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化学者のつぶやき

カルボン酸β位のC–Hをベターに臭素化できる配位子さん!

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カルボン酸のb位C(sp3)–H結合を直接臭素化できるイソキノリン配位子が開発された。イソキノリンに基質と水素結合が可能なリンカーを導入したことによる、基質-触媒間のマクロシクロファン構造の構築が鍵である。

カルボン酸のC(sp3)–H官能基化と臭素化

カルボン酸は天然物や医薬品に豊富に存在する。そのため、カルボン酸を足がかりとして不活性C(sp3)–H結合を直接官能基化できれば、多様な化合物へ迅速にアクセスできる。一般に遷移金属触媒によるC(sp3)–H活性化では、金属配位性の官能基が配向基(DG)として働き、反応性や位置選択性を高める。しかしカルボン酸は配位能が低いため、そのC(sp3)–H(b位)官能基化は報告例が少ない[1]。特に、C(sp3)–H臭素化では金属-臭素結合が強く、還元的脱離が困難なため、カルボン酸をより配位能の高い配向基に変換する必要があり、その変換と除去に工程数を要する(図 1A)[2]

以前より著者らは、「配位能が低いカルボン酸のC(sp3)–H官能基化」に独自の配位子の活用で解決を図っており[3]、臭素化においても配位子開発により課題解決の糸口を見つけた。すなわち、キノリンL1を配位子とすると、パラジウム触媒によるカルボン酸のβ位C(sp3)–H臭素化が進行することを見いだした(図 1B)[4]。しかし、報告例はピバル酸1例のみ(主基質はアミド)であり、より配位能の低いα-3級カルボン酸には適用できなかった。その理由を、臭素化剤NBSから生じたスクシンイミドがカルボン酸より優先してパラジウム(II)に配位するためであると考えた。今回著者らは、キノリン配位子にカルボン酸と金属触媒の相互作用を高める機能を付与すれば、カルボン酸が優先的に配位すると想定した。実際、カルボン酸と水素結合を形成できる適切なリンカーをもつ配位子を設計・用いたところ、α-3級を含む多様なカルボン酸でβ位C(sp3)–H臭素化が進行することを発見した(図 1C)。

図1. Pd触媒を用いた位C(sp3)–H臭素化 (A) より配位能の高い配向基を用いる (B) カルボン酸のまま反応(ピバル酸のみ)(C) 本研究

 

“Enhancing Substrate–Metal Catalyst Affinity via Hydrogen Bonding: Pd(II)-Catalyzed β-C(sp3)–H Bromination of Free Carboxylic Acids”
Hu, L.; Meng, G.; Chen, X.; Yoon, J. S.; Shan, J.-R.; Chekshin, N.; Strassfeld, D. A.; Sheng, T.; Zhuang, Z.; Jazzar, R.; Bertrand, G.; Houk, K. N.; Yu, J.-Q. J. Am. Chem. Soc, 2023. 145, 16297–16304.
DOI: 10.1021/jacs.3c04223

論文著者の紹介

研究者:Rodolphe Jazzar

研究者の経歴:

1998                               B.Sc., University of Poitiers, France
1998–1999 M.Sc., University of Liverpool, UK (Prof. S. Higgins) 
1999–2003 Ph.D., University of Bath, UK (Prof. M. Whittlesey)
2003–2008 Postdoc, University of Geneva, Switzerland (Prof. E. P. Kundig), University of California,Riverside, USA (Prof. G. Bertrand), Claude Bernard University Lyon 1, France (Prof. O. Baudoin)
2008–2014 CNRS Research Associate, Claude Bernard University Lyon 1, France (Prof. O. Baudoin)
2014–                           CNRS Research Associate, University of California, San Diego, USA

研究内容:CAAC配位子を用いた反応開発

研究者:Guy Bertrand

研究者の経歴:

1979 Ph.D., University of Paul Sabatier, France
1980–1981 Research Associate, Sanofi-Recherche Company, France 
1981–1988 Research Manager, CNRS, University of Paul Sabatier, France 
1988–1998 Director, CNRS, LCC-CNRS Toulouse, France
1999–2005 Director, CNRS, University of Paul Sabatier, France
2001–2012 Professor, University of California Riverside, USA
2012–                           Professor, University of California, San Diego, USA

研究内容:アブノーマルカルベン配位子の開発

 

研究者:Kendall N. Houk

研究者の経歴:

1964–1968 Ph.D., Harvard University, USA (Prof. R. B. Woodward)
1968–1980 Assistant Professor, Associate Professor, Professor, University of Louisiana, USA
1980–1986 Professor, University of Pittsburgh, USA
1986–2021 Professor, University of California, Los Angeles (UCLA), USA
2009–2021 Saul Research Professor, Winstein Chair in Organic Chemistry, UCLA, USA
2021–                           Distinguished Research Professor, UCLA, USA

研究内容:計算化学を用いた、反応機構解明やペリ環状反応の立体選択性の予測

 

研究者:Jin-Quan Yu (余金权)

研究者の経歴:

1994–1999 Ph.D., University of Cambridge, UK (Prof. J. B. Spencer)
2001–2002 Postdoc, Harvard University, USA (Prof. E. J. Corey)
2003–2004 Research Associate, University of Cambridge, UK
2004–2007 Assistant Professor, Brandeis University, USA
2007–2010 Associate Professor, The Scripps Research Institute, USA
2010–                           Professor, The Scripps Research Institute, USA

研究内容:パラジウム触媒を用いたC–H活性化反応の開発

論文の概要

著者らは配位子検討の結果、HFIP溶媒中、カルボン酸1を配位子L2またはL3/Pd(OAc)2触媒とNBS、PIDA、AcOH存在下反応させると、臭素化体2が得られた(図 2A)。L2L3は1-フェニルイソキノリンを主骨格とし、フェニル基のメタ位にリンカーが結合している。リンカーはカルボン酸と水素結合を形成できるNHAc基をもち、その炭素数は3が最適であった。これらの配位子を用いると、先行研究と比べピバル酸の臭素化体2aを高収率で与えた。本反応ではβ位C(sp3)–Hのみが臭素化され、モノ臭素化体が選択的に得られる。またアルキル基(1b)だけでなく、ケトン(1c)や、フェニル基(1d)、トリフルオロメチル基(1e)、クロロ基(1f)、など多様な官能基を有するカルボン酸に適用可能であり、α-モノメチルカルボン酸1gでも反応が進行した(2g)。さらに、これまで困難であったα-3級カルボン酸1hのβ位C(sp3)–H臭素化も進行し、臭素化体2hを中程度の収率で与えた。臭素化に加えて、β位C(sp3)–H塩素化にも成功し、塩素化体2iが得られた。

続いて、リンカー長の異なる配位子L2およびL4とPd(OAc)2との錯体のX線結晶構造解析の結果、両者ともカルボキシラートとNHAc基間での水素結合を含む、マクロシクロファン構造を形成していることが確認された(図 2B)。しかし、水素結合距離とN–H–O結合のなす角から、L4と金属触媒の水素結合が、L2の場合よりも弱いことが示唆された。L4のリンカー長が炭素数4と長い上、gem-ジメチル基によるThorpe–Ingold効果を受けられなかったためであると考えられる。これは、L2を用いた場合の方が2aを高い収率で与えるという結果に一致し、基質-触媒間で形成される水素結合が、C(sp3)–H結合の反応性を高めることを示唆した。さらなる詳細な機構解明については論文SIを参照されたい。 

図2. (A)最適条件と基質適用範囲 (B) 金属錯体のX線構造解析 (図 2Bは論文より一部転載)

 

以上、カルボン酸と触媒のマクロシクロファン水素結合の形成により、広範なカルボン酸のβ位C(sp3)–H臭素化を可能とする新奇イソキノリン配位子が開発された。配位子を金属に配位させるのみならず、「基質を呼び寄せる」新機能をもたせることができた画期的な研究である。

参考文献

  1. He, J.; Wasa, M.; Chan, K. S. L.; Shao, Q.; Yu, J.-Q. Palladium-Catalyzed Transformations of Alkyl C–H Bonds. Chem. Rev. 2016, 117, 8754–8786. DOI: 10.1021/acs.chemrev.6b00622
  2. (a) Rit, R. K.; Yadav, M. R.; Ghosh, K.; Shankar, M.; Sahoo, A. K. Sulfoximine Assisted Pd(II)-Catalyzed Bromination and Chlorination of Primary b-C(sp3)–H Bond. Org. Lett. 2014, 16, 5258–5261. DOI: 10.1021/ol502337b (b) Yang, X.; Sun, Y.; Sun, T.; Rao, Y. Auxiliary-Assisted Palladium-Catalyzed Halogenation of Unactivated C(sp3)–H Bonds at Room Temperature. Chem. Commun. 2016, 52, 6423–6426. DOI: 10.1039/c6cc00234j
  3. (a) Zhuang, Z.; Yu, C.-B.; Chen, G.; Wu, Q.-F.; Hsiao, Y.; Joe, C. L.; Qiao, J. X.; Poss, M. A.; Yu, J.-Q. Ligand-Enabled b-C(sp3)–H Olefination of Free Carboxylic Acids. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 10363–10367. DOI: 10.1021/jacs.8b06527 (b) Zhuang, Z.; Herron, A. N.; Fan, Z.; Yu, J.-Q. Ligand-Enabled Monoselective b-C(sp3)–H Acyloxylation of Free Carboxylic Acids Using a Practical Oxidant. J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 6769–6776. DOI: 10.1021/jacs.0c01214
  4. Zhu, R.-Y.; Saint-Denis, T. G.; Shao, Y.; He, J.; Sieber, J. D.; Senanayake, C. H.; Yu, J.-Q. Ligand-Enabled Pd(II)-Catalyzed Bromination and Iodination of C(sp3)–H Bonds. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 5724–5727. DOI: 10.1021/jacs.7b02196

 

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