[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

イミンを求核剤として反応させる触媒反応

[スポンサーリンク]

 

極性変換(Umpolung)はその名の通り、プラス(+)をマイナス(–)に、マイナスをプラスに変えることをいいます。有機反応化学では、マイナス(求核剤)が一般的にプラス(求電子剤)に攻撃するため、もしプラスとマイナスの関係を逆にすることができれば、理論的にはお互いの可能性を倍増させることができます。

例えば、ハロゲン化アルキル(R–X)は求電子剤ですが、マグネシウムを作用させるとグリニャール反応剤(R–Mg–X)となり、求核剤へと”変身”します。ケトンなどのカルボニル化合物は、求電子剤ですが、ジチアンとすると、求核剤としての性質をもたせることができます。

これらは化学量論量以上の試薬(マグネシウム、ジチオール)が必要ですが、触媒的に行うとなると、代表的なものはStetter反応。通常、求電子剤であるアルデヒドに、触媒量のN-アルキルチアゾリウム塩を作用させると電子不足オレフィンなどに攻撃する反応、すなわちアシル基が求核的に働きます。数多くの不斉触媒反応も報告されており、かなり汎用性の高い反応です。

では、イミンではいかがでしょうか。アルデヒドがアミンと反応した形ですので、これも既にたくさんの報告があるかとおもいきや、実は分子内反応の限定的なもの、分子間反応であっても、イミン同士がカップリングしたいわゆるイミンのベンゾイン縮合型しか報告がありませんでした[1]。

しかし最近、アメリカBrandeis大学のDengらは、初めてイミンを極性転換させる相間移動触媒の開発に成功したのです(図 1)。触媒存在下、塩基性条件でイミンに求電子剤を作用させると、高ジアステレオ、高エナンチオ選択的にC–C結合が形成されます。

2015-10-04_07-41-31

図1 イミンの極性転換の概念図

“Catalytic asymmetric umpolung reactions of imines”
Wu, Y.; Hu, L.; Li, Z.; Deng, L.;Nature 2015, 523, 445. DOI: 10.1038/nature14617

 

では今回は本反応について簡単に紹介しましょう。

 

どうやってイミンを極性転換させる?

Dengらは、2012年にイミン1にシンコナアルカロイド系の有機分子触媒C-1を作用させると、[1,3]-水素転位によって4が生成することを発見していました(図 2a)[2]。この転位反応が2-アザアリルアニオン3を経由して進行すると仮定し、プロトンの代わりに求電子剤(電子不足オレフィン)を化学選択的に付加させることができればイミンが求核的にオレフィンに付加した6が得られると考えました(図2b)。

2015-10-04_07-42-04

図2 イミンの触媒的な極性転換反応の設計

イミンの電子不足オレフィンへの付加反応

Dengらは、水素アクセプターであるビシクロオクタン骨格中の窒素に置換基を導入することで、相間移動触媒にするとともに、化学選択性の増大を図りました。その置換基を種々検討したところ、化学選択性、ジアステレオ選択性、エナンチオ選択性および収率の向上には、置換基の特徴として1) 嵩高くコンフォメーションの自由度が低いこと2) 電子豊富な芳香環であることが重要でした(図 2a)。最もよい触媒はC-2で、実際、イミンと、電子不足オレフィンとしてクロトンアルデヒド、触媒量の水酸化カリウムを用いてトルエン中室温で撹拌すると、イミンがオレフィンに付加した目的の生成物が高ジアステレオ・エナンチオ選択的に得られることがわかりました。反応は0.01 mol%の触媒量でも進行し、グラムスケールの反応にも適用可能でした(図 2b)。アルドイミンを基質とした場合では、TBS基をもつC-2よりもt-Bu基をもつC-3の方が効率良く反応が進行します(図 2a, 2c)。イミンの置換基R′がアレーンやアルケニルのような立体的に嵩高い置換基であっても、高いエナンチオ選択性を保持して反応が進行することから、本触媒の基質適用性の広さを伺うことができます。

2015-10-04_07-42-49

図3 開発した触媒によるイミンの極性転換反応 a: 触媒の構造式 b: グラムスケールでの反応と生成物の誘導化 c: 基質適用範囲の検証

 

言うまでもないですが、キラル中心にアミンが結合した化合物は、自然界においてはペプチド、医薬品においてはサブリル(抗てんかん剤)やレナリドミド(多発性骨髄腫の治療) をはじめ多く存在しています[3]。これまで、イミンを求電子剤として使ってきた反応は数多く存在しますが(Mannich反応、ストレッカーアミノ酸合成、フォルスター・デッカー アミン合成、ウギ反応 など)、今回のように極性転換を行い求核剤としてもちいることができれば、化合物の合成戦略の幅も広がりますね。以上、今回の紹介した反応はイミンを求核剤として用いる第一歩を踏み出したもので、今後の進展を楽しみにしたいと思います。

 

関連文献

  1. (a) Reich, B. J. E.; Justice, A. K.; Beckstead, B. T.; Reibenspies, J. H.; Miller, S. A.; J. Org. Chem. 2004, 69, 1357. DOI: 10.1021/jo035245j (b) Ogle, J. W.; Zhang, J.; Reibenspies, J. H.; Abboud, K. A.; Miller, S. A.;Org. Lett. 2008, 10, 3677. DOI: 10.1021/ol8012765 (c)  Liu, X.; Gao, A.; Ding, L.; Xu, J.; Zhao, B.;Org. Lett. 2014, 16, 2118. DOI: 10.1021/ol500522d (d) Matsumoto, M.; Harada, M.; Yamashita, Y.; Kobayashi, S.;Chem Commun 2014, 50, 13041. DOI: 10.1039/C4CC06156J
  2. Wu, Y.; Deng, L. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 14334. DOI: 10.1021/ja306771n

 

関連書籍

[amazonjs asin=”3843368511″ locale=”JP” title=”Asymmetric Transition Metal-Catalysed Alkyl Addition to Imines”]

 

Avatar photo

bona

投稿者の記事一覧

愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 大気下でもホールと電子の双方を伝導可能な新しい分子性半導体材料
  2. Google翻訳の精度が飛躍的に向上!~その活用法を考える~
  3. 有機化学クロスワードパズル
  4. ベンゼンの直接アルキル化
  5. 温故知新ケミストリー:シクロプロペニルカチオンを活用した有機合成…
  6. シャープな蛍光色変化を示すメカノフォアの開発
  7. ぼくらを苦しめる「MUST (NOT)」の呪縛
  8. MOF 内の水分子吸着過程の解析とそれに基づく水蒸気捕集技術の向…

注目情報

ピックアップ記事

  1. ノーベル賞受賞者と語り合おう!「第16回HOPEミーティング」参加者募集!
  2. 最新プリント配線板技術ロードマップセミナー開催発表!
  3. カラムはオープン?フラッシュ?それとも??
  4. シュミット グリコシル化反応 Schmidt Glycosylation
  5. キラルアミンを一度に判別!高分子認識能を有するPd錯体
  6. ホフマン転位 Hofmann Rearrangement
  7. トンボ手本にUV対策 産総研など 分泌物の主成分を解明
  8. 親子で楽しめる化学映像集 その1
  9. ナノチューブブラシ!?
  10. イリジウム錯体:Iridium-complex

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年10月
月 火 水 木 金 土 日
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

光前駆体法の活用によって、ヘプタセンで初の一重項分裂を観測!

第725回のスポットライトリサーチは、京都大学大学院 理学研究科化学専攻 有機元素化学研究室(山田研…

【スタッフ・寄稿募集】Chem-Stationで、化学を「伝える側」になりませんか?

Chem-Station(ケムステ)は2000年に開設された国内最大の化学ポータルサイトです。大学・…

第17回大津会議―とある参加者の記録―

2026年9月28日~29日に開催された第17回大津会議についての、とある参加者の記録です。この記事…

第17回大津会議 -Otsu Conference- 2026 開催報告 ~新体制で紡ぐ「有機合成の夢」~

第17回大津会議が2026年9月28日(月)〜9月29日(火)びわ湖大津プリンスホテルにて開催されま…

有機合成化学協会誌2026年10月号:医薬品プロセス開発・σ芳香族性・含窒素複素環・メロテルペノイド二量体・高歪み化合物

有機合成化学協会が発行する「有機合成化学協会誌」2026年10月号がオンラインで公開されています。…

時代は水だ! セメントのように水と混ぜるだけで成形・硬化できる「水硬性」高分子

第724回のスポットライトリサーチは、東京科学大学物質理工学院(大塚研究室)博士前期課程2年の徳満玲…

複雑さを設計して、結晶の動きをプログラムする

第723回のスポットライトリサーチは、高知工科大学大学院工学研究科(林研究室) 博士後期課程3年の樋…

ハロゲンの力で強力な結合を切断!天然物クマリンから医薬品・機能性材料原料のクマラノン類へ

第 722 回のスポットライトリサーチは、立命館大学大学院薬学研究科薬学専攻 精密合…

観察を写真で残す!カメラ内蔵リアクタ EasyMax 102i を使ってみた

反応の温度も、攪拌(かくはん)も、滴下も、サンプリングもいまや自動で記録される時代になりました。とこ…

ケムステ人気新着記事 トップ 5【2026年9月版】

2026年9月にケムステでは21本の新しい記事を公開しました。この記事では、その新着記事の中から、ペ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP