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スポットライトリサーチ

表裏二面性をもつ「ヤヌス型分子」の合成

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第106回のスポットライトリサーチは、埼玉大学大学院理工学研究科斎藤研究室 博士後期課程1年の須田祐貴さんにお願いしました。

斎藤研究室では多種多様な典型元素の性質を活かした分子合成が行われています。有機分子のメインプレイヤーであるC、H、N、Oによってつくられる骨格に対し、P、S、SiのみならずSnやGeまで様々な元素を組み込むことで数々の新奇化合物が生み出されており、この分野の化学のトップランナーといえる研究室です。斎藤研究室の研究成果は、これまでケムステでも何度も取り上げさせてもらっています(こちらこちら)。

今回スポットを当てさせていただく須田さんは、フラーレンの部分骨格であるスマネンにヘテロ元素を組み込んだヘテロスマネンの合成と性質解明研究を行ってきたなかで、とてもユニークな分子の合成に成功しました。

研究成果がプレスリリースされたのをきっかけに、スポットライトリサーチへの寄稿をお願いしました!

Triphosphasumanene Trisulfide: High Out-of-Plane Anisotoropy and Janus-Type π-Surface

Shunsuke Furukawa, Yuki Suda, Junichi Kobayashi, Takayuki Kawashima, Tomofumi Tada, Shintaro Fujii, Manabu Kiguchi, and Masaichi Saito

J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5785.  DOI: 10.1021/jacs.6b12119

須田さんに対し、斎藤先生古川先生からコメントを頂いております。

4年生として最初に配属されたばかりの時には、ジベンゾペンタレンのπ電子系を拡張する研究をしていたのですが、うまくいかないことばかりでした。しかし、それにめげずに、最終的に、有機化学者にとってはゴミのように思われた黒い不溶性固体がジベンゾペンタレン骨格をもつ新しいタイプの高分子であることを突き止めました。その後、古川さんのコメントにあるように、絶望的な混合物から収率1%程度のものを単離できるようになりました。このような厳しい経験を通じて身につけた前向きな姿勢と強い精神力が、今後の人生で遭遇するであろう様々な困難を乗り切る原動力になる、と期待しております。

斎藤雅一

須田くんは一見,真面目で温厚そうな性格に映りますが,地道な努力と次々に繰り出される成果を以ってぐいぐい周囲のメンバーを引っ張ってくれるリードオフパーソンです.今回の研究でも,須田くんのファインプレーが随所で輝きを放ちました.目的化合物を単離する際には,ほぼテーリングにしか見えない(絶望的な)反応粗生成物のTLCを目の前に,「これ分けられるっしょ.」という助教の無茶振りをものともせず,平然と目的物の単離をやってのけてくれました.そんな姿にシビれてあこがれる後輩たちが後を絶ちません.合成化学分野に限らず,いろいろな分野の先生方に協力を得ながら切磋琢磨した経験は,これからの新しい科学を展開していく上で,須田くんの強みとなってくれるものと期待しています.

古川俊輔

今後の須田さんの活躍に期待してます!それではインタビューをどうぞ。

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究では,高い面外異方性をもつ「ヤヌス型分子:トリホスファスマネントリスルフィド」の合成に成功し,この分子がもつ表裏二面性を明らかにしました。

一般に,表・裏の2つの性質(二面性)もつ分子は「ヤヌス型分子」と呼ばれています。π共役系化合物でヤヌス型分子を創ろうとした場合,π共役平面に対して直行した位置に官能基を導入する必要があるため,構築手法の観点から困難とされてきました。そのため,従来までのヤヌス型π共役分子の面に垂直な異方性は低く,より高い面外異方性をもつヤヌス型分子を生み出すためには,新たな分子設計が必要とされてきました。私たちはこの問題を解決するため,異方性官能基であるホスフィンスルフィドをスマネン骨格に組み込む手法を確立し,高い面外異方性を有するヤヌス型分子「トリホスファスマネントリスルフィド」の合成に成功しました(図1)。この分子のもつ双極子モーメントは12.0 D(図2a)と算出され,従来の面外異方性分子であるサブフタロシアニン(4.84 D, 図2b)よりも2倍以上大きな値をもつことが明らかとなりました。また,本分子がAu(111)面と面選択的な相互作用をもつことをX線光電子分光測定(XPS)および理論計算より見出し,その二面性を明らかにしました(図2c)。

 

図1 分子設計とトリホスファスマネントリスルフィドの合成法

図2 (a) syn-トリホスファスマネントリスルフィドと(b)サブフタロシアニンの双極子モーメント, および(c) syn-トリホスファスマネントリスルフィドのAu(111)面への吸着状態

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

目的化合物の合成で,鍵中間体の発生条件の最適化条件には力を注ぎました。反応中間体として,ヘキサリチオトリフェニレンという(クレイジーな)化学種を発生させるのですが,初めは,リチオ化の効率を上げるためにTMEDAを加えていました。ところがよくよく解析してみるとTMEDAとn-ブチルリチウムが反応して生じる分解物がリン試薬と反応してしまうことが判明しました。そして不幸なことに,この副生成物の影響で目的物を単離することが難しくなっており,収率低下に直結していることもわかりました。そこで,TMEDAを加えない条件でリチオ化の効率化を検討したところ,リチオ化の進行度は少し低下してしまったものの,精製がしやすくなり,結果として収率が向上しました(3%は低いとよく言われますが,最初は0.2%なので15倍です)。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

本研究の難しかった点は,目的物の分離です。目的物トリホスファスマネンは,syn体とanti体の2種類の異性体があり,さらに副生成物であるリンが2か所に導入された化合物にも2種類の異性体があります。これらの化合物は,すべてRf値が近く,カラムクロマトグラフィーでの分離がとても大変でした。このテーマを始めたばかりのころは,まず粗生成物をざっくりと分け,4番目のフラクションをさらに分け,そのうちの2番目のフラクションを・・・などと根気強く分けていました(おかげでラボのメンバーからカラムゴーレムと呼ばれるようになりました・・・)。今では溶媒の極性を最適化し,効率よく2種類の異性体を単離できるようになりました(それでも最短で3回はカラムをかけています)。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

「これはおもしろい!」と感じてもらえるような魅力的な分子を作りたいと思っています。自分自身の手で分子を自在に組み上げることができるのは,合成化学者の特権だと思います。そこに電子デバイスや界面科学の視点も取り入れていくことで,新しい科学の発展に寄与する魅力的な分子を生み出したいです。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究を進めていく上で,すべてのことが考えた通りに進んでいくということはほとんどないと思います。しかし,結果をマイナスにだけ捉えるのではなく,プラスを見出していくことで,研究も気持ちも良い方向に進んでいくと思います。お互いに,前向きに頑張りましょう。

最後になりましたが,本研究を進めるにあたり多大なご指導を賜りました斎藤先生,古川先生をはじめとする研究室の皆様,共著の先生方にこの場を借りてお礼申し上げます。また,このような機会を与えてくださいました,ケムステスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。

(私事ですが,進学した友人がほとんどいなくて寂しがっています。どこかで見かけたら声をかけてあげてください。)

 

研究者の略歴

名前:須田 祐貴 (すだ ゆうき)

所属:埼玉大学大学院理工学研究科 斎藤研究室 博士後期課程1年

研究テーマ:高い面外異方性を有するπ共役分子の創製と有機/金属界面科学への応用

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