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ケムステしごと

バイエルスドルフという会社 ~NIVEA、8×4の生みの親~

Tshozoです。女装とかそういう趣味は無いのですが嫁さん(実在)に付き合って化粧品コーナを回ることが多く、その際に気になるものを見つけましたのでその件について少しご紹介を。

百貨店の化粧品コーナというのはまぁ照明も匂いも恐ろしくLancomeとかloccitaneとかいう各暖簾の下でお姉さま方がバッキバキに顔面を固めているまさに”伏魔殿男の知らない世界”で、「ガンダムプラモが山積みになった店に喜び勇んで入っていく野郎」を見るような印象で周りを見回したところ、目に入ったのがこの商品。小さいころアカギレとかしもやけに塗った御仁も多いのではないでしょうか。

Biersdorf社 HPより引用

目にしたことのある方も多いと思いますが実は筆者が大好きなドイツの会社”Beiersdorf”(本社リンク)という会社が所有するブランドだと今回初めて知りました。これを見るまでニベアというのは花王とか資生堂とか日本のどこかの会社の1ブランドだろうとしか思ってなかったわけで、百貨店のおかげでまた知識が一つ増えたわけです。あとくどいようですがBeiersdorfを”バイヤスドルフ”と書いているサイトが多い(日本本社もそう書いてます)ですが、近い発音はタイトルのとおり”バイエルスドルフ”だと思うのですがそこんとこどうなんでしょうか。

で、この名前自体は創業者Paul Carl Beirsdorfの名前そのままなのですが、本題のブランド名”NIVEA”を調べるとラテン語で”白雪姫”という意味のようです。嘘です。ただ半分はあってまして”Nix, nivis”がラテン語で”雪, 雪のように(白い)”という大意ですので、純白のクリームが中に入っていることがこのブランド名の根本です。

上のフタを開けたところ 引用同じく

NIVEAのブランドを取り仕切る”Beiersdorf”社のマーク 引用同じく

創業者Beiersdorfと中興の祖Troplowitz
玄関に”Apotheke”と書いてある中央の写真はBiersdorf創業の薬局らしい[文献1]

ついでに言うと同社のブランドには著名なもので”8×4″というのがありまして、こちらもまた日本国内でもデオドラントスプレーの商品として有名。ドイツ語版Wikipediaにも書かれているので今更感はありますが、もともと下記の材料(Hexachlordihydroxydiphenylmethan・eが少ないのはドイツ語表記のため)の文字数32=8×4というのがこのブランド名の起源ということです。

最初期の8×4の製品製缶 koerperpuderは”ボディパウダー”のこと
右はの”Hexachlordihydroxydiphenylmethan”基本構造
略称は”ヘキサクロロフェン”で今も
殺菌剤(抗菌?)として用いられるケースも有るが
現在の同社製品には入っていないもよう

今回はまずこの白いクリームの中に何が入ってるか、加えて同社の簡単な歴史と今も続く世界展開の中身を簡単に調べてみました。

【白いクリームの謎】

同社の代表商品であるNIVEA Creme。その製品のレシピは一応公開しているようですが筆者が考えてたよりだいぶ多種多様の成分が入っており、改めてきちんと書いてみることにしました(最初に「保存料無添加”nicht enthalten: konservierungsstoffe”」と書いてます)。もしかしたら薬事法などの関係上、国内製品とEU製品では少し違ってるかもしれませんのでご注意ください。

【原材料】

Aqua, Paraffinum Liquidum, Cera Microcristallina, Glycerin, Lanolin Alcohol (Eucerit®), Paraffin, Panthenol, Magnesium Sulfate, Decyl Oleate, Octyldodecanol, Aluminum Stearates, Citric Acid, Magnesium Stearate, Limonene, Geraniol, Hydroxycitronellal, Linalool, Citronellol, Benzyl Benzoate, Cinnamyl Alcohol, Parfum

【日本語訳】

水、液状パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、グリセリン、ラノリンアルコール(Eucerit®)、パラフィン、パンテノール(ビタミンB5前駆体)、硫マグ、オレイン酸ラウリル、オクチルドデカノール、ステアリン酸アルミニウム、クエン酸、ステアリン酸マグネシウム、リモネン、ゲラニオール、ヒドロキシシトロネラール、リナロール、シトロネロール、安息香酸ベンジル、シナミルアルコール、香水

・・・色々入ってますね。自然由来成分信仰が比較的高かった家庭に居た筆者としては少し驚きでした。ワックスとか塗ったところで何ともないですし食用のものもあるくらいですからまぁ問題にはしませんけど。

で、それぞれどういう役割なのか、一部推定になりますが下記のような分類だと推定されます。

●パラフィン・マイクロクリスタリンワックス:パック保湿剤 (兼 増粘剤?) 

●グリセリン:保水性保湿剤

●ラノリンアルコール:保湿・脂質剤 

●パンテノール:抗炎・保湿剤 

●硫酸マグネシウム:浸透剤(?)

●クエン酸:酸化防止剤 

●オレイン酸ラウリル:乳化剤・界面活性剤 

●オクチルドデカノール:乳化剤・保湿剤・溶剤

●ステアリン酸アルミニウム・マグネシウム:粘稠剤 

●リモネン・ゲラニオール・ヒドロキシシトロネラール・シトロネロール・安息香酸ベンジル・シナミルアルコール:香料 一部 兼 防虫剤(?), 香料保持剤(?)

香料多いですな。しかしこれは十分な意味をもっており、例えば近江兄弟社のメンターム、上記の大塚製薬のオロナインクラシエ(旧カネボウ)の紫雲膏薬師堂の馬油など、どれも特徴がある香りですね。一発でどの薬かわかるし、もしそれでうまく症状が改善すれば頭の中に刷り込まれる。この意味を狙ったものなのではないかなと推測しています。

あと、ここで注目すべきはEuceritという登録商標化しているラノリン・ラノリンアルコールを主成分とするワックス材。この成分は上記のTroplowitzの陣頭指揮で開発された基礎材料で、もともとは羊毛を原料とするものです。原材料の羊毛を洗浄後、熱水で長時間煮て濾過(遠心分離?)して取り出すということです(が、最近の詳細なプロセスはパッと手に入りそうな資料のどこにも書いていませんでしたので、上記が現状をきちんと反映しているか若干疑問が残ります・ご注意ください)。

なお動物由来成分であるためどうしても卵や肉と同様にアレルギーになる可能性が残っているのはご注意を。最近ではラノリンアルコールに対しアレルギー有無を事前に調査できるパッチがあるようですから気にされる方は事前にチェックを受けた方がよいでしょう。

この項の最後に小ネタを1点。このクリームのパッケージは最初から青一色だったわけでなく、年代別にはこんな感じだったそうです。

個人的には1911年時点の初期のデザインもかわいいので別に続けてもらってもよかったんではと思うのですが各位いかがでしょうか。なお筆者はもう初老の域なので上記の図のうち、1959年あたりの白円の縁取りがあるタイプを使っていた記憶があります。 記事を書きながら、色々と懐かしいことを思い出した次第です。

加えてこうしたデザインの秀逸さについて少し。以前から紹介しているBASFはその創業初期にタール由来の人工染料であるindigoを合成して大きく成長したのですがその際に用いていた色見表がまたかっこいいのです。齢を取ればとるほど、商品企画やデザインにおいてはこうした美的感覚が必要になると痛感せざるを得ません。美的感覚は特に論理的でないからことのほかわからんのですが・・・

上記のBASF社150周年記念誌から引用

【バイエルスドルフ社概要とブランド展開状況】

同社に関してはここでは概要のみ。同社が発表していたり関連プレゼンで出ている図が非常にわかりやすいのでこれらを引用させていただきましょう。

Beiersdorf社 近年の売上変遷[同社HPの売上高変遷より引用]

同社の売上は2016年時点で日本円で約8700億円(1€=\130換算)と、日本国内トップの資生堂を大きく上回っており今なお拡大基調にあります。基本的に同社は何で食うているかというと「スキンケア」で、野郎だとそこまで大きな市場規模じゃないんじゃないかと感じるのですが、どうもそうじゃないんじゃないかというレベルの規模であり、ともかくこうした昔から変わらぬ「人の肌」の健康を如何に保つかという、ある意味限られた市場でここまで継続して大きな売上を誇り、伸ばしているのはなかなか類を見ないと感じます(なお利益率も10%に近づこうとしています)。

同社のスタンスを示す概念図[文献3] まさに「Security(信頼)」と「Discipline(洗練)」で、
築き上げている信頼性をもとに市場を拡大していく、
保守的ながらも
成長を続けていく戦略は一貫している

こうした売上を伸ばして行ける基本には製品の質もさることながら同社の細やかなブランド戦略があり、ここで採り上げているNIVEA, 8×4だけでなく他にも下記のようなブランドラインナップがあります。日本で見るのは記事タイトルにも書いたようにやはりNIVEAと8×4が中心で、他のブランドはFlorenaが日本国内サイトを立ち上げていますが大々的なものではなく、Eucerinも通販サイトを通じて僅かに購入できるかどうかくらいです。ここらへんは棲み分けというもんなんでしょうけど。なお本国ではEucerinが医薬品に近いような位置付けみたいですね。

ちなみに今は化粧品類と絆創膏類に集中していますが、実はこれ以外にTesaというブランド(Tesa社 日本のHP・2017年時点では既に分離して子会社化)も持っており、かぶれが原因で開発で失敗した絆創膏製品を活かして工業用テープを開発し、製品として世に出した結果出来上がった部門でもあります。現在も結構なスピードで業務を拡大していっており、この話はあまり周囲の人間も知らなかったことで、やっぱり調べてみるもんだなという気がします。

[文献3]より引用 ポイントのみ書くと、La prarireは高級路線の化粧品
下の漢字入りは中国での販売ブランド  Hansaplastはいわゆる「ばんそうこう」のブランド

同社から分離した”Tesa”ブランド
街で意識して見るとホームセンターとかでも結構売ってた

これらのブランドでやはり注目するのはNIVEA。近年このNIVEAブランドをさらに細分化させるという方向に進んでいて、たとえばNIVEA for Menという野郎狙いのスキンケア商品をシリーズ化して出してきています。筆者はものすごく適当な人間でほとんどを上記の馬油で済ませてしまうのに加え、汗をあまりかかないのでこうした製品には全く無関心だったのですが、知り合いが昼間運動をした後にその汗を抑えるのに同社の製品を使っていたのが本記事を書きだした発端の一つでもあります。

さすがに野郎が制汗剤をスプレーしているのを
ジロジロ見るわけにもいかないのでうろ覚えですが
確かこんな感じの缶だったはずです(輸入品?)

このほか研究開発にも余念が無く、こうした
「シャワーで洗い流しても肌に潤いを残す」
という、常識的には???な感じのローションも開発している

こうした製品群は「野郎NIVEA」だと語感的に汚い感じがするのでNIVEA for Menとしたのでしょう。汗や匂いに関するこうしたトラブルは女性のものだけだという印象を持っていたのですが、それは筆者の視点狭窄によるものですね。実際に「仕事中は汗をあまりかきたくない」というニーズはあるでしょうし、電車の中でおしくらまんじゅうになるような状況と考慮すると肌やスメル関係の商品の切り口は相当数隠れているという気がします。この「気になる・気にする」という細かいニーズがひしめく分野を信頼性の高い商品を基礎にしつつ開発していくのが同社で、これを100年以上続けてきたということは驚異的なことではないかと思います。筆者の小さい頃のしもやけやアカギレを綺麗に直してくれたように、こうした商品群がそれぞれの思い出になるような同社の取組みを期待しましょう。

おまけ[文献3] こうしたニセモノが出回るのは一流の証なのでしょうが・・・
中国と、何故かロシアに多いようです

【おわりに】

考えてみると100年以上(現時点で130年)続くというのはとんでもないことで、戦争やらなんやら色々はさんでいるだけに企業の底力が突き抜けてるレベルでないとまず継続出来ないものだったはず。特にドイツは国家も文化も壊滅的な打撃を受けていたにも関わらず、ですからね。近年筆者近辺の商売がかなりしんどくなっている状況を鑑みるに、「商売続けて100年間」ということの重みは尋常でないと改めて感じます。

一方、日本でも伝統ある化粧品メーカとして単一のブランドを100年近く継続されている代表例としては大島椿殿、ポーラ化粧品殿、クラブコスメ殿といった各社があり、いずれも小規模ながら存在感を発揮しています。こうした継続できている会社というのは大小規模の商品企画のうまさと言うより、きちんと根をはったブランドをもとに細かい商品群を展開してくる、その中心となる概念の作り方が巧みであり一貫しているからなのでしょう。もっとも、それを受け入れる消費者自体の文化次第で継続できるかという点でも決まる気がしますが。

ともかく願わくばこうした長生きする商品群が日本からも続けて出てくることを祈りつつ、今回はこんなところで。

【本文以外の主要参考文献】

[文献1] バイエルスドルフ本社サイト こちら

[文献2] バイエルスドルフ日本サイト(ニベア花王) こちら

[文献3] 同社プレゼンテーション群 こちら こちら こちら こちら こちら

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Tshozo

Tshozo

メーカ開発経験者(電気)。54歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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