[スポンサーリンク]

ケムステニュース

反応開発における顕著な功績を表彰する「鈴木章賞」が創設 ―北海道大学化学反応創成研究拠点(ICReDD)―

[スポンサーリンク]

北海道大学化学反応創成研究拠点(ICReDD/アイクレッド)は,同大学名誉教授である鈴木 章先生の卒寿を記念するとともに,2010年ノーベル化学賞受賞の功績を称え「鈴木章賞」を創設しました。 東ソー株式会社からの協賛のもと,ICReDD教授陣から成る鈴木章賞組織委員会により「鈴木章賞 (Akira Suzuki Award)」及び「鈴木章賞 (ICReDD Award)」の2つの賞が設けられ、初代受賞者としてそれぞれ、マサチューセッツ工科大学のStephen L. Buchwald教授とケンブリッジ大学のDavid J. Wales教授が選出されました。 (出典:11月8日北海道大学 化学反応創成研究拠点プレスリリース)

鈴木-宮浦クロスカップリング反応で有名な鈴木 章 北海道大学名誉教授は、有機ホウ素化学の分野で数多くの成果を発表され、2010年にはノーベル化学賞を受賞されました。北海道大学では鈴木名誉教授が卒寿を迎えられたことと、ノーベル化学賞を受賞したことを記念して鈴木章賞を2021年に設立しました。鈴木章賞には、実験化学分野において顕著な業績を収めた研究者を表彰するAkira Suzuki Awardと、計算(理論)化学及び情報科学分野において顕著な業績を収めた研究者を表彰するICReDD Awardがあり、広義の化学反応の発見に関する実験と理論の両面に対して研究者の業績を称える賞となっています。

本賞は組織委員会によって運営され、委員長には北海道大学の澤村 正也教授、副委員長には武次 徹也教授、伊藤 肇教授、佐藤 美洋教授、前田 理教授、小松崎 民樹教授が務められており、化学関連の研究で活躍されている先生方が鈴木章賞を盛り上げています。また産業界から東ソーが協賛という形でバックアップしています。Akira Suzuki AwardとICReDD Awardの選考には別の委員会が組織されており、前述の先生方に加えて国内外の他大学の先生方も委員に名を連ねています。

そして記念すべき初代受賞者には、Stephen L. Buchwald教授(Akira Suzuki Award)とDavid J. Wales教授(ICReDD Award)が選出されました。Buchwald教授は、1982年にハーバード大学にてPh.D.を取得され、カリフォルニア工科大学での博士研究員を経て、1984年よりMITでのキャリアをスタートし、1993年にはMITの教授に就任されました。専門は有機化学で、炭素-炭素結合や炭素-窒素結合の形成を可能にする触媒の創製や,生理活性分子の合成や化学修飾の方法に関する研究を行っています。有名な研究成果としてアリールハライド・アリールトリフラートとアミン・アルコキシド間のパラジウム触媒によるクロスカップリング反応が挙げられ、John F. Hartwigと共に名前を冠してBuchwald-Hartwigクロスカップリングと呼ばれています。

Buchwald-Hartwigクロスカップリング反応

500を超える論文と特許を発表していながらも、今なお精力的に研究を続けられており今年も10報の論文を研究グループでは発表しています。また2000年以降、数多くの有名な賞を受賞しており、特に2020年にはクラリベイト・アナリティクス引用栄誉賞を受賞しているため、ノーベル化学賞受賞も期待されています。

Wales教授は、1988年にケンブリッジ大学にてPh.D.を取得され、いくつかのキャリアを経て、1998年からケンブリッジ大学でのキャリアをスタートし、2008年にはケンブリッジ大学の教授に就任しました。Wales教授は、たんぱく質の折り畳みやクラスター,ガラス転移においてポテンシャル・エネルギーランドスケープにどのようにエンコードされるかについて研究を行っております。モデルの開発を精力的に行われており、ホームページにはたくさんのソフトウェアやデータベースが公開されています。

両教授の研究室ホームページにはすでに鈴木章賞の画像が張り付けられており、受賞を大々的にアピールしています。鈴木章賞の授賞式および受賞講演会は,2022年3月12日と13日にデューク大学で開催される第4回ICReDD国際シンポジウムの中で開催されます。ICReDD国際シンポジウムとしては初の海外開催であり、現地でイベントが開催されることを願います。

ICReDD(Institute for Chemical Reaction Design and Discovery)は,文部科学省国際研究拠点形成促進事業費補助金「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され,2018年10月に北海道大学に設置されました。特徴は、異なる分野の研究者がそれぞれの強みを活かして分野融合型の研究を行っていることで、化学反応を自在に設計することを目標としているそうです。つい最近も計算化学と有機合成を組み合わせた研究結果が複数発表されました。

運営委員会は北海道大学の先生方で構成されていますが、賞の選考には国や大学の垣根を越えて協力があったこと、初代受賞者には海外の研究者が選出されたこと、初代の授賞式は海外で実施する予定であることから、この鈴木章賞を国際的に名誉ある賞にする本気度を感じました。東ソーが協賛されている背景ですが、東ソーではクロスカップリング反応を使った合成について、長きにわたって研究開発と工業化を進めており、2012年には有機合成化学協会賞(技術的)を受賞しています。そのため、本賞のサポートを行っているのかもしれません。この鈴木章賞を設立した理由は、鈴木章名誉教授のノーベル化学賞の功績を長きにわたってアピールするためであることは明らかですが、せっかく設立されたからには、認知度が高くなりノーベル賞にも負けないぐらいの注目を浴びる賞になることを期待します。Buchwald教授、Wales教授、鈴木章賞の初代受賞おめでとうございます。

関連書籍

[amazonjs asin=”B01LG01UQA” locale=”JP” title=”Ligand Design in Metal Chemistry: Reactivity and Catalysis (English Edition)”] [amazonjs asin=”B016MYWQ86″ locale=”JP” title=”Energy Landscapes: Applications to Clusters, Biomolecules and Glasses (Cambridge Molecular Science) (English Edition)”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 木材を簡便に透明化させる技術が開発される
  2. 観客が分泌する化学物質を測定することで映画のレーティングが可能に…
  3. 風力で作る燃料電池
  4. 国際化学五輪、日本代表に新高校3年生4人決定/化学グランプリ20…
  5. お茶の水女子大学と奈良女子大学がタッグを組む!
  6. 豊丘出身、元島さんCMC開発
  7. 分子情報・バイオ2研究センター 九大開設
  8. 傷んだ髪にタウリン…東工大などの研究で修復作用判明

注目情報

ピックアップ記事

  1. 研究倫理を問う入試問題?
  2. リック・ダンハイザー Rick L. Danheiser
  3. アメリカ大学院留学:実験TAと成績評価の裏側
  4. JACSベータ
  5. 2-トリメチルシリル-1,3-ジチアン:1,3-Dithian-2-yltrimethylsilane
  6. 春季ACSMeetingに行ってきました
  7. 2007年度ノーベル医学・生理学賞決定!
  8. 光親和性標識法の新たな分子ツール
  9. アザジラクチン あざじらくちん azadirachtin
  10. デカすぎる置換基が不安定なリンホウ素二重結合を優しく包み込む

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年11月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

第23回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

ペロブスカイト太陽電池開発におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用

持続可能な社会の実現に向けて、太陽電池は太陽光発電における中心的な要素として注目…

有機合成化学協会誌2025年3月号:チェーンウォーキング・カルコゲン結合・有機電解反応・ロタキサン・配位重合

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年3月号がオンラインで公開されています!…

CIPイノベーション共創プログラム「未来の医療を支えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第105春季年会(2025)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「未来の医療…

OIST Science Challenge 2025 に参加しました

2025年3月15日から22日にかけて沖縄科学技術大学院大学 (OIST) にて開催された Scie…

ペーパークラフトで MOFをつくる

第650回のスポットライトリサーチには、化学コミュニケーション賞2024を受賞された、岡山理科大学 …

月岡温泉で硫黄泉の pH の影響について考えてみた 【化学者が行く温泉巡りの旅】

臭い温泉に入りたい! というわけで、硫黄系温泉を巡る旅の後編です。前回の記事では群馬県草津温泉をご紹…

二酸化マンガンの極小ナノサイズ化で次世代電池や触媒の性能を底上げ!

第649回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院環境科学研究科(本間研究室)博士課程後期2年の飯…

日本薬学会第145年会 に参加しよう!

3月27日~29日、福岡国際会議場にて 「日本薬学会第145年会」 が開催されま…

TLC分析がもっと楽に、正確に! ~TLC分析がアナログからデジタルに

薄層クロマトグラフィーは分離手法の一つとして、お金をかけず、安価な方法として現在…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP