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化学者のつぶやき

タミフルの新規合成法・その3

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Synthesis of Tamiflu and its Phosphonate Congeners Possessing Potent Anti-Influenza Activity.
Shie, J.-J.; Fang, J.-M.; Wang, S.-Y.; Tsai, K.-C.; Cheng, Y.-S. E.; Yang, A.-S.; Hsiao, S.-C.; Su, C.-Y.; Wong, C.-H. J. Am. Chem. Soc. 2007, ASAP. DOI: 10.1021/ja073992i

 

台湾国立大学のFangらによる報告です。

以前にも「つぶやき」で取り上げてきた(その1その2)現在ホットなタミフル合成研究ですが、これまでのものとは成果がひと味違います。ただ作るだけでなく、構造変換によってタミフルよりも活性の高い誘導体(analogue;アナログ) 合成に成功した、という報告です。

 

ホスホナートは、カルボキシレートのバイオイソスター(bioisostere:生物学的等価置換基)として働きます。つまり、カルボキシレートをホスホナートに代えても効能自体は変化せず、活性の強さが異なりうる、という経験則が知られているのです。Fangらはその考え方に基づきホスホナート誘導体を合成し活性評価を行っています。

D-xyloseを出発物質として、以下のルートに従いおおむね高収率(5-13%)にてタミフルとその誘導体を合成しています。鍵となる反応は分子内Horner-Wadsworth-Emmons環化です。

tamiflu_feng.gif

in vitro試験の結果では、グアニジン修飾ホスホナート誘導体(一番右の化合物)はタミフル自体の何倍ものノイラミニダーゼ阻害活性があり、それでいて宿主細胞には毒性を及ぼさない、というデータが示されています。in vivoでの結果はおそらくこれから、でしょうか。

誘導化の考え方自体はありふれたものですし、率直に言って大したアプローチではないと思います。Docking Studyをやったと書いてあるものの、それも後づけ風味が漂っていますし。ただ、良い活性を持つ分子を「実際に」見つけてきている点と、高収率でタミフルが合成可能という「ルートの効率性」という観点からは、知見として重要な報告の一つといえるでしょう。

 

関連文献

  1.  De Clercq, E. Nature Rev. Drug Discov. 2006, 5, 1015. DOI:10.1038/nrd217

 

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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