[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

iBooksで有機合成化学を学ぶ:The Portable Chemist’s Consultant

[スポンサーリンク]

 ibookstoreが日本解禁になり、益々盛り上がっている電子書籍市場。化学系の日本語書籍もそろそろ登場かなあと思っています。一方で、本場米国のサイトでは既に多数の化学系書籍が出版されていてなかなか人気のご様子。

ふと、合成化学界の風雲児Phil Baran(以下フィル)が最近はじめたブログ、「Open Flask」を覗いてみると、こんな記事が。→The Portable Chemist’s Consultant

なんと丁度その日フィルが化学のiPad用電子書籍を出版したと。これはびっくりし、早速購入を、と思ったのですが、当日は残念ながら米国以外からは購入できず。ぜひ欲しかったので、すぐに本人に問い合わせたところ(実は同記事の質問のところに回答がありましたが)3秒で

「ちょっと待って!来週になったら日本でも購入できるよ

との答えが。

そして、先日(4月10日)にようやく購入できるようになったようで、フィルからタダでダウンロードできるフリーコード*が送られてきました。そこで早速、さきほど普段はあまり使用していないiPad(二代目)に入れてみました!

*といいつつ、売上に貢献してあげようとわざわざ購入したんですけどね。

どんな本?

書籍は、前述したブログ記事のタイトルと同様の The Portable Chemist’s Consultant 。 価格は39.99ドル(およそ4000円)。アベノミクスのおかげで円安となっている今日では少々お高く思えますがそれは愛嬌。

内容は複素環化学(Heterocyclic Chemistry)。Philがスクリプス研究所で毎年大学院の授業で行なっているものをまとめたもののようです。大学院の授業といっても侮るやなかれ、非常にハイレベルです。筆者は博士研究員として同研究所のBaran研究室にいたので、実際の授業にも参加したことはありますが大変参考になりました。幸いにも筆者は帰国後ヘテロ芳香環をメインにした合成化学の研究を行なっているので、現所属に着任した時にそれをもとに一生懸命勉強したものです。当時はさくさく答えてしまう、大学院生達に度肝を抜かれた記憶があります(全員ではないですが)。

ページ数は全400ページ以上!しかしながら、実はピリジンとピロールそしてインドールしかありません。ほとんどの医薬品に含まれる含窒素ヘテロ芳香環のみを対象にしたのかなと思ったのですが、聞くところによるとまだ完成していないとのこと。今後随時更新を重ねてタイトル通りの本にしたいと。

 

「おいおい、中途半端な状態で出したのかよ!」とおもわれる方もいるかもしれませんが、それが電子書籍のよいところ。間違いがあればアップデートで訂正されますし、どんどん最新の情報が追加されます。すなわち、通常の書籍ではホットな話題ほど1,2年立てば古い話題になってしまうところを、常に新しい状態で保てるのです。しかも本人曰く、今後のアップデートはすべて無料で行なっていくとのこと。これは手に入れないわけにはいきません。

 

fischer_book.png

誰が書いているの?

知らない人もいると思いますのでちょっと解説。先程から名前がでているPhil Baran(35さい)は有機合成化学界では数十年に一人ともいわれるライジングスター。自分の元ボスのことをあんまり褒めるのもなんですが、コンスタントに驚異的で斬新な合成化学手法を編み出しているいろいろな意味で”パワフルな化学者”です(関連記事参照)。

その他の著者はYoshihiro Ishihara, Ana Monteroです。Ishiharaは石原義大博士(ニックネーム:Yoshi)でなんと日本人(正確にはカナダ人です)!Baran研で昨年Ph.D を取得し、少しだけポスドクをしてから製薬会社に就職予定。圧倒的な賢さと文章力で、Baran研究室の文章ごとを一手に引き受けています。もちろん研究もすばらしく、ファーストオーサーではないですが、Nature(直接的フルオロアルキル化反応)とNature Chemistry(Taxane類の合成)を出しています。そういう筆者も彼にはお世話になっていて、化学や英語はもちろん日本語もフランス語もできるので、この総説を書いた時など英文ついでに化学も添削してもらいました。日本に来たときは必ず一緒に飲みにいきます。

第二著者はフィルの奥さん。彼女もスクリプス研究所で博士研究員として働いていた化学者です。Yoshiから複素環化学の本を書いているときいてましたが、まさかi-booksで出版するとは思いませんでした。

 

preface.png

前書き

 

中身はどんな感じ?

購入後ダウンロードして、書籍を開いていみると、とっても電子書籍らしいつくりとなっていました。ところで、このフォーマットどこかでみたことありませんか?気づいた人は比較的有機化学マニアですね。答えはそう人名反応の書籍で最も売れているStrategic Applications of Named Reactions in Organic Synthesis (日本語版:人名反応に学ぶ有機合成戦略) のフォーマットを使っているのです。ヘテロ環の基本的なところから、最新の結果まで網羅されています。面白いのは各所にみられる、動画。フィルの実際の授業が使われてるんですね。彼の授業は静かなクラシック音楽をかけながら、テンポよく進んでいきます。英語の勉強にもおすすめです。

 

 

philclass.png

下記のような反応性をまとめたシートもついています。勿論リファレンスにもハイパーリンクで簡単アクセス。通常の電子書籍と同じようにしおり機能やインデックスからのアクセスは簡単です。

 

reportcardpyridine.png

 

なにはともあれ、サンプルもありますので是非ダウンロードしてみてはいかがでしょうか。ダウンロードはこちら→The Portable Chemist’s Consultant

 

Avatar photo

webmaster

投稿者の記事一覧

Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 配位子だけじゃない!触媒になるホスフィン
  2. MOFはイオンのふるい~リチウム-硫黄電池への応用事例~
  3. 研究者向けプロフィールサービス徹底比較!
  4. 触媒でヒドロチオ化反応の位置選択性を制御する
  5. ホウ素ーホウ素三重結合を評価する
  6. オキソニウムイオンからの最長の炭素酸素間結合
  7. 第54回複素環化学討論会 @ 東京大学
  8. リン–リン単結合を有する化合物のアルケンに対する1,2-付加反応…

注目情報

ピックアップ記事

  1. カリフォルニア大学バークレー校・化学科への学部交換留学
  2. ヌノ・マウリド Nuno Maulide
  3. 医薬品への新しい合成ルートの開拓 〜協働的な触媒作用を活用〜
  4. 細胞同士の相互作用を1細胞解析するための光反応性表面を開発
  5. ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthesis
  6. 科学を伝える-サイエンスコミュニケーターのお仕事-梅村綾子さん
  7. ブライアン・ストルツ Brian M. Stoltz
  8. 市販の化合物からナノグラフェンライブラリを構築 〜新反応によりナノグラフェンの多様性指向型合成が可能に〜
  9. パーソナル有機合成装置 EasyMax 402 をデモしてみた
  10. 創薬懇話会2025 in 大津

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2013年4月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

第42回メディシナルケミストリーシンポジウム

テーマAI×創薬 無限能可能性!? ノーベル賞研究が拓く創薬の未来を探る…

山口 潤一郎 Junichiro Yamaguchi

山口潤一郎(やまぐちじゅんいちろう、1979年1月4日–)は日本の有機化学者である。早稲田大学教授 …

ナノグラフェンの高速水素化に成功!メカノケミカル法を用いた芳香環の水素化

第660回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院理学研究科(有機化学研究室)博士後期課程3年の…

第32回光学活性化合物シンポジウム

第32回光学活性化合物シンポジウムのご案内光学活性化合物の合成および機能創出に関する研究で顕著な…

位置・立体選択的に糖を重水素化するフロー合成法を確立 ― Ru/C触媒カートリッジで150時間以上の連続運転を実証 ―

第 659回のスポットライトリサーチは、岐阜薬科大学大学院 アドバンストケミストリー…

【JAICI Science Dictionary Pro (JSD Pro)】CAS SciFinder®と一緒に活用したいサイエンス辞書サービス

ケムステ読者の皆様には、CAS が提供する科学情報検索ツール CAS SciFind…

有機合成化学協会誌2025年5月号:特集号 有機合成化学の力量を活かした構造有機化学のフロンティア

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年5月号がオンラインで公開されています!…

ジョセップ・コルネラ Josep Cornella

ジョセップ・コルネラ(Josep Cornella、1985年2月2日–)はスペイン出身の有機・無機…

電気化学と数理モデルを活用して、複雑な酵素反応の解析に成功

第658回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 農学研究科(生体機能化学研究室)修士2年の市川…

ティム ニューハウス Timothy R. Newhouse

ティモシー・ニューハウス(Timothy R. Newhouse、19xx年xx月x日–)はアメリカ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP