[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

フラーレンの単官能基化

[スポンサーリンク]

“Rh-Catalyzed Arylation and Alkenylation of C60Using Organoboron Compounds”
Nambo, M.; Noyori, R.; Itami, K. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 8080. DOI:10.1021/ja073042x

 

フラーレンはナノテクの主役。研究材料から実用まで、今やあらゆる領域で用いられるようになっています。ただ、そのままだと有機溶媒への溶解性が悪く、使い勝手もよくありません。扱いやすくするために、化学修飾をしてやる必要があります。とはいえ、実用的なフラーレンの官能基化法というのは、実は限られています。

今回、名大・伊丹健一郎らは、ロジウム触媒による有機ホウ素付加反応をフラーレンの単官能基化に応用しました。

フラーレン官能基化法としてよく用いられるのはPrato法[1]というアゾメチンイリドの[2+3]双極子付加を用いる手法、およびBingel法[2]と呼ばれるブロモマロン酸エステルの付加です。また、フラーレンの電子受容性を利用し、有機金属試薬を求核付加させる方法もあります。東大の中村栄一教授らによって開発された、銅アート試薬を用いる位置選択的官能基化法[3]も大変強力な手法です。

e_nakamura_4

今回伊丹らによって開発された手法は収率は中程度ながらも、冒頭スキームの条件にて単官能基化フラーレンが様々に作れます。鈴木-宮浦カップリングが広まるにつれ、今では様々な有機ボロン酸が市販されるようになっていますので、試薬の入手容易さという点でも本法はメリットがありそうです。

 

応用性の高い強力な合成反応を一つ開発できれば、その後の機能性物質開発は飛躍的に加速されます。この触媒反応を用いて今後どのようなナノテクノロジーが切り開かれていくのか、注目していきたいところです。

 

関連文献

[1] Maggini, M.; Scorrano, G.; Prato, M.J. Am. Chem. Soc.1993,115, 9798. DOI:10.1021/ja00074a056
[2] Bingel, C.Chem. Ber.1993,126, 1957.
[3] Sawamura, M.; Iikura, H.; Nakamura, E.J. Am. Chem. Soc.1996,118, 12850. DOI:10.1021/ja962681x

 

関連リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 創薬懇話会2025 in 大津
  2. 目指せ!! SciFinderマイスター
  3. 高分子化学をふまえて「神経のような動きをする」電子素子をつくる
  4. 金ナノクラスター表面の自己組織化単分子膜を利用したテトラセンの高…
  5. 唾液でHIV検査が可能に!? 1 attoモル以下の超高感度抗体…
  6. ポンコツ博士の海外奮闘録XIV ~博士,釣りをする~
  7. ゴジラの強さを科学的に証明!? ~「空想科学研究所」より~
  8. ユニークな名前を持つ配位子

注目情報

ピックアップ記事

  1. 金城 玲 Rei Kinjo
  2. 2007年度ノーベル化学賞を予想!(1)
  3. MIT、空気中から低濃度の二酸化炭素を除去できる新手法を開発
  4. Chem-Stationついに7周年!
  5. 化学者のためのエレクトロニクス入門⑤ ~ディスプレイ分野などで活躍する化学メーカー編~~
  6. 第140回―「製薬企業のプロセス化学研究を追究する」Ed Grabowski博士
  7. ジムロート転位 (ANRORC 型) Dimroth Rearrangement via An ANRORC Mechanism
  8. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  9. 天然物化学談話会
  10. 解毒薬のはなし その2 化学兵器系-1

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2007年6月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP