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日本人化学者インタビュー

第56回「複合ナノ材料の新機能を時間分解分光で拓く」小林洋一 准教授

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第56回目の研究者へのインタビューは立命館大学の小林洋一 先生にお願いいたしました。

小林先生は一貫して光物理化学、特に「時間分解分光」に重点を置きながら、有機分子・無機材料をとわず新しい光機能を理解・開拓し、そこから新たな材料を開発できないかという指針で研究を進めておられます。

2017年より現職で独立した研究室を主宰され、2022年にはさきがけ研究者にも採択された、まさに新進気鋭の若手研究者の一人です。第32回ケムステVシンポでもご講演を頂くことになっています。

それでは今回も、インタビューをご覧ください!

Q. あなたが化学者になった理由は?

新しい知見を見出すことへのワクワク感、自分の思った通りになったときや、思わぬものを見つけたときの感動かなと思います。
明確に意識していませんでしたが、小さな頃から「ハカセ」や「研究」というものに憧れはありました。高校のとき、状態を運動方程式として記述し、それを解くと物体の動きを正確に予測できることを学んだとき、「未来を予知できる、作り出せる可能性」に見え、非常に感動しました。その後、大学受験に失敗して予備校生をしていたとき、サイエンス(自然科学)を学ぶ面白さに目覚めました。科学を知ること・学ぶことの面白さにはまったこと、また化学はセンター・オブ・サイエンスであるとどこかの本か何かで知ったことから、予備校生のときにはもう自分は化学者になると決めていました。
しかし実際には、化学者は学問をただ学ぶだけではなく、実験などを通じて学問を新たに創らないといけません。大学院生のときには一時、自分は学者に向いていないのではないか、これを本当に一生の仕事にしてよいのか、などと悩むこともありました。そんなあるとき、予想外の実験結果が得られ、プロットの仕方を工夫していると、思いもしなかった二つのパラメータにきれいな直線関係があることを見つけました。この当時はなぜそうなるかはわからなかったのですが、複雑な自然現象に新たな法則を見つけ出したような気がし、震える感動を覚えました。その後、学会で偶然知り合った理論化学者の方がこの相関を理論的に証明してくださり(J. Phys. Chem. Lett. 2014, 5, 99.)、自分で考え、やってみることへの自信に繋がりました。このような「学ぶこと」や「見出すこと」への楽しさ、ワクワク感、感動が今の自分に繋がっていると思います。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

ロボットのエンジニアでしょうか。プログラミングを学んだとき、自分専属のアシスタントが一人増えた!と非常に感動したのを覚えています。ロボットエンジニアを選んだ理由は、プログラミングと装置構築を通じてソフトとハードを連携し、人にはできない複雑且つ大量の操作を自在にできるので、何か新しい可能性が見えてきそうでワクワクするためです。こうやって書いていると、自分でやらないにせよ、今後こういう連携研究をやっている気がしてきました。

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

数十フェムト秒(1フェムト秒は10−15秒)から秒、分までの幅広い「時間分解分光(短い時間しか存在しない物質を分光分析する手法)」を基盤として、光物理過程(電子状態の変化)と光化学過程(化学構造変化)の境界領域(及び複合領域)に潜む新奇光機能の探索、およびその知見を活かした新材料創成を目指した研究を行っています。
具体例を挙げると、秒から分オーダーの超長寿命電荷分離状態を用いた半導体ナノ結晶の高速フォトクロミズム、従来活用できないとされてきた高励起状態を高活用できる光機能材料の創出などがあります。

長寿命電荷分離状態を用いた半導体ナノ結晶のフォトクロミズム

最近では、エネルギーの低い連続光を用いて、炭素-フッ素結合のような強靭な化学結合を解離できるナノ材料も見出しています。自身の物理化学的な基盤技術を用いて世界の環境問題にタックルし、ひいては持続可能な開発目標の達成に貢献できる研究に展開できればと考えます。

Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

Niels Bohr先生 です。前期量子論の構築過程について、生の話を聞きたいです。特に、ボーアの原子模型に必要な仮定にどうたどり着いたのか、原子模型を批判する様々な物理学者らをどう説得したかなどについて、詳しく聞きたいです。モデルの根幹をなす仮定を無条件に設定することは、物理学者にとってきっと大きな葛藤があったことと思います。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

物質合成はほとんどできないのですが、やったとすれば、2020年前期にコロナ禍で大学がロックダウンしたとき、一人でペリレンビスイミド誘導体を合成しようとした頃が最後でしょうか。途中で挫折してしまいましたが…装置の構築、分光計測、データ解析などは今でも現役です。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

存分に時間があると思うので、物理の基礎を勉強しなおしたいと思います。一冊で網羅できる本はあまりないので、『ファインマン物理学』のボックスセット(一冊としてカウントしたい)がいいかもしれません。でも式を書くための紙やペンもほしくなりますね・・・

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音楽好きなのですごく迷いますが、Rage Against the Machineの『Battle of Los Angeles』を持っていきたいと思います。パワフルで超絶テンションが上がるので、そのテンションで砂漠の島での生活を楽しく乗り切っていきたいです。

Battle of Los Angeles

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Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

同世代で、パワフル、且つ研究、人物共におもしろいお二方を推薦します。

仁科勇太(岡山大)

野々口 斐之(京都工芸繊維大学)

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研究者の略歴

名前:小林 洋一

所属:立命館大学 生命科学部 応用化学科 准教授

専門: 光化学、時間分解分光、機能物質化学、ナノ材料化学

略歴:
2002 私立 滝高校 卒業
2007 関西学院大学 理工学部 化学科 卒業
2009 同大学大学院 理工学研究科 化学専攻 博士課程前期課程 修了(玉井尚登 研究室)
2011 同大学院 同学科 同専攻 博士課程後期課程 修了(早期)(玉井尚登 研究室)
2011 トロント大学 JSPS海外特別研究員(Gregory D. Scholes 研究室)
2013 青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 助教(阿部 二朗 研究室)
2017- 立命館大学 生命科学部 応用化学科 准教授
2022- JST さきがけ研究者「持続可能な材料設計に向けた確実な結合とやさしい分解」領域(兼任)

*本インタビューは20XX年X月XX日に行われたものです

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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