski
  7. 超臨界流体 Supercritical Fluid
  8. 合成手法に焦点を当てて全合成研究を見る「テトロドトキシン~その1~」
  9. 「炭素-炭素結合を切って組み替える合成」テキサス大学オースティン校・Dong研より
  10. N-ヨードサッカリン:N-Iodosaccharin

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

長期海外出張のお役立ちアイテム

ぼちぼち中堅と呼ばれる年齢にさしかかってきたcosineです。そんなお年頃のせいでしょうか、…

使っては・合成してはイケナイ化合物 |第3回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)

理系の理想の働き方を考える研究所「リケラボ」とコラボレーションとして「有機合成実験テクニック」の特集…

有機合成化学協会誌2020年1月号:ドルテグラビルナトリウム・次亜塩素酸ナトリウム5水和物・面性不斉含窒素複素環カルベン配位子・光酸発生分子・海産天然物ageladine A

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年1月号がオンライン公開されました。オ…

【日産化学】新卒採用情報(2021卒)

―ぶれずに価値創造。私たちは、生み出し続ける新たな価値で、ライフサイエンス・情報通信・環境エ…

Carl Boschの人生 その5

Tshozoです。だいぶ間が空いてしまいましたが訳すべき文章量が多すぎて泣きそうになっていたためです…

Zoomオンライン革命!

概要“実際に会う"という仕事スタイルが、実はボトルネックになっていませんか?オンライン会…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP