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春の褒章2010-林民生教授紫綬褒章

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政府は2010年春の褒章受章者を28日付で発表しました。受章者は677人と20団体。その中でも芸術や学問で功績を残した人に贈られるのは紫綬褒章。ところで、紫綬褒章ってMedal with Purple Ribbonっていうことを知っていましたか?

さて、話を元に戻すと、昨年秋の褒章では4人の化学者が受賞しました(記事「秋の褒章2009 -化学-」参照)。今年の春の褒章では、京都大学教授の林民生教授が選ばれました。おめでとうございます!林教授は有機化学、特に遷移金属を利用した有機金属化学またそれを用いた反応化学分野で大きな功績を残されたというのが受賞の理由です。簡単に業績を振り返りたいと思います。

遷移金属用いた不斉触媒反応のパイオニア

今から35年前、1975年に林教授は有機ケイ素化学における開祖の一人であり、熊田-玉尾-Corriuクロスカップリング反応といった人名反応でも知られる熊田誠京大教授の元で博士を取得しました。その後、熊田研究室、その後を次いだ伊藤嘉彦教授の下で助手、助教授と過ごし、北海道大学の触媒研究センターで教授、1994年に京都大学へ転任され今に至っています。

ちょっとここからはマニアックで化学を専攻する学制以上はわからないかもしれません。

4年生に配属後のはじめのテーマは不斉ヒドロシリル化反応。当時熊田研究室の助手であった山本経二(東工大名誉教授)とともに行ったテーマでした。当時はエナンチオ選択性を確認する為に、旋光度計をもちいていました。それが今と違って、光学活性な化合物を入れると実際にゴロンとまわるのです。事実、世界ではじめての触媒的不斉ヒドロシリル化を達成した際にもゴロリとまわって驚き、喜んだそうです。

実はこの反応5%eeでしたが、それがライフワークになり遷移金属を用いた触媒的な不斉反応に一貫して取り組みはじめました。遷移金属を用いる場合、配位子がとても重要で、林先生もオリジナルで有効な不斉配位子を数多く生み出しています。研究初期から中期にかけては代表作はフェロセン骨格に有する不斉配位子、後期では単座のホスフィン配位子やジエン型の配位子を用いて(それ以外にも多数有りますが)数々の触媒的不斉反応を達成しました。

 

代表とする不斉触媒反応

[1]パラジウムおよびニッケル触媒を用いた不斉クロスカップリング
[2]金触媒を用いたイソシアノアセテートの不斉アルドール型反応
[3]ロジウム触媒を用いた有機ホウ素化合物の不斉1,4-付加
[4]ロジウム触媒を用いるイミンへの不斉アリール化反応
[5]パラジウム触媒を用いた不斉ヒドロシリル化
[6]パラジウムを用いた触媒的ワッカー型反応

などなど。

関連する反応に、いくつか最近の文献を含んであげておきますので、ぜひご一読ください。

ところで、昨年、京都大学工学部では大嶌幸一郎、檜山爲次郎両先生が退官されました。今年は理学部である林教授も定年退官の年だと思われます。近年の京大の化学といえば、有機金属化学でしたが、それらを率いていた教授陣がいなくなるということは新しい風が必要であることは間違い有りません。

とにかく、受賞おめでとうございます!

 

参考文献

[1] Hayashi, T.; Konishi, M.; Fukushima, M.; Mise, T.; Kagotani, M.; Tajika, M.; Kumada, M. J. Am. Chem. Soc. 1982, 104, 180. DOI: 10.1021/ja00365a033

[2] Ito, Y.; Sawamura, M.; Hayashi, T. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 6405. DOI: 10.1021/ja00280a056
[3] (a) Takaya, Y.; Ogasawara, M.; Hayashi, T.; Sakai, M.; Miyaura, N. J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 5579. DOI: 10.1021/ja980666h  (b) Shintani, R.; Takeda, M.; Nishimura, T.; Hayashi, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2010, ASAP DOI: 10.1002/anie.201000467
[4] Hayashi, T.; Ishigedani, M. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 976. DOI: 10.1021/ja9927220
[5] Hayashi, T. Acc. Chem. Res. 2000, 33, 354. DOI; 10.1021/ar990080f
[6] Uozumi, Y.; Kato, K.; Hayashi, T. J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 5063. DOI: 10.1021/ja9701366

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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