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化学エンターテイメント小説第2弾!『猫色ケミストリー』 

ドラフトからフラスコを回収し、溶媒を蒸発させる装置であるエバポレーターにダイレクトにセットした。

スイッチを入れて待つこと五分。溶媒は消失し、フラスコの底に白い結晶が残された。新規触媒、キクチ一号の完成が。ただの粉なのに、なぜこんなに輝いて見えるのだろう。

先週のTV「超再現!ミステリー」にラブ・ケミストリーが登場!の記憶もまだ新しいですが、作者の喜多 喜久さんの第2作「猫色ケミストリー」が4月頭に発売されました。

待望の化学ミステリー第2弾!!

 

ラブケミ出版後のケムステインタビューでの作者の次回作予告通りの作品

次は化学が持つ力、すなわち、「え? そんなモノからそんなヤバいブツが作れるの?」というネタで書くつもりです。おそらく、どこかに構造式(あるいは反応式)が登場するはずです。

イヤイヤ、それどころか反応式が前面に出て、犯人探しの道具になっちゃっています。

あらすじ:主 人公は計算科学専攻の大学院生、菊池くん(対人拒否症)。ある日、学内に落雷があり、その場に居合わせた菊池と野良猫、同級生の女子院生スバルの間で魂の入替りが起 こる、ベタなラブコメ展開。元に戻るために奔走する途中、学内で隠れて覚醒剤が合成されている事に気づく。犯人は誰か?そして二人が元の体に戻る方法は?

 今回も「LC-MS」「キラルHPLC」や「ee」など、我々化学クラスタをワクワクさせる専門用語が盛り沢山です。前作は藤村くんが天才過ぎて(笑)、その存在自体がファンタジーでしたが、本作は普通の院生なので共感が大きいですね。 (因みに「ラブ・ケミストリー」の藤村くんは、学生の噂話として登場し、ニヤリとさせられます)

作中、主人公 菊池くんがスバルに代わって畑違いの実験をする事になります。スバルが菊池に実験の意義を説明し、実験操作を指導するので、とても細かな実験描写がされています。実験と薬品と猫、それが謎解きの伏線になっていきます。(ついでに、初学者への説明がとても丁寧で勉強になりました。)

化学を軸とした、フェアな謎解きミステリー。これぞ化学エンターテイメント小説!!人それぞれ好みはあるでしょうが、私の中では、完全に「ラブ・ケミストリー」を超えましたね。

 

考えさせられた

猫色ケミストリー.gif

覚せい剤を隠れて合成している犯人を捜すのがストーリーの1つの軸です。読後の個人書評は「これを読んで化学者の印象が悪くなったり、規制が厳しくなったら嫌だなぁ」と書きました。また、他の方も「ストーリー上仕方ないが、覚せい剤の話なので、人に薦めるのをちょっと躊躇してしまいます」と書いていました。

 

事実、我々化学者には、法律で規制されるような危ない物質を合成する能力があります。古くから知られるドラッグには単純な構造の物が多く、その合成法も簡単に調査する事ができます。

『だってさ、有機化学は地球ができる前から、世界のルールの1つだったんだよ。法律が合成の難易度を決めてるわけじゃないよ』

組織のリスクマネジメントとして、法律をはじめとして種々のルールが設定されています。しかし、悪意を持って事を成そうとすれば、その抜け道はきっと見つかるのでしょう。事件の舞台は狭い教室ですが、隠れて覚せい剤合成をしているのが誰かなかなか解りません。また、合成されていた物は覚せい剤ではなくその類似品、法律に抵触しない脱法ドラッグでした。 法律上認められても社会的に認められない事は許されません。本作中でも、主人公らの推理により犯人は暴かれ、裁きと許しを受けます。

我々の持っている科学の知識・技術は何のためにあるのか?私の敬愛する湯川准教授(ガリレオ先生)は言っています。(実際には言ってませんが)

「科学を殺人の道具に使う人間は許さない」

殺人は行われていませんが同じこと。もし、悪意をもって化学の知識・技術を使う者が現れるならば、善意ある化学者の全力をもって阻止される事でしょう。

 

一方、悪意をもっていないからこそ忘れがちですが、多くの有機化学者は「生理活性物質の合成」を研究ターゲットにしていて、それは毒だったり薬だったりします。毒も薬も鏡の表裏、我々の研究ターゲットは強い生体作用を示す物質で取り扱いには充分注意が必要ですし、各工程に用いる強力な反応剤は生体細胞とも反応し毒性を示します。

『うーん、なんだか有機化学を知ってるって、すごく危険なことだったんだって思えてきた』

研究者はその知識と技術で、意識せずとも「本来は危険な物を、危険の無いように取り扱う」ことができているのです。毎日どっぷり浸かった日常だから忘れがちですが、本来は危険が隣り合わせである事をもう一度意識し、自分と周りの安全に努めようと再認識しました。

作品のエンターテイメントとともに、化学者の良心・コンプライアンス・自分が化学者である意義を改めて考えることになり、とても有意義な読書となりました。作者に感謝です!

 

気になる次回作は?

さて、気が早いと怒られそうですが次回作はいつごろ?…なんと、『ラブケミ』『猫色』に続く喜多氏の第3弾も、すでに原稿が完成している!という情報です。次作はあっと驚く時間ループものという事で、楽しく想像を膨らましつつ出版を待つこととしましょう。

 

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