[スポンサーリンク]

一般的な話題

特許の基礎知識(1)そもそも「特許」って何?

[スポンサーリンク]

皆様はじめまして。この度ケムステに加えて頂いた、ハンドルネームP.A.と申します。

化学系の修士課程を修了し、現在「弁理士」として、化学・材料メーカの特許出願・権利化などの仕事をしています。

普段はひたすらパソコンに向かって文字を打ち込む地味な仕事ですが、カッコよくいえば、化学と法律の両刀を操り、研究者の汗と涙の結晶を特許にする重責を担っています。

ケムステでは、

・特許に詳しくない方のための、できるだけわかりやすい特許制度の解説(特許のイロハ)

・特許×化学、材料、医薬… に関する時事ネタ、面白トピック、ムダ知識 

などを執筆して、化学に意識の高い皆様に、特許にもより興味を持ってもらえたら、と考えています。 

本題:特許って何?

そもそも、「特許」って、どんなものなのでしょうか。なぜ、特許という制度があるのでしょうか。

ざっくり言うと、「特許」とは、ある一定の条件をクリアした有用な技術(=発明)を、発明者orその所属企業などが独占的に使用できるように、お役所(特許庁)がお墨付きを与えてくれる制度のことです。

新たな技術を開発するには多くの労力・投資が必要です。

しかし、ひとたび技術が完成してしまうと、それを真似るのは、意外に簡単なことが多いです。

苦労して開発した技術が、簡単に他人に真似されるとすれば、製品の売上で投資を回収することができません。そして、新たな技術を開発するモチベーションが湧かず、技術が発展しなくなってしまいます。

そこで、法律により、新たな技術を特許庁を通じて世に「公開」した人には、その技術を独占的に使える権利(特許権)を与えて、投資回収をしやすくし、技術開発のモチベーションを高めるようにしているのです。 

なぜ「公開」されるのか?

特許は、特許庁を通じて新技術を「公開」した人に与えられます。これはどうしてでしょうか。

それは、公開された技術をベースに、さらに新しい技術開発を促すためです。

具体的には、新しい技術Aの公開技術Aに触発された技術Bの開発技術Bの公開技術Bに触発された技術Cの開発・・・という積み重ねにより、社会全体で技術を発展させ、社会を豊かにするために、技術を「公開」した人に特許を与えるようにしているのです。

つまり、特許とは、技術者やメーカ等「特定の人」の利益を守りつつ、一方では「社会全体」として技術を発展させていくことを意図した制度なのです。

なお、特許権により十分に投資回収できた技術は、誰もが使えるようにするほうが、社会全体の利益となります。また、特許権が永久に存続すると、世の中が「特許権だらけ」になり、何をやるにも他人の特許権を侵害してしまい、却って技術の発展が阻害されてしまいます。

そこで、特許権の権利期間は「原則20年」として、「特定の人」の利益と「社会全体」の利益のバランスを取るようにしています。 

まとめ

・新たな技術を公開することの見返りに、個人に一定期間独占的な権利を与えて、モチベーションアップを図る(発明の「保護」)。

・一定期間経過後は誰もがその技術を利用できるようにして、社会全体として技術の発展を図る(発明の「利用」)。

特許とは、これら、発明の「保護と利用」のバランスにより、科学技術が継続的に発展することを目指した制度なのです。 

関連書籍

[amazonjs asin=”490306347X” locale=”JP” title=”女子大生マイの特許ファイル”] [amazonjs asin=”4798044512″ locale=”JP” title=”技術者・研究者のための特許の知識と実務 第2版”]

関連リンク

特許庁ホームページ特許・実用新案とは

Avatar photo

P.A.

投稿者の記事一覧

弁理士。都内特許事務所で化学・材料系メーカの特許出願等を担当。
特許という側面から日本の化学を盛り上げたいと考えています。

関連記事

  1. 化学物質だけでiPS細胞を作る!マウスでなんと遺伝子導入なしに成…
  2. 有機化合物のスペクトルデータベース SpectraBase
  3. 高分子討論会:ソーラーセイルIKAROS
  4. 分極したBe–Be結合で広がるベリリウムの化学
  5. 第47回ケムステVシンポ「マイクロフローケミストリー」を開催しま…
  6. 第57回若手ペプチド夏の勉強会
  7. インドールの触媒的不斉ヒドロホウ素化反応の開発
  8. 付設展示会に行…けなくなっちゃった(泣)

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヤンセン 新たな抗HIV薬の製造販売承認を取得
  2. 事故を未然に防ごう~確認しておきたい心構えと対策~
  3. 人名反応から学ぶ有機合成戦略
  4. 山元公寿 Kimihisa Yamamoto
  5. 水口 賢司 Kenji Mizuguchi
  6. ベンザイン Benzyne
  7. 武田薬、米国販売不振で11年ぶり減益 3月期連結決算
  8. 1-トリフルオロメチル-3,3-ジメチル-1,2-ベンゾヨードキソール : 1-Trifluoromethyl-3,3-dimethyl-1,2-benziodoxole
  9. 米国へ講演旅行へ行ってきました:Part II
  10. Arborisidineの初の全合成

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年6月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930

注目情報

最新記事

7th Compound Challengeが開催されます!【エントリー〆切:2026年03月02日】 集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

メルク株式会社より全世界の合成化学者と競い合うイベント、7th Compound Challenge…

乙卯研究所【急募】 有機合成化学分野(研究テーマは自由)の研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

大森 建 Ken OHMORI

大森 建(おおもり けん, 1969年 02月 12日–)は、日本の有機合成化学者。東京科学大学(I…

西川俊夫 Toshio NISHIKAWA

西川俊夫(にしかわ としお、1962年6月1日-)は、日本の有機化学者である。名古屋大学大学院生命農…

市川聡 Satoshi ICHIKAWA

市川 聡(Satoshi Ichikawa, 1971年9月28日-)は、日本の有機化学者・創薬化学…

非侵襲で使えるpH計で水溶液中のpHを測ってみた!

今回は、知っているようで知らない、なんとなく分かっているようで実は測定が難しい pH計(pHセンサー…

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP