[スポンサーリンク]

ディスカッション

フライパンの空焚きで有毒ガス発生!?

[スポンサーリンク]

 

フッ素樹脂加工のフライパンは、焦げ付きにくく大変便利なフライパンです。しかし、空焚きをすると有毒なガスが発生するということが広まり始めているようです。実際はどうなのでしょうか。

 

巷を賑わしているきっかけ

5月25日の『あさイチ』(NHK)でフライパン特集が放映されましたが、フッ素樹脂加工されたものは「加熱しすぎると有害な蒸気(ガス)が発生する」と紹介され、ツイッター上では視聴者から「小鳥なら死ぬ」なんて声があがりさらにさらにざわつくことに。(引用:ガジェット通信5月26日)

このように、フライパンの空焚きはとても危険な印象を記事から受けます。空焚きを避けるべきと記載していますが、洗いたてのフライパンは濡れていて油を注ぐことができないので少しは空焚きをする必要があります。また、筆者は独身なので少ない量でフライパンを使わなくてはなりません。

 

フッ素樹脂とは

そもそもフッ素樹脂とはフッ素を含むオレフィンの重合物であり、耐熱性耐薬品性が高く、有機合成実験では多くの器具がフッ素樹脂で作られています。テフロンは、デュポン社のフッ素樹脂類の商標であり、その他にもたくさんのフッ素樹脂の商標があり、①フッ素の含有率(フッ素のみが結合しているか水素も含まれているか)②分子構造の違い(直鎖だけか枝分かれしているか)③形状(オイルかゴムなど)など様々な違いがあります。

mono40468696-150115-02

お馴染みの回転子

神奈川県によるフライパンの加熱実験

先ほどの記事では神奈川県の実験結果を紹介しており、それが非常にインパクトがあるように見えます。神奈川県の内容を要約すると、フッ素樹脂(テフロン)加工したフライパンを単純に温めてガスの発生を目視、GC-MSなどで確認したそうです。その結果、下記のようなガスが発生したと報告しています。

untitled

そして、人体の影響を下記のように記してあります。

No. 発生したガスの名称 ガスの性質 人への影響の恐れ (出典)
1 テトラフルオロエチレン 無色、無臭 呼吸困難 (CAS)
2 ヘキサフルオロプロペン 無色、無臭 めまい、窒息 (CAS)
3 プロペン 無色、微石油臭 眠気、めまい (CAS)
4 クロロメタン 無色、微芳香臭 吐気、頭痛 (CAS)
5 ブテン 無色、無臭 眠気、めまい (MSDS)

これらの結果と調査結果について、下記のような問題があると私は考えます。

  • クロロメタンが発生しているが、塩素を含むガスがフッ素樹脂から発生するとは考えられず、フッ素樹脂以外から発生していると考えられる。
  • 定性的な情報のみで定量的な議論がない。
  • 人への影響を記した表がMSDSの情報を写していて、フライパンから発生した程度のガスを吸引するとめまいなどの影響が確実に出るように見える。

このように、科学的な議論が足りない結果であり、フッ素樹脂加工をこの結果からだけでは悪者にすることはできないと思います。

 

旭硝子によるフッ素樹脂の燃焼実験

フッ素樹脂製造の大手、旭硝子ではエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体の燃焼ガスの分析に関する論文を公開しています。実験を要約するとフッ素樹脂のフィルムを750℃で燃焼し、発生したフッ化水素と有機物を定量しています。結果、試料1g 当たり 約570mgのフッ化水素が発生し、5L テドラーバック中に1 ppm以下の有機系ガスが発生したと報告しています。ガス種としては、ペンタフロロプロピレン(例:CF3CF=CHF)、テトラフロロプロピレン(例: CF3CF=CH2、CF3CH=CHF)、トリフロロプロピレ ン(例:CF3CH=CH2)などが同定されたそうです。

フライパンを空焚きするような低温では、フッ化水素よりも有機ガスがより発生すると考え、仮にフッ化水素と同等の量のテトラフルオロエチレンが発生したとすると、5L テドラーバック中に7.4 ppmのガスが発生すると計算できます。テトラフルオロエチレンのTLV-TWA値2 ppmなので、7.4 ppmは若干高いものの、家庭のキッチンは5 Lよりもとても広く、換気扇もあるため、空焚きし続けてもガスの人体への暴露量はより7.4 ppmよりもずっと低いと考えられます。

 

フッ素樹脂のフライパンは危険なのか?

旭硝子の実験を参考にし、長時間の空焚きを避ければ問題ないと私は考えます。もちろん、人体は非常に敏感で人によっては、影響が出るリスクもあります。リスクという観点から見れば、

  • 有機ガス発生の健康被害のリスクを負ってフッ素樹脂のフライパンを使う
  • 空焚きをせず、フライパンの水分による油はねのやけどのリスクを負ってフッ素樹脂のフライパンを使う
  • フッ素樹脂のフライパンを使わず、焦げたものを食べ続け、ガンになるリスクを負う。

もちろん、どのリスクもいくらでも対策はあるので、上記のようなリスクは非常に低いと考えられます。そのため、フッ素樹脂の空焚きのリスクだけを過剰に気にするべきではないと私は考えます。

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4526068942″ locale=”JP” title=”トコトンやさしいフッ素の本 (今日からモノ知りシリーズ)”][amazonjs asin=”4621084445″ locale=”JP” title=”プラスチック分析 入門”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. アラインをパズルのピースのように繋げる!
  2. 再生医療ーChemical Times特集より
  3. ポンコツ博士の海外奮闘録XVII~博士,おうちを去る~
  4. ウレエートを強塩基性官能基として利用したキラルブレンステッド塩基…
  5. 2023年ノーベル化学賞ケムステ予想当選者発表!
  6. 第21回次世代を担う有機化学シンポジウム
  7. 分子形状初期化法「T・レックス」の実現~いつでもどこでも誰でも狙…
  8. ポンコツ博士の海外奮闘録⑤ 〜博士,アメ飯を食す。バーガー編〜

注目情報

ピックアップ記事

  1. ポリマーを進化させる!機能性モノマーの力
  2. 内部アルコキシ効果 Inside Alkoxy Effect
  3. ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2020年版】
  4. 日本精化ってどんな会社?
  5. 離れた場所で互いを認識:新たなタイプの人工塩基対の開発
  6. ノーベル化学賞への道公開
  7. ChemDrawの使い方【作図編①:反応スキーム】
  8. セメントから超電導物質 絶縁体のはずなのに
  9. 【技術者・事業担当者向け】 マイクロ波による化学プロセス革新 〜マイクロ波が得意とするプロセスはコレだ!〜
  10. 研究室でDIY!~エバポ用真空制御装置をつくろう~ ③

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年6月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  

注目情報

最新記事

準備や実験操作が簡便な芳香環へのカルボラン導入法の開発

第 696回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院工学研究科 応用化学専攻 有機…

第 19 回 日本化学連合シンポジウム 「モビリティを支える化学」

開催趣旨人や物の移動を支えるモビリティは、持続可能で安全な社会の実現に不可欠な基…

CERNでは、なぜKNFのダイアフラムポンプを採用しているでしょうか―それは、粒子衝突実験のためにコン タミネーションの無い混合ガスを保証できるから

スイスとフランスをまたぐように設けられたCERNは、さまざまな円形および線形粒子加速器を運用して…

設定温度と系内の実温度のお話【プロセス化学者のつぶやき】

今回は設定温度と系内実温度の違いについて取り上げたいと思います。これは分野としてはプロセス化学に…

Carl Boschの人生 その12

Tshozoです。前回の続きをいきます。ここまでは第一次世界大戦がはじまる前のBoschたちの華…

逆方向へのペプチド伸長!? マラリアに効く環状テトラペプチド天然物の全合成

第695回のスポットライトリサーチは、北里大学大学院感染制御科学府(生物有機化学研究室)博士後期課程…

MOF の単一金属サイトで2分子の CO が “協働的” に吸着

金属–有機構造体(MOF)における金属サイトにおいて複数のガスが逐次的に吸着する際に、シグモイド型の…

令和7年度KISTEC教育講座 〜物質の付着はコントロールできる〜中間水を活かした材料・表面・デバイス設計

1 開講期間令和8年3月9日(月)、10日(火)2 コースのねらい、特色 本講座では、材…

リサイクル・アップサイクルが可能な植物由来の可分解性高分子の開発

第694回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院理工学府(跡部・信田研究室)卒業生の瀬古達矢…

第24回次世代を担う有機化学シンポジウム

「若手研究者が口頭発表する機会や自由闊達にディスカッションする場を増やし、若手の研究活動をエンカレッ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP