[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

高機能・高性能シリコーン材料創製の鍵となるシロキサン結合のワンポット形成

第92回のスポットライトリサーチは、産業技術総合研究所触媒化学融合研究センターケイ素化学チーム(島田茂研究チーム長)松本和弘さんにお願いしました。

松本さんの所属するケイ素化学チームでは、有機ケイ素材料を高効率・高選択的に製造するための触媒技術開発に取り組まれています。また、ビスマス等のヘテロ元素反応剤・触媒やベースメタル触媒の開発も行われています。この度、ケイ素化学チームから構造が制御されたシロキサン化合物を一気に合成する新技術が開発・報告されました。Angewante誌のcover pictureとしても採用されています。

“By-Product-Free Siloxane-Based Formation and Programmed One-Pot Oligosiloxane Synthesis”
Kazuhiro Matsumoto, Dr. Kappam Veettil Sajna, Dr. Yasushi Satoh, Kazuhiko Sato, Shigeru Shimada
Angew. Chem., Int. Ed.  201756, 3168.  DOI: 10.1002/anie.201611623

シロキサン化合物は、従来の技術では副生成物が大量に生じたり多段階合成が必要だったりと、合成が困難とされている化合物でした。松本さんらが開発した手法は、そんな現状を打破した技術といえます。研究を第一線で遂行された松本さんについて、島田茂研究チーム長から以下のコメントをいただきました。

松本君は、九大香月先生のもとで助手を務めたあと当チームにやってきたバリバリの有機合成化学者です。打たれれば打たれるほど何かが出てくる底知れぬ能力を秘めているように感じています。先日は、日本化学会年会の一般講演で踊り?を含めた講演を披露し拍手を浴びていました。ある筋からの強い要請により仕方なく?踊りを含めることになったのですが、実にスマートにうまくまとめていました。

シリコーンは世の中に広く使われている優れた材料ですが、その合成法は意外に研究が進んでおらず精密合成とはほど遠い状況にあります。炭素とケイ素は周期表の上下関係にありますが、意外と異なった性質を持っていて合成法開発も単純に有機合成の延長とはいきません。そんな中、松本君は実にあっさりと今回の反応を開発した感があります。既にこの後に繋がるよりインパクトのある手法を見出しており、今後、ケイ素化学の進展に大きく貢献してくれるものと期待しています。

プレスリリースの発表にあたり、松本さんにインタビューをさせていただきました!ぜひお楽しみください。

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

シリコーンポリマーや機能性オリゴシロキサン化合物の主骨格はシロキサン結合(–Si–O–Si–)から成っていますが、今回その新しい形成手法を開発しました。ポイントは2つあります。1つは原理的に副生成物が生じないシロキサン結合形成法を開発したこと、もう1つは連続する2種類のシロキサン結合を一気にかつ選択的に形成できるようにしたことです。前者はイリジウム触媒によるシリルエステルのヒドロシリル化とホウ素触媒によるジシリルアセタールの転位反応をワンポットで連続して行うことによって達成し、後者は上記ワンポット2連続反応にさらにホウ素触媒によるシロキサン結合形成反応を組み合わせることで可能にしました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

前職の九州大学から産総研に移って最初の研究になるので、周りの研究者から「あいつ、違うこと始めたな」と思ってもらえる研究、恩師である故・香月勗先生の墓前に報告しても恥ずかしくない研究をしなければならないと思っていました。そのような想いで、シリコーン材料合成の基本であるシロキサン結合形成反応を眺めてみると、有機合成の基本である炭素−炭素結合形成法に比べて、遥かに選択肢が少ないことがすぐにわかりました。この状況をどうにかしなければ、望みの化合物を作ることすら儘ならないと感じ、新規シロキサン結合形成法の開発に着手しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

ただ単にシロキサン結合を作るだけでは、あまり面白くないと考えていたのですが、ある研究打ち合わせの席上で企業研究者の方が、シリコーン硬化の分野では副生成物の出ない反応が必要とされていると話されているのを聞きました。実際に私が調べた限りでは、これまでに報告されているシロキサン結合形成法はすべて“縮合”反応であり、必ず副生成物を生じることがわかりました。そこで、原理的に副生成物が生じないシロキサン結合形成法の開発を研究テーマに設定しました。ただし、シロキサン結合形成では、原理的に副生成物が生じない“付加”反応を直接使うのは現実的ではありません。ケイ素−炭素二重結合やケイ素−酸素二重結合を有する化合物は通常極めて不安定だからです。そこで、何かしらの付加反応で予め2成分を連結しておいて、その後転位反応でシロキサン結合を作るというラフな着想をしました。そこからあれこれ考えて、シリルエステルをヒドロシリル化して、そこで生じるジシリルアセタールを転位させる反応に行き着きました。この作業仮説を立てることに一番時間を費やしました。実験自体は一発目からうまく反応が進行したので、幸いにもほとんど苦労せずに済みました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

産総研に移った理由の1つが、誰かの役に立つ反応・技術を生み出したいというものです。今回プレスリリースさせていただいた研究そのものが誰かの役に立つことは正直難しいと思っていますが、この研究から発展して現在行っている研究は、大なり小なり誰かの役に立ちそうな気がしています。産総研発足以来のスローガンである「技術を社会に」を何か1つでも実践できたら、と考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

九州大学にいた頃は、シロキサン化合物はシリル系保護基を脱保護した後の成れの果てとしか思っていませんでしたが、今ではそれを真剣に作ろうとしています。研究というのは将来何がどうなるか本当にわからないものです。どのような場面でも真摯に化学と対峙する必要があると今さらながら感じています。

アカデミアに籍を置かれている方の中には、産総研で何をやっているのかご存じない方(特に理学系?)も多いかと思いますが(恥ずかしながら私は知りませんでした)、技術研修制度で来所している大学院生さんたちがたくさんいることや、実用化研究を志向しつつも基礎的な反応開発もやっていることを知っていただけたら幸いです。

なお、本研究は、経済産業省未来開拓研究プロジェクト「産業技術研究開発(革新的触媒による化学品製造プロセス技術開発プロジェクト/有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発)」(平成24~25年度)と国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」(平成26~33年度)(プロジェクトリーダー:佐藤 一彦)の一環として行われたものです。

研究者の略歴

名前:松本 和弘(まつもと かずひろ)
所属:産業技術総合研究所・触媒化学融合研究センター・ケイ素化学チーム
役職:研究員
研究テーマ:有機ケイ素化合物の合成(+触媒的不斉合成法の開発)
略歴:2007年12月九州大学大学院理学府博士後期課程中途退学(香月勗研究室)、2008年1月九州大学大学院理学研究院助教、同7月学位取得、2015年4月より現職。

The following two tabs change content below.
めぐ

めぐ

博士(理学)。大学教員。相変わらず分子の世界に思いを馳せる日々。

関連記事

  1. 複数のイオン電流を示す人工イオンチャネルの開発
  2. 分子振動と協奏する超高速励起子分裂現象の解明
  3. Reaction Plus:生成物と反応物から反応経路がわかる
  4. 反応機構を書いてみよう!~電子の矢印講座・その2~
  5. とあるカレイラの天然物〜Pallambins〜
  6. 加熱✕情熱!マイクロ波合成装置「ミューリアクター」四国計測工業
  7. 究極のエネルギーキャリアきたる?!
  8. Nature Chemistry誌のインパクトファクターが公開!…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. セブンシスターズについて① ~世を統べる資源会社~
  2. ロバート・コリュー R. J .P. Corriu
  3. 浅野・県立大教授が化学技術賞
  4. ロバート・レフコウィッツ Robert J. Lefkowitz
  5. 秋田の女子高生が「ヒル避け」特許を取得
  6. 2010年ノーベル化学賞予想―海外版
  7. お茶の水女子大学と奈良女子大学がタッグを組む!
  8. 2015年化学生物総合管理学会春季討論集会
  9. 第18回 出版業務が天職 – Catherine Goodman
  10. 科学を理解しようとしない人に科学を語ることに意味はあるのか?

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

ジェレマイア・ジョンソン Jeremiah A. Johnson

ジェレマイア・A・ジョンソン(Jeremiah A. Johnson、19xx年xx月xx日)は、ア…

電子ノートか紙のノートか

読者の方々の所属する研究室・会社では実験ノートはどのように保管、データ化されていますでしょうか?…

フランシス・アーノルド Frances H. Arnold

フランシス・ハミルトン・アーノルド(Frances Hamilton Arnold、1956年7月2…

アルキルラジカルをトリフルオロメチル化する銅錯体

中国科学院 上海有機化学研究所のChaozhong Liらは、アルキルハライドから系中生成させた炭素…

Baird芳香族性、初のエネルギー論

第126回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院工学系研究科(相田卓三教授) 博士後期課程1年の…

N末端選択的タンパク質修飾反応 N-Terminus Selective Protein Modification

N末端はタンパク鎖の中で1箇所しか存在しないため、これを標的とする修飾反応は必然的に高い位置・化学選…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP